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「月がきれいですね」シナリオ③

【テーマ】
大麦こむぎさん 『月がきれいですね』

【シナリオ】
○とある神社
  初詣でお賽銭を入れ、鐘を鳴らす女子高生の里香(18)
里香(声)「残された高校生活のあと数か月、彼氏の智也とラブラブで過ごせますように……」

○里香の祖父母の家
  一家団欒でご飯を食べている。
  里香、お餅を食べる。
里香「!?」
  と、里香、お餅が喉に詰まって倒れる。心配する家族達。

×     ×     ×

  里香なぜか幽体離脱して自分が倒れている様子をみている。
  そこにもう1人の里香が登場。
もう1人の里香「死んじゃったね、あっけなく」
里香「死んだ?うそでしょ……餅詰まらせてなんて……そんな馬鹿な死に方……」
もう1人の里香「じゃあそろそろいこっか?」
里香「やだよ……こんなん納得できるわけないじゃん!!」
もう1人の里香「(溜息)」
里香「何とかできないの