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円子令司の話

 昨日に引き続き、アイシールド21の話をする。
 好きなキャラのことを考えれば枚挙に暇がない本作だが、「じゃあ一番好きなのは?」と言われたら、僕は白秋ダイナソーズのクォーターバックであるマルコ――円子令司を挙げる。

 これまで僕が様々なキャラクターや作品を咀嚼してきた中で、ある程度の傾向と分類が見えてきた。その分類に則った場合、彼は特異な存在である。
 というわけで円子令司の話だ。
 彼は、「変化の不受容」と「挑戦者」という、ふたつの性質を併せ持つ。

 マルコは、白秋に入学して早々、アメフト部のマネージャーをしている先輩に告白する。「必ず全国大会決勝で、先輩に勝利の朝日を見せてあげますよ」というセリフで彼女のハートを射止めた。
 だがマルコが直面したのは、あまりにも高すぎる現実の壁だった。高校アメフトの全国大会は、関西のとある高校が頂点を取り続けており、その実力は、白秋が苦戦する関東の雄さえもねじ伏せる圧倒的なもの。
 関東の高校アメフト選手は、みなこの現実に心を折ってきた。マネージャーは「叶わない夢でもいい。あなただけはずっとそれを信じ続けて」と言うが、マルコの答えは違った。

 勝利をもぎ取るため、あらゆる手を尽くす。「相手の選手を試合中に破壊する」という戦い方を始めとした、ダーティで手段を択ばないような戦術。
 その苛烈なやり口に、マネージャーとの関係も冷え切っていく。

 マネージャーの心が離れていっても、マルコはその戦術を手放すことはなかった。今さら止まれないのだ。「先輩に勝利の朝日を見せる」というあの日の言葉は、彼にとって最後の縁でもあった。
 これは僕の好きな悪役が擁する「変化の不受容」の要素だ。
 結果、白秋ダイナソーズは敗北し、マルコはすべてを失う。先輩であるマネージャーは、来年には卒業だ。彼女に勝利の朝日を見せるという宣言は、叶わないものとなった。

 ロッカールームでひとり座り込むマルコの隣に、マネージャーがやってきて、同じように座り込む。マルコとしては当然、今の自分を彼女には見られたくなかったわけだが、マネージャーはそんなのは無視だ。
 結局自分は何がしたかったのか、とつぶやくマルコに対してのマネージャーの答えはこうだ。「勝ちたかった。ただそれだけでしょう。あなたは他の誰よりも、アメフト選手だもの」

 マネージャーが、結局のところ、マルコに愛想を尽かすことができなかったのは、彼が純粋な「挑戦者」――アメフト選手であり続けたからだ。自分に告白してきた頃の彼と、そこは何ひとつ変わっていない。
 そんなことにも気づかず、自分のやり方でマネージャーには愛想を尽かされたと勝手に思い込んでるあたりもまた、僕の好きな悪役らしい視野狭窄と言えるだろう。こういう奴らは大事なことを見落としがちだ。

 悪役としてのマルコのストーリーはここで終わりだ。彼はこのあと、世界大会編で日本代表のメンバーとして選抜される。まぁ、出番らしい出番はほとんど無いのだが、世界大会編で焦点の当たるキャラの中に、同じ白秋ダイナソーズの「峨王力哉」がいる。
 ここでは彼も「挑戦者」のひとりであり、パワーと才能で上回る海外選手から「何故勝てない相手に立ち向かうのか?」と尋ねられる。彼の答えは「頂を見たときにそんな小難しいことは考えない。ただ、登る。そういうものじゃないのか?」というものだった。そして、「少なくとも、俺が信頼するマルコという男はそうしてきた」と付け加える。
 マルコは狡賢い悪党であり、峨王は戦いを求めるバーサーカーである。彼らが何故信頼し合うチームとして成り立っていたのか、それに対するアンサーとして、実に納得のいく答えだった。「挑戦者」としてのシンパシーである。

 マルコを見る限り、「変化の不受容」という属性と、「挑戦者」という属性は併せ持つことが可能だ。
 おそらくは、ヒーローであっても成立する属性ではあるだろう。だが、「変化の不受容」はどこかで打破、あるいは破棄されなければ、ヒーローにはなり得ない。
 一方で、ヴィランであっても「挑戦者」という属性を持ち続けることは可能だ。でも、おそらく「変化の不受容」のような、主人公と相容れない要素を持ち合わせていないと成立しない。ロックウェルやワルズ・ギルなんかも、ある種「挑戦者」ではあったと思うし。メギド王子もそうだな。

 こうして考えると、「挑戦者」はヒーローに求める要素というよりも、色んなキャラクターに備わりうる普遍的な魅力な気はしてきてしまう。
 この「挑戦」という言葉は、無制限に使うべきではないかもしれない。もっと狭義の意味を持つ言葉として再定義する必要がありそうだ。やっぱり「再起と挑戦」かな。打ちのめされた地点から、一歩前に進めるかどうか。ここが、ヒーローに求める「挑戦者」の要素だと思う。

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