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「ハイパー銭湯」

【テーマ】
柴田百合子さんの『テレビ東京#100文字ドラマ(案)』

【シナリオ】
○バスハウス・浴場(夜)
  シャワーの蛇口からお湯が滴り、ケロリンに当たった音が響き渡る。
  小さめな浴場には人の影は見当たらない。
  と湯舟の中からぶくぶくと音が聞こえてくる。
  サパーっと音を立てて望(23)が湯舟から顔を出す。
望「あーー!!振られたとかもう意味わかんない!!」
  声が部屋にこだまする。
  と、別の女性客が浴場に入ってくる。
女性客「大丈夫ですか?大きな声でしたけど……」
望「あ、いや、なんでもないです!ちょっと仕事でイライラしてて……もう出て、上でちょっと引っかけてこようと思います……」
女性客「そうですか(笑顔で)ストレス発散大事ですからね。一杯と言わずに好きなだけ飲んでください」
望「……ありがとうございます……ではお先に失礼します……」
  望、気まずそうに浴場を出る。

○同・脱衣所
  着替えて、髪の毛を乾かしている望。
望(声)「私の家の近くにあるこの銭湯『バスハウス』はちょっと変わっている……」
  望、浴室をチラッとみる。
望(声)「浴室は小さめ……けどその代わりに……」

○同・ワーキングスペース
  フリーランスの社会人が数人PCを開いて仕事をしている。
望(声)「お風呂を出たら仕事スペースが広がっている……そしてその上に行くと……」
  望、目が合うフリーランスの人に会釈して階段をあがる。

○同・バー
  階段を上るとビンテージのインテリア等が置かれたバーになっている。
望(声)「地下がお風呂とワーキングスペースで地上階がバーになってるのだ……」
  バーには数人座っている。
望(声)「『仕事してひとっぷろ浴びてビールを飲む』3位一体となったここは巷ではハイパー銭湯と呼ばれている……どうやら今後増えていく業態らしい」
  ハイパー銭湯の店主達也(30)がバーカウンターにいる。
  カウンターに座る望。
望(声)「私はここが気に入っている……銭湯に3つの役割があれば人と話すのが面倒になった時に他に逃げ場があるからだ……人見知りの私はとっても助かってる……」
達也「あれ?今日は飲んでいくんですか?珍しいですね、人見知りなのに望さん(からかって)」
望「……失恋した」
達也「ああ、なるほど……どうりでお店来た時目が腫れてたんですね……」
望「言わなくていいから!……早くお酒ちょうだい!」
達也「お待ちください(笑って)」

×      ×      ×

べろべろに酔っぱらって達也と会話をしている望。
望「なんで私が振られなきゃいけないのよ……ちゃんと仕事してただけじゃん……」
  望の話を穏やかな表情で聞く達也。
達也「ほら、望さん飲みすぎですよ」
望「飲まなきゃやってらんないから!だって婚約破棄だよ……マジあり得ない……」
  望、目の前に置かれているグラスを飲む。
達也「そんな飲んだらお家帰れなくなっちゃいますよ……明日も仕事なんですよね?」
望「……」
達也「……」
  望、酔っぱらってお絞りで達也を叩きながら。
望「達也君の作るお酒が濃いからだし……私のせいじゃないもん」
達也「望さん……さっきから飲んでるの……全部水っす(笑って)」
  達也、おしぼりを新しいのを渡す。
望「……」
  望、無言でおしぼりでまた達也を叩き始める。
望「……でも酔っぱらっちゃったの……もう朝まで付き合ってもらうからね!」
達也「えーっと……もう朝っす(笑って)」
望「だってさっきまでお客さんいたじゃん……」
  望、周りを見渡すが自分以外客がおらず、窓からうっすらと見える外が明るい。
達也「皆さん帰っちゃいましたよ……今は僕と望さんだけです(笑顔で)」
望「……じゃあさ……あれだよ……家泊めてよ……」
達也「……いいっすよ」
望「……(少しドキッと)」
  徐々に恥ずかしくなる。
望「……ばか……そこはダメですよって言ってよ……もう帰る!」
  望、おしぼりを投げつけて銭湯を出てい行く。

○望の会社(翌日)
  食堂で具合悪そうに薬を飲んでいる望。
望「やばい……頭痛い……」
  溜息をつく望。
望「達也君に悪いことしちゃったかな……仕事終わったら謝りにいこ……」

○バスハウス・外観(夜)
  菓子折りを持っている望。
  時計をみると夜10時を回ったところ。
望「仕事全然捗らなくてこんな時間になっちゃった……いるかな?」

○同・バー
  扉をあけて入ってくる望。
  カウンターには笑顔の達也がいる。
達也「あ、望さんだ。いらっしゃいませ!」
  店内にはお客さんはおらず達也だけの様子。
達也「望さん昨日ちゃんと帰れましたか?」
望「……その節は……大変お見苦しい姿をお見せしてしまい……すみません」
  望、菓子折りを達也に渡す。
達也「こんなの別にいいのに……」
望「……迷惑をかけてしまったので」
達也「だったらせっかくなんで一杯だけでいいんで飲んでいってくださいよ酔わない程度に……」
望「いやいやいや、今日は私はサッとお風呂に入りにきただけなんで……」
達也「そうですか……残念……今日お客さん全然いないのに……」

×     ×      ×
  フラッシュ。
望「……じゃあさ……あれだよ……家泊めてよ……」
達也「……いいっすよ」
×     ×      ×

望「……達也君、そういう言い方女の子勘違いさせちゃいますよ……」
達也「え」
望「だって達也君彼女さんいるでしょ?大事にしなきゃ……」
達也「やっぱり望さん覚えてなかったんですね……」
望「ん?」
達也「僕、最近別れちゃったんですよ……」
望「え」
達也「この話2回目です(笑って)昨日は望さん酔っていましたが(からかう)」
望「……そうなんだ」
達也「……」
望「……」
  間。
達也「あ(思い出したように)お風呂!」
望「え」
達也「お風呂のシャンプー新しいのにしてみたんで感想あとで教えてくださいね」
望「……うん……じゃあ……お風呂入ってくるね」
達也「はい、いってらしゃい」
  望、階段を下りて浴場に向かう。
達也「……」
  と、ほどなくして望が戻ってくる。
達也「??」
望「……」
達也「何かありましたか?」
望「お風呂……お湯が入ってなかった」
  望、目線を合わせずにもじもじしてる。
達也「え?本当ですか?すみません!すぐに入れてきます!」
  達也、カウンターから出ようとする。
望「いや、えっと……それは……ちょっと待って……」
達也「?」
望「今は入ってないの……もうすぐ入るから……だから入るまで一杯だけ飲んであげるよ……」
達也「(徐々に望が嘘をついていると理解して)そうですか……じゃあ……一杯飲みますか」
  達也、笑顔で準備し始める。
  望、カウンター席につく。
望(声)「時として逃げ道の役割を……そして時としてチャンスの役割にも、それがここハイパー銭湯かもしれない……」

○同・浴場
  湯船からは湯気が立ちお湯が入っている。
  シャワーからお湯が滴りケロリンに音が鳴り響く。

(つづく)

※実際に私の近所にある銭湯『BathHaus』(バスハウス)さんが「仕事して、ひとっ風呂浴び、ビールを1杯ひっかける。」をコンセプトにした”ハイパー銭湯”を謳っており、そこを舞台にしての男女のやり取りを書かせていただきました。