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紅音也の話

 好きな女性キャラの類型について言及するのは、やたらカロリーを使う。
 なのでちょっと休憩して、今回は、好きな男キャラの類型……というか、単純に推しのプレゼンをしようと思う。

 「仮面ライダーキバ」に登場する、「紅音也」という男について語りたい。

 仮面ライダーキバは、2008年の「現代」の話と1986年の「過去」の話を同時並行で進めていくという、挑戦的な試みがされた作品だ。過去編の主人公が、現代編の主人公「紅渡」の父親、「紅音也」である。

 キバは吸血鬼をモチーフとした伝奇テイストの作風で、渡は吸血鬼の王の証である「キバの鎧(CV:杉田智和)」を継承している。だが、渡の父親である音也は正真正銘の人間だ。どうやら音也は渡が生まれる前に死んでいるようで、母親についても、開始時点では謎が多い。
 もうひとつ、キバの物語において軸となっているのが、「音楽」だ。
 渡は引きこもり陰キャのバイオリン職人であり、亡き父=音也が遺したバイオリンを大事にしている。
 一方、音也は凄腕のバイオリニストだ。同時に女好きの人格破綻者でもあり、どこかアマデウス・モーツァルトを髣髴とさせる。

 ここから先は、音也に絞って話をしていこう。
 僕が音也の好きなところは、彼が「戦士」ではなかったところだと思う。女好きの人格破綻者、だが、音楽と愛した女性に対しては真摯であり、彼の奏でる演奏は聴く者の心を奪う。戦う人間のパーソナリティではないのだ。

 だが、音也は作中で「戦う」ことを選ぶ。
 彼は、とある女性を守るため、吸血鬼ハンターの組織が開発した「イクサ・システム」を装着し、仮面ライダーイクサとなる。
 井上敏樹脚本の特徴として、「装着系の変身システムは、変身者がコロコロ変わる」というものがあるが、本作のイクサもそうだ。過去編では本来の変身者(正体は組織に潜伏していた狼男)から奪って変身しているし、現代編においては、アップデートされたイクサを別の人間が装着している。
 この「本来の変身者ではない」という設定が、音也を「戦士」のイメージから良い具合に遠ざけていると思う。変身システムは、「力」ではなくて、あくまでも「道具」だ。現代編の変身者はイクサを「力」と捉え、それゆえのストーリーが展開されているので、なおさらそう感じる。

 初期のイクサシステムはプロトタイプであり、戦うために鍛えていない音也の身体には負担がかかる。女の前で散々カッコつけた後、一人になってからどっと倒れ込むシーンとかがあった(と記憶している)りして、こういうわかりやすくあざとい部分とかも好きだった。
 音也は、自分が大切だと思うものの為なら、我が身を省みずに挑むことができる男だ。「戦士」ではないが、間違いなく「ヒーロー」ではある。

 物語の後半において、音也は吸血鬼の王妃と恋に落ちる。当然ながら、吸血鬼の王には不審がられ、やがては怒りを買うことになる。
 まったくの余談だが、この王は王妃への扱いがかなり悪いDV夫でありつつも、王妃を愛していたことは間違いないらしい。初めて音也と出会った時、嫉妬のあまり彼の歩いた後に炎の足跡が残るという、訳のわからない演出がとても印象的だった。

 吸血鬼の王は「キバの鎧」を身に着け、王妃の前で音也を痛めつける。そんな音也を守るため、怪人態になって王と対峙する真夜。最終的に音也は助かるのだが、真夜は吸血鬼としての力を奪われるという罰を受ける。
 その後、音也と王の二度目の対峙の際、音也は王の纏う「キバの鎧」に対して、「力を貸せ」と叫ぶ。王妃と親友同士であったキバの鎧は、王が王妃にした仕打ちを思い、音也の意思を汲む。こうして音也は「仮面ライダーダークキバ」に変身する。

 当然、吸血鬼だからこそ耐えられる「キバの鎧」を、ただの人間が装着して無事なはずがない。命を急激にすり減らすことになる。
 イクサシステムにせよキバの鎧にせよ、音也の変身には大きなリスクが伴うわけで、これもまた、彼が本来「戦士ではない」ということを強調していると思う。

 音也がキバの鎧をまとってなお、王の力は圧倒的であり、変身解除された音也は今度はイクサを装着して王に抗う。
 最後は、未来(現代編)から来た息子の渡と共闘し、ダブルキバとなって、なんとか王の撃破に成功する。だがその時点で、すでに音也の命はもはや……というのが、紅音也の物語だ。

 この記事を書きながら、キバを飛ばし飛ばし見直したりしていたのだが、音也、マジで「戦闘後にダメージを負ってる」描写が多すぎる。
 一見して自己中心的で、他人のために我が身を犠牲にしたりしなさそうだからこそ、そういった描写が映えるのもそうだが、僕が「音也は戦士ではない」という印象を抱くのはこういった描写の多さからだったんだなと改めて実感した。
 ダークキバへの変身シーケンスも、本当に苦しそうな演技をしながらなのだ。この辺、演者である武田航平の色気も相まって壮絶である。「生命エネルギーを吸われて変身する」という説得力がすごい。

 音也は基本的に迷いのないキャラなので、愛する者のためにカラッと命をかけ、カラッと死んでいく。
 その強烈な生きざまが影響を与えたのは女性だけではなく、当初は敵対していた狼男を始めとしたモンスターたち、キバの鎧、そして未来から来た息子の渡にも影響を与え、なんらかのバトンを渡した。

 ナンパなキャラが、愛した女性には一途だったりするのが好きなのは、おそらく音也の影響が大きい。というか、基本的に男が惚れた側をやるのが好きなのは、1/3くらいは彼の影響だ。
 その性格ゆえに、女性からは本気にされず適当にあしらわれている男が、本気と意地で相手を振り向かせるの、良いよね……。

 紅音也みたいなキャラを実際にやるかどうかはともかくとして、一見飄々としていて軽い態度の男キャラは、僕は割と得意な方だ。ただ、このキャラを作品に配置するなら、僕は主人公にしてしまうと思う。
 その場合のヒロインは、音無響子みたいなタイプか、風野灯織みたいなタイプが良いな。
 最初からカッコよさえを描きやすいタイプなので、初速が必要な話とかには向いてそうだなと思う。

追記:
 音也が「戦士ではない」という印象を抱く理由がもうひとつわかった。
 彼は、一応番組上は「仮面ライダーイクサ/紅音也」と表記されるが、やはりシナリオ上は「仮面ライダーイクサ」でも「仮面ライダーダークキバ」でもないからだと思う。戦士としての名前が無いのだ。
 イクサは名護啓介だし、ダークキバは過去キングだ。あくまでも、紅音也という人間が、たまたまそのふたつに変身する機会があった。言語化するとこんな感じかな。

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