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「月がきれいですね」シナリオ②

【テーマ】
大麦こむぎさんの『月がきれいですね』

【シナリオ】
○都内の宇宙センター(もしくはプラネタリウム)
  子供達が大勢いる。
  1人で施設を満面の笑みで見学している女子大学生の美月(20)。
美月「♪♪(ご機嫌な様子)」
  子供達、案内人、美月を気持ち悪くみている。

○同・食堂
  美月、一人でご飯を食べている。
  机には宇宙飛行士やロケットのフィギアを置いている。
美月「?」
  美月、机に置かれているキャンペーンの応募案内をみる。
  案内には『全国の宇宙センターの年間パスポートをあてよう!!』と書かれQRコードがある。
美月「これは応募しなくては!」
  美月、スマホでQRコードを読み取り応募ページを開く。
美月「名前、メールアドレス、これでよしっと……ん?アンケート?」
  スマホ画面には『最後のアンケートのお願い』と書かれており、
  『次のうちあなたが失ってもいいものは何?①好き②懐中電灯③折り畳みチェア』と続いている。
美月「変な質問……簡単すぎる……」
  美月、バックの中をみると懐中電灯と折り畳みチェアが入っている。
美月「懐中電灯も折り畳みチェアも天体観測にはマストアイテム……好きなんて別になくなっても天体観測にはなんも困んない」
  美月、『好き』を押す。と『応募ありがとうございます!』のページが表示される。
美月「……」

○美月の自宅・翌日・夕方
  目覚ましのアラームで目を覚ます美月。
  部屋には大量の天体観測グッズが置かれている。
  スマホを見るとメッセージが一件届いており、開くと『年間パスポート当選です!』との内容。
美月「やったーー!!」
  ベッドから飛び起きる。
  美月、ロケットのフィギアを持って。
美月「(楽しそうに)ずっと行ってみた方ロケット発射台がみれる……せっかくだから現地で星もみたいな……月の衛星のことももっと調べなきゃ……」
  美月、興奮した様子で時計を見る。
美月「やばい!バイト遅刻しちゃう!」
  急いで着替え始める美月。

○同・玄関
  靴を履いて出かけようとする美月。
美月「いってきまーす!」
母(声)「ご飯は食べなくていいのー?」
美月「バイト遅刻しちゃうから!それに宇宙食持ったから大丈夫!」

○とある居酒屋・ホール(夜)
  サラリーマンの接客をしている美月。
美月「お飲み物はどうしますか?」
サラリーマン「お姉さんのおすすめは?」
美月「そうですねー……ハイボールは好きですか?」
サラリーマン「ん?ハイボールが何て?(酔っ払いながら)」
美月「だから、ハイボール好きですかってことです(少し大きな声で)」
サラリーマン「だから『好き』ってなに?(笑って)」
美月「え」
サラリーマン「まあいいや、ハイボールちょうだいよ」
  サラリーマン、仲間たちとの会話に戻る。
美月「……」
  困惑しながら移動する美月。
店員「お料理お願いしまーす!」
美月「(はっとして)はい、ただいま!」

×    ×     ×

店員「美月ちゃん、今日のまかないどうする?」
美月「(楽しそうに)私の好きなの知ってるくせにー!」
店員「何それ?」
美月「え……だから親子丼です……」
店員「あ、親子丼ね(笑って)……すぐ作るから休憩室で待ってて!」
美月「……はい」

○同・休憩室
  美月、休憩室に戻って座る。
美月「何かみんな変なの……」
  スマホを開くと『当選おめでとうございます』のページ。

×     ×     ×
フラッシュ。スマホ画面。
『次のうちあなたが失ってもいいものは何?①好き②懐中電灯③折り畳みチェア』のページ。
×     ×     ×

美月「まさかね……(冗談まじりに)」
  と、店員がまかないを持ってきて。
店員「はい、親子丼ね!」
美月「ありがとうございます!」
店員「あ、さっき常連の星野さんが来たよ、相変わらずかっこいいわ……贔屓にしてあげてね(笑って)」
美月「相変わらず、あの人のこと好きですよね(呆れて)」
店員「ん?」
美月「なんでもないです。了解です(笑って)」
店員、部屋を出ていく。
美月、スマホで『好き』と検索する。と検索結果が0件で表示される。
美月「嘘……『好き』が消えてる……」
  と、アプリから『今夜は満月。明日は天体観測日和』と通知が入る。
美月「……ま、いっか。別に私は困んないし……そもそも誰も『好き』とか知らなそうだし……」

○同・ホール
  ホールに戻る美月、爽やかな見た目の星野(22)をみつけて。
美月「星野さん!今日も来てくれたんですね嬉しいです!」
星野「あ、美月ちゃん!」
  星野の友人、二人を茶化している様子。
  星野、少し照れた表情で。
星野「あのさ美月ちゃん……」
美月「はい?」
星野「……今日の月綺麗だね……」
  間。
美月「……(徐々に嬉しさがこみあげてきて)はい!!とっても綺麗です!」
  星野、ホッとした表情。周りは『やったじゃん』とはやしたてる。
星野「今日バイト終わったら……」
美月「はい!月、みましょう!」
店員(声)「お料理お願いします!」
美月「あ、私呼ばれたので行きますね!またバイト終わりに(笑顔で)」
星野「……うん」
  美月、その場を立ち去る。

○とある河川敷(夜)
  人気のない河川敷。
  美月と星野が座っている。
  美月、夜空をみて。
美月「わあ……本当に今日の月綺麗……でもびっくりしました星野さんも天体が好きなんて」
星野「美月ちゃん……」
美月「はい?(といいながら星野の方に顔を向ける)」
  星野、突然美月にキスをする。
美月「!?」
  美月、我に返って星野をビンタする。
星野「……(頬を抑えて)何で?OKしてくれたじゃん……俺達もう付き合ってるんだし……」
美月「は?意味わかんないです!こんなことOKしてないです!」
星野「だって『月がきれいですね』て告白したのを『きれいですね』って返してくれたじゃん!」
美月「何それ……」
星野「夏目漱石の愛の告白だよ……告白はこの言葉って一般常識だろ!」
美月「じゃあ好きって言えば……」

×     ×     ×
フラッシュ。休憩室。
『好き』の検索結果が0件のスマホページ。
×     ×     ×

美月「……」
   美月、夜空を見上げてオリオン座をみつける。
美月(声)「……オリオン様、どうしましょう……『好き』がなくなったせいで私の月が汚れ始めました……」


(つづく)

※以前ヒューストンのNASAに行ったときに子供向けのアトラクションがありました。そこを1人で遊びに来ているくらいの天体マニアな主人公を想像しました。