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「雨の日の君」

【テーマ】
柴田百合子さんの『テレビ東京#100文字ドラマ(案)』

【シナリオ】
○とある道(夜)
  どしゃぶりの雨が降っている。
  横には車が水しぶきをあげて走っていく。
  綾(27)が雨に打たれ、気力なく歩いている。
綾「なんで……意味わかんない……」

○綾のマンション(回想・数時間前)
綾(声)「ただいまー!出張早めに終わって帰ってきちゃった」
  玄関に入った綾。玄関に知らない靴がある。
綾「ん?」
  奥から音が聞こえる。
  綾、声のする方に行き寝室のドアを開ける。

○綾のマンション・寝室
  扉をあける綾。
  と、目の前には夫の創一が裸で布団に隠れている。
綾「どういうこと……そこにいるの誰よ!」
  綾、布団をどけるとそこにいたのは裸の男性。
綾「え」
  創一、綾に土下座する。
創一「すまない……俺は……本当は……男が好きなんだ……」
綾「……(やり場のない感情が溢れてくる)」
  綾、勢いで部屋を飛び出してしまう。

○とある道(回想戻り)
  力なく歩き続ける綾。
綾「男が好きって何よ……じゃあなんで一緒にいたのよ……」
  綾、屋根がある建物の影に入る。
綾「ドラマとかで同性が好きでも家族が欲しい、だから愛に嘘はなかったとか言ってたっけ……」
  雨が降り続ける。
綾「だけど……違うよ……そんなの……実際自分がそんなことになるなんて思わないよ……」
  綾、頭を抱えてしゃがみこむ。
  と、少し雨が綾に当たるのが弱くなる。
  綾、顔をあげると。細身の男性葵(25)が傘を持って立っていた。
  葵、綾の目線の高さまで目線を合わせる。
葵「これ、使ってください」
  葵、傘を綾に渡す。
葵「あと、これ」
  葵、カバンからタオルを取り出して綾に渡す。
葵「風邪ひいちゃいますよ……」
綾「ありがとう……」
葵「じゃあ、自分行きますね……」
綾「……」
  葵、その場を立ち去る。
  綾、傘を持って立ち上がる。
  濡れた髪を拭こうとしてタオルを広げるとタオルには『松の湯』と書かれている。
綾「松の湯……」

○東都ラジオ放送・執務フロア(翌日)
  PCをいじって仕事をしている綾。
  机には綾が読む原稿が置かれている。
  周りの社員もテキパキ働きオンエア中の部屋もある。
  綾、ふと手が止まり、『松の湯』と検索している。
綾「ここか……」
  綾、自宅の近所にある松の湯の住所をみつける。
  カバンの中には同じロゴの松の湯のタオルが入っている。

○松の湯・外・夜
  松の湯の入り口が見える位置に立つ綾。
綾「なんで私はこんなとこ来てんだ……これじゃストーカーじゃん……」
×     ×     ×
  フラッシュ。土砂降りの雨。
  葵、綾の高さまで目線を合わせる。
×     ×     ×
綾「かっこよかったから?……違う違う……お礼が言いたいだけお礼が……」
  入り口では人が出たり入ったりを繰り返している。
綾「……流石に都合よくは会えないよね……」
  と、入り口から葵が出てくる。
綾「!!」
  綾、とっさに物陰に隠れてしまう。
綾(声)「びっくりしたー!何隠れてんだ私……早く渡せばいいだろ……それでお礼を……」
  綾、物陰から現れる。
綾「あの!」
  綾、声をかけるが葵は既に視界から消えていた。
綾「……明日は休みだし明日こそは……」

○松の湯・外(翌日・夕方)
  綾、友人の由貴(27)と一緒に入り口に待機している。
由貴「地方への出張ラジオ放送が終わって帰ったら夫と壮絶な別れを遂げたって綾から聞いたから飛んできたのにこれはどゆこと……」
綾「ごめん、由貴くらいしたこういうの付き合ってくれる友達いなくてさ……」
由貴「へこんでいると思ったらもうすぐ次のターゲットができるとは……綾も意外と肉食よね……」
綾「だから……お礼がしたいだけだって!タオルを借りた……」
由貴「それで普通休みの日まるまる一カ所で見張ったりする?」
綾「だって名前も連絡先も知らないし……」

×     ×     ×

  あたりが暗くなってきている。
由貴「もう今日はこないんじゃない?」
綾「うん……また別日にしよっか……ごめんね付き合わせちゃって……どっかご飯食べに行こうか」
由貴「何言ってんの?もう行くよ!こんなに待ったんだからひと風呂浴びないと気が済まない!」
  由貴、綾の腕を引っ張って松の湯に入っていく。

○松の湯・サウナ
  サウナで汗をかいている綾と由貴。
綾「由貴、私熱いの苦手で……」
由貴「せっかくだったら満喫するしかないでしょ!それにほらこういう経験こそ今度の放送の時の話すネタになるかもしれないよ……」
綾「そうかもだけど……」
由貴「まあ、リスナーのこっちとしては今回の夫との件を赤裸々に話して欲しいけどね(笑って)」
綾「ちょっと!」
由貴「ああごめんごめん、今はあれだっけ『雨の日の君』に恋をしているんだっけ?(冗談ぽく)」
  周りの人が由貴の会話に聞き耳を立てている。
綾「ちょと静かにして!周りの人にも迷惑だって……」
  と、サウナの扉があき、葵が入ってくる。
綾「え」
由貴「ん?どした?」
綾「……雨の日の君」
由貴「!!」
葵「あ、こないだの!」
綾「……(ハッとして)きゃ!」
  綾、タオルを巻いた自分の姿を恥ずかしがって後ろを向く。
由貴「(葵をみて)おんな?」
綾「いや、きっと、ここの管理人かなにかじゃ……」
葵「髪も短いからよく間違えられるんですよ自分(笑って)」
  葵、タオルをはらりと落とす。
  綾、目を指で覆いながら指の隙間から葵の裸をみる。
葵「こないだ会った時より少し元気そうでよかった(笑って)」
綾「……(キュンとする)」
  綾の汗が滴る。
綾(声)「今夜もやってきました、綾のハッピータイム! 今日も、沢山のリスナーの声にお応えしながら、お送りします。メインパーソナリティを務めますのはわたくし、綾。いや〜本格的に寒くなってきましたがリスナーの皆さんはいかがお過ごしでしょうか?私には今ちょうど季節外れの観測史上初めての恋という名の台風が押し寄せてきたところです……」

(つづく)