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悪の王子様の話 その2

 以前、メギド王子の話をした。
 のちのスーパー戦隊シリーズにも、メギド王子のフォロワー的なキャラは何人かいるのだが、今回はその中でも、「海賊戦隊ゴーカイジャー」に登場したワルズ・ギルについて話す。
 メギド王子になれなかった、孤独な悪の王子の話だ。

 ゴーカイジャーの敵は、全宇宙にその勢力を広げる巨大な宇宙帝国である。ワルズ・ギルは、その皇帝の息子である。傲岸不遜で、父親の権力を傘に着たような態度が目立つ小心者。すなわち悪のスネ夫だ。
 そんなワルズだが、地球侵略の指揮官に任命され、大量の艦隊と優秀な部下を率いて地球にやってくる。帝国最強の将軍と帝国一の女科学者なので、マジで優秀な部下だ。だがそんな二人も、ワルズのバカ王子っぷりには手を焼いており、特に将軍の方は何度も王子に諫言を呈している。

 悪役ではあるが、コメディリリーフとして可愛げのある描かれ方をされており、「うるさいうるさいうるさい!」だの「バカバカバカバカ!」だの、ちょっと子供っぽい言動が目立っていた。

 そんなワルズの運命も、終盤で急転直下を迎える。
 敗戦続きのワルズの元に、皇帝から新兵器の贈り物が届く。「これさえあれば、ゴーカイジャーなど恐るるに足らず」と意気込み、出陣を決意するワルズ。将軍が毎度のようにそれを窘めるが、ここに来て溜まりにたまったワルズの怒りが爆発する。
 将軍が陰で自分のことをどう思っていたか。地球侵攻に際し、将軍が皇帝とどのような会話を交わしたか。ワルズはすべて知っていた。
「殿下にはまだ荷が重すぎるのでは!?」
「お前がいれば、地球を征服することなど容易い」
 将軍は内心で自分を見下していたし、父にも将軍さえいれば地球など簡単に征服できると思われていた。ワルズには将軍に対して強い猜疑心と嫉妬心が芽生えていて、だからこそ、彼の諫言を頑なに聞き入れてこなかったのだ。

 ワルズは、唯一自分が信頼する直臣のサイボーグを引き連れて、新兵器と共に出陣する。
 サイボーグに対してワルズは、将軍や父を見返したいという本心を語り、「俺は独りだ。おまえがいなければな」と、サイボーグにだけ心を開いている様子を見せる。
 このサイボーグは、ゴーカイブルーの師匠が帝国に捕まって改造された姿であり、脳改造手術も終わっている。要するにただのお人形なのだ。この事実がめちゃくちゃ悲しい。

 で、新兵器の力でワルズは勝つ。そう、ゴーカイジャー側の負けイベなのだ。だが、負けを乗り越えるイベントの中で、ゴーカイジャーはブルーの師匠の魂を解放する。つまりサイボーグが倒される。

 唯一の友を失ったワルズは弔い合戦に赴くが、新たな力を手にしたゴーカイジャーに歯が立たず、命を落としてしまう。

 このような末路を辿ってしまったワルズだが、実は内政方面ではそれなりに優秀だったのではないかと思っている。札束を手にしたときに、1枚だけ抜かれていることに気づいたり、「大事なお金」などと口にしたり、経済面に関しては割としっかりした感覚を持ってそうなのだ。
 そういう諸々の事情を加味すると、『親父が悪いよなぁ……』という感想になる。この宇宙帝国は皇帝本人が自らの武勇で勢力を拡大させたようなものだから、可愛い息子に武勲を立てさせたかったのかもしれないが。

 将軍もとばっちりだ。このあと、皇帝や皇帝の親衛隊から、ワルズを死なせたことをめちゃくちゃ詰められる。
 実はワルズは、将軍に出撃の許可を出したことは一度もない。将軍を出撃させて勝っても、それは結局将軍の力で自分の功績ではない、と思い込んでしまったのだろう。実際、将軍はこの後、単騎でゴーカイジャー全員を相手どり、一度勝っている。ゴーカイジャー側の装備が充実していない序盤に出てくれば、あっさりケリはついていた。

 猜疑心と劣等感から破滅に進んでしまったのは、先日記事を書いたロックウェル卿と同じだ。ワルズが内政に優れているというのは、単なる個人的な考察に過ぎないが、「もっと別の活躍ができたのになぁ」と思ってしまうところも同じかもしれない。
 おそらく、悪役が辿る好きな破滅の累計のひとつなんだと思った。抱えていた心の闇を、振り払えるかどうか。振り払えれば、メギド王子やハドラーのようになれるし、振り払えなければ、ワルズやロックウェルのようになる。そうした心の闇は、ヒーローにも、我々凡人にも生じうる身近なものであって、だからこそ、彼らの末路に感じ入ってしまうものがあるんだと思った。

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