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「お風呂のお勉強」

【テーマ】
柴田百合子さんの『テレビ東京#100文字ドラマ(案)』

【シナリオ】
○富士の湯・受付・夜
  眼鏡にパンツスーツ。
  きちっとした姿のOL楓(35)が受付にお金を支払っている。
受付「入浴料400円、タオル100円はいつも通りで500円でいいね?」
楓「既に置かせていただいています」
  500円きっちり置かれている。
受付「ああ、そうだったたね。はいよ」
  受付、タオルを渡す。
  楓、タオルを受け取り脱衣所に向かって歩く。カクカクした歩き。
  歩きながら既にシャツのボタンを開け始めてる。

○富士の湯・脱衣所
  楓、ロッカーの前に着く時には既にボタンが上半身は下着姿に。
  パンツ、下着を脱ぎタオルを巻くまで一切無駄のない動きで効率よく着替え浴場に向かう。

○富士の湯・浴場
  楓、入った瞬間人がどこに何人いるか把握する。
  まずは湯舟をみる。湯舟には女子2人が入っている。
楓(声)「湯船に2人。あそこは狭いから入れてあと1人。そしてあの二人仲良くしゃべっているからおそらく片方が近くに住んでいてもう1人はその家に本日お泊りだろう。となると案内する側は銭湯を紹介したくなる……あと数分したらサウナに行く」
  次に身体を洗っている人を確認する。
  4人が身体を洗っている。
楓(声)「4人。しかしうち1人は既に身体が赤く血行状態が良い。ということは最後に身体を洗ってこの後退出、残りは3人」
  3人は若い親子と1人はおばさん。
楓(声)「子供は熱い空間が苦手だ。サウナは行かないだろう。水風呂、電気風呂もあるがすぐに飽きてメインの風呂に行く可能性が高い。そしてあのおばさんはここの常連。必ず身体を洗ったら最初にサウナに行く……」
  楓、ほっと胸を撫でおろす。
楓(声)「よし。であればいつも通りの時間で身体を洗えば今のお風呂に2人がサウナに移動、親子が入ることになり1人分は余裕ができる。私はそこで浴槽につかり最後に身体を洗って退出。これが今日のプランだ……」
  楓、身体を洗い始める。
楓(声)「私は別にサウナに興味はないからな。ここにきているのも家で風呂に入ると沸かして掃除してが面倒くさいからだ……。しかも今日は夫の出張の日。そんな日は効率の良い銭湯に行くと私は決めている」

×    ×    ×

  楓、湯舟につかる。
  目をつぶってじーっとしている。
  隣には子供の花(6)と蘭(26)が入っている。
  と、花がやってきて。
花「ねえねえお姉さん!」
  楓、目を開けて花の方を向いて。
楓「何か」
花「お姉さんってさ……エッチ下手?」
楓「!!」
蘭「ちょっと花!いきなり何言っているの失礼でしょ!」
花「だってお姉さんさっきから動き方がママと違ってロボットみたいなんだもん!」
楓「……」
花「ママはね凄い上手なんだよ!男の人が言ってた!」
楓「……えっと……あなたは一体(蘭の方をみて)」
蘭「……私は……そういう仕事をしてまして」
  蘭、花を引き寄せる。
蘭「この子を二十歳で産んで……1人で育てるのはそれしかなくて……」
楓「そうですか……」
蘭「すみません……娘が余計なこといって……」
楓「いえ……」
  楓、時計をみる。
楓「私、湯舟には十分つかりましたのでこちら失礼致します……」
蘭「はい、それでは……」
花「ばいばいお姉さん!」
  楓、立ち去ろうとして。
蘭「あの!」
  楓、振り返って。
蘭「私、週末のこの時間はいますので……」
楓「……」
  楓、立ち去る。

