見出し画像

ショーハショーテンを読んだ

 ショーハショーテンの7巻が発売された。おもしろかった。
 面白かったので、今日はこの話をしようと思う。途中までは未読者へのプレゼンを意識して、途中までネタバレはなしでいくぞ。

 ショーハショーテンは、ジャンプスクエアで連載中の青春漫画だ。「お笑い」に挑む高校生たちを描いた作品で、原作はM-1出場経験のあるミステリー小説家 浅倉秋成、作画は押しも押されもせぬ名漫画家の小畑健が務める。

 ラジオでネタ投稿を続けまくって、ネタ作りの天才となった主人公が、元天才子役であった同級生に誘われて、お笑いコンビを目指す話だ。「ネタ作りの天才」+「演技の天才」という組み合わせが上手い。成長の要素を残しつつ、素人がいきなり漫才やコントをやっても面白い理由に説得力がある。

 僕はこの作品を友人から勧められた時、「お笑いについてのロジックの解説がおもしろい」と言われた。人が笑うという行為について徹底的に分析して、ネタの完成度だけではなく、会場の空気感や客のコンディションなども含めた、総合的な「お笑い」について解剖している漫画だ。
 基本的には会場が温まっているトリの方が笑ってもらえるし、トップバッターは客が重くてあまり笑いが取れない。こういった、ネタや演技などではどうしようもないアンコントローラブルな部分を、時には工夫、時にはパワープレイでブチ抜いていく。単に「ネタが面白い/つまらない」だけには留まらない、多角的な視点が勝敗に影響するので、緊張感があるのだ。

 言ってしまえば、従来のグルメ漫画に、「味」だけではなく「経営」や「マーケティング」の視点を持ち込んだ、「らーめん発見伝」のようなものである。
 らーめん発見伝は、「味のわかる人にはわかるが、一般ウケしないので負け」「味は互角だが、食材を安定供給できないので負け」というような展開が多くあり、勝敗に対する納得感が高かった。同じようなことを、「ショーハショーテン」でもしているわけだ。

 この、多角的な視点の持ち込みは、展開に緊張感や納得感を与えるだけではなく、「なんか読んでるだけでお笑いに詳しくなれる感」を出すのにも大きく寄与している。
 僕はそれまでお笑いのことなんかまったくわからなかったのに、M-1やR-1を腕を組みながら「賞レースのトップバッターって大変だよね~」と思うようになった。要するに知識欲を刺激されてキモチ良くなれるのだ。
 知識が増えれば、世の中の楽しみ方も広がる。世界の色彩がより豊かになる。「ショーハショーテン」は、そういう側面もある漫画だ。

 原作がミステリー作家ということもあって、展開の仕込みが上手く、ドラマ面もしっかり面白い。
 主人公の相方まわりのエピソードは「ちょっと重くね!?」と思わなくもないし、主人公まわりのエピソードは、とある理由で無駄にハラハラさせてきたりするのも、個人的にはちょっと……と思うのだが、それはそれとしてドラマは面白いしサブキャラも良い。

 ストーリーは中盤から、高校生芸人のお笑い賞レースがメインになる。なので、主人公コンビ以外にもバンバン色んなコンビが出て来る。
 当然、個性の押し出し方も多彩なわけだが、それぞれの芸風に「あー、こういう芸人いそう~!」って思ってしまう感じが良い。演技は下手だがキャラの濃いツッコミ役を常識人風のボケ役が支えるコンビとか、心に残るオリジナルの言い回しを多用するコンビとか、強面や不愛想を押し出したキャラ漫才をする奴らなんかもいる。どれも「なんかいそう」なのだ。
 そうした解像度の高さがあるから、どのコンビのネタも面白い。作中の漫才を「笑える」かどうかは人それぞれだが、「面白い」のは間違いない。

 関係ないんだけど、プロの芸人のキャラも結構いる。「大和軍鶏」の「嵐山」というキャラは結構華のあるビジュアルとキャラ性で、作中世界でも人気の高いスター芸人なんだろうなーという印象。
 プロ芸人はみんな格が高いのだが、駆け出しのころにドッキリにかけられたりして激しめのリアクションしてたりすんのかなと思うと、ちょっと微笑ましい。


 ここから先は、ネタバレ込みで話す
 ここまで読んで興味を持った人はぜひ読んでみてね。ここにページ置いておくからね。


 6巻ラストのガラ靴がすげー気持ちよかったので、そこに続く7巻は楽しみだった。
 2番手の神風出世魚は、6巻の時点で「なんかダメそうだな……」と思っていました。まぁ実際ダメでしたね。そりゃそうだって感じだけど、「プレッシャーに呑まれてタイミングをずらしてしまう」というミスが、賞レースならではの生々しさで良かったと思う。これ、即時採点制だから観客も浮足立ってるところがあったわけだしね……。
 3番手のいわしつよし。事実上、絶サンのヘイトを上乗せするための演出だったように思う。エピソードは悪くないんだけど、「先輩の面白いネタを大舞台で披露する」という目的と、思想を込めすぎたネタが、「笑わせるためじゃないんだな」という感じがした。「お笑いに対しての向き合い方」にシビアな作品なので、まぁこういう結果だよね、と。

 というわけで、7巻のメインはぶるーたすになる。泥谷のキャラ性は、まぁこういう感じだよねというところを外してこなかったが、椚が太陽の母親を笑わせた現場に居合わせていたのは驚きだった。過去の話を読み返すと、確かにちゃんと泥谷がいる! いるし、「洗って返せよ」のエピソードも、実はちゃんとやっている!
 でも、個人的にはそれ以上に良かったのは相方の新田だった。こういう、「塞ぎ込んだひねくれ者にずっと構ってくれるキャラ」に僕は弱い。「漫才とコントの違いを理解したぜ」というセリフが、こいつのキャラ性をすごく端的に表していていいと思った。

 個人的には、ぶるーたすもガラ靴にはギリ届かないんじゃないかなぁと思う。泥谷の気持ちの問題ほぼ解決しちゃってるし。ガラ靴越えするのはシュプレヒコールがいいな。今のところ、序盤から出てるわりに良いところほとんどないので、ここで意地を見せてほしい。
 問題はシュプレの直後がライジンなので、ここで勝ってもまた噛ませになってしまいそうな雰囲気が強いということだけども……。

 あと最後のみずはのシーン! あれ要る!? すごいモヤモヤした気持ちのまま読み終わっちゃった!! しかも別に次の話で回収される保証もねぇんだよなぁ!
 なんやかんや言いつつめちゃくちゃ楽しんでおります。次巻も楽しみ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?