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「月がきれいですね」シナリオ⑥

【テーマ】
大麦こむぎさんの『月がきれいですね』

【シナリオ】
○西高校・屋上
  ひっくり返ったお弁当。
  冷えたコンクリートの床があたり一面に広がる。
  校旗がはためく音、そこに混じって理絵(17)と時生(17)が口論している。
時生「作るって言ったじゃん!キャラ弁の弁当!」
理絵「だから今更弁当でラブラブ度アピールとか厳しいって言ってるじゃん」
時生「だって周りのカップル皆してるんだよ!うちらも小学校からの最長カップルとして負けないように写真撮って投稿しなきゃ!」
理絵「別に周りと比較しなくたってよくない?うちらはうちらだし……」
時生「なにそれ?俺のこと好きじゃないってこと?」
理絵「だからそうじゃないって……」
理絵(声)「付き合い長すぎで今更そんなストレートな愛情表現とかできないから……」
時生「わかった……じゃあ……」
  時生、フェンスをよじ登ってヘリに立つ。
時生「俺が死ぬのと、好きっていうのどっちがいいの……」
理絵「ねえ、男なのにメンヘラすぎ、もういいよ」
  理絵、怒ってその場を立ち去ろうとする。
理絵(声)「私達はいつもケンカしてる……でもそういう遺伝子なのかな……」

○理絵の家(回想)
  晩御飯を食べている。理絵と両親。
  父理一と母絵里はどちらも気性が荒く、お互い睨み合っている。
父「なんだこのマズいご飯は?」
母「あんたが帰ってくんのが遅くて冷めちまったんだよ」
  怒りの形相でお互いをみる。

○西高校・屋上に通じる階段(回想戻り)
 階段を下りる理絵。
理絵(声)「結果あんな風にいがみ合うんだったら最初っから好きとかなければいいのに……はあ……めんどくさ」
  と、屋上の方から。
時生(声)「わー!!」
理絵「時生?」
  理絵、振り返って急いで屋上に戻ろうとするが階段を踏み外す。
理絵「!!」
  理絵、そのまま階段下に転がり落ちて気を失う。

○同・同
  理絵、ゆっくりと目を覚ます。
  打った頭を手で押さえる。
理絵「イッタ……」

○同・屋上
  屋上を見渡す理絵、しかし時生はいない。
理絵「……」
  と、チャイムが鳴る。
理絵「やば、授業始まっちゃう……」

○同・廊下
  廊下を歩いて自分のクラス2年A組に向かおうとする。
  途中何人か生徒とすれ違うが髪の毛が今時ではなく顔も知らない人々。
理絵「……」

○同・2年A組
  理絵、教室に入る。
  が、全員知らないクラスメイト。
理絵「なにこれ……」
クラスメイト「理絵、早く座りなよー」
理絵「自分の席に座る」
  黒板の日直の日にちをみると1990年と書かれている。
理絵「え」
  理絵、慌ててスマホを取り出すがスマホは電源が入らない。
理絵「……」
  理絵、仕方なく席に座る。
  テロップ、『西高校。30年前。』

×     ×     ×

  休み時間。理絵の周りには人が集まっている。
クラスメイト「理絵の髪の毛新しすぎない?全然似合ってないよー(冗談ぽく)」
理絵「(少しイラっとして)私だってそんな髪型全然好きじゃないから!」
クラスメイト「え?」
理絵「だから好きじゃないって!その髪!」
クラスメイト「『好き』って何?髪の毛はイメチェンするし……」
理絵「『好き』を知らないの?」
  理絵、スマホを出して検索しようとするが電池が切れているのに気づく。
理絵「ああ……そうだった……辞書……辞書ってどこにあるの?」
クラスメイト「図書室にあるんじゃない?」
クラスメイト「図書室?」
  教室を出て行く理絵。

○同・図書室
  図書室で辞書を探す理絵。
  広辞苑をみつけ『好き』と調べるが結果はない。
理絵「本当にない……」
  と、理絵、図書室の1人の女子生徒が本に付箋のようなものを貼っているのを見つける。
  女子生徒、何事もないように本をしまって図書室を立ち去る。
理絵「……」
  不思議がって本をとると『吾輩は猫である 夏目漱石』と書かれている
理絵(声)「知ってるのがあると少しほっとする……」
  理絵、本を開き、付箋をみると
  そこには理一と絵里と書かれた付箋での文通のやりとりがあり、
  『絵里ちゃん 今日は苦手な英語かもしれないけど一緒に頑張ろうね!アイラブユーを月がきれいでねっていうのが今時らしいよ!今日も頑張ろう!』『理一くん さっきは授業私の代わりい答えてくれてありがと!理一くんがいると勉強楽しくできるし幸せ。午後もお互い頑張ろう!月がきれいだね!』と書かれている。
理絵「この時代は文通なのか……今のSNS時代よりもよっぽど愛を感じる……ん?待って、この2人の名前って……」

○同・2年A組
  理絵、教室に戻り、机の上の名簿をみる。
  と、理一と絵里の名前をみつける。
理絵「パパとママと一緒の苗字だ……」
  と、教室に先生が入ってきて。
先生「今日の日直誰だっけ?」
クラスメイト「理一と絵里です」
  席の両端でそれぞれ席を立つ理一と絵里。
理絵「(小声で)あれが昔のパパとママ……」
先生「後でテストだから2人で黒板ちゃんと消しといてくれ」
理一「わかりました……」
  そのまま、着席する理一と絵里。
理絵(声)「そうか……クラスの人には黙って付き合ってるんだ……昔は純な恋愛してたんじゃん……」

×     ×     ×

  終業のチャイムが鳴る。
  ばらばらに席を立つ理一と絵里が教室を出て行く。
理絵(声)「二人の後つけなきゃ……」
  理絵、絵里の後をつけようとする。
  と、そこに時生の見た目にそっくりな晃生(てるお)が入ってくる。
理絵「ひゃ!時生?(ドキッとする)」
クラスメイト「何言ってんの?晃生だって」
理絵「もしかして……時生のお父さん?」
晃生「理絵、今日頼むよ!」
理絵「え?頼むって?」
クラスメイト「今日は晃生が絵里ちゃんに告白する日って言ったじゃん」
晃生「今日屋上に呼び出してるんだ(恥ずかしそうに)」
理絵(声)「……時生のお父さんが私のママのことが好きってこと?」

(つづく)