○楓の自宅・翌日・夜
  楓、自宅で料理を机に並べている。
  部屋は整理整頓されている。
  自宅の扉が開く音が聞こえる。
  夫の雄哉(40)が入ってくる。
雄哉「ただいまー」
楓「お帰りさない」
雄哉「はい。これアメリカのお土産……」
楓「(受け取って)ありがと」
   楓、お土産をすぐにテーブルに置く。
雄哉「……」
楓「着替え先に洗濯機に入れちゃって。ご飯食べているときに回すから」
雄哉「わかった……」

×    ×    ×

  ご飯を食べている楓と雄哉。
楓「……」
雄哉「……」

×    ×    ×

  楓、食後の洗い物をしている。
  雄哉、テレビをみている。

×    ×    ×

   フラッシュ。富士の湯。
花「――お姉さんってさ……エッチ下手?」

×    ×    ×

  楓、洗い物の水を止める。
楓「(雄哉に)ねえ」
雄哉「ん?」
楓「今日しよっか」
雄哉「……うん」

○楓の自宅・寝室
  抱き合っている楓と雄哉。
楓「はあはあ」
雄哉「はあはあ……気持ちよかった……このまま寝ていい?」
楓「うん」
  そのまま横になる二人。
  楓、目をつぶった雄哉をみて。
楓(声)「私が下手な訳ない……だってこんなに満足した顔をしてるもの……」
  と、雄哉のスマホの通知音が鳴る。
  雄哉は寝息をたてている。
  楓、そっとスマホをとってパスワードを打ち込むと女性とのラインのやり取りがみえる。
  『アメリカデート最高でした』『夜も毎晩激しかった♡』『奥さんとしないでください(笑)』
  雄哉からは『濃密だったね(笑)』『まだ時間つくるから旅行行こうね』『奥さんとのはもはや作業(笑)全然気持ちよくないよ(笑)』といったやり取りもしている。
楓「何よこれ……」

○富士の湯・浴場・数日後
  湯船にずっとつかっている楓。
  と、そこに蘭と花の親子がやってくる。
花「あ、お姉さんだー!」
  蘭、会釈する。
  楓、会釈し返す。

×    ×    ×

  湯船に入る蘭と花。
楓「実は今日は折り入って話がありまして……」
蘭「というよりも湯舟つかりすぎです(笑って)サウナの方が楽なんで行きましょう」

○富士の湯・サウナ
  サウナに入っている楓と蘭。※花は普通にお風呂に入っている。
蘭「なるほど……旦那さんに浮気されていたんですね」
楓「……はい」
蘭「で……私は何を……」
楓「……技術を……相手を喜ばせる技術を教えて欲しいんです……」
蘭「……」
  間。
楓「……だめですか?」
蘭「……関東と関西の銭湯の違いって知っていますか?」
楓「はい?」
蘭「関西の人は昔から商人が多くて身体の汚れは少なかった。だから銭湯でも最初にかけ湯してそんな汚れてないだろと思ってすぐに湯船に入ってたんです。いまだにこの文化がある人が多いです……」
楓「……」
蘭「関東の人は先に身体洗いますよね?これはその逆で力仕事の人が多くて身体が汚れていたので入念に身体を洗ってから入ってたんです。その方が入る湯船も綺麗ですし後の人も気分がいいですからね」
楓「さっきから何の話を……」
蘭「……エッチも一緒です。相手のためを思って行為をするか、自分の効率だけで行為をするか」
楓「……相手のためを思って」
蘭「……だから、もしあなたさえよければ相手のことを考えてする練習なら教えられます……」
楓「それって……」
蘭「はい……私のお店で働いてみませんか?」
楓「……」

○蘭が働くソープランド・数日後
  楓と蘭が下着にシャツを羽織る薄着でいる。
蘭「大丈夫です!私がサポートしますから(微笑む)」
楓「……はい(緊張して)」
  と部屋の扉をノックする音が聞こえる。
楓(声)「私は30代半ばにしてお風呂の勉強を始めることになりました……」
  楓、扉をあけ、そこに立つ男性をみる。
楓「……あなたは(驚いた表情)」

(つづく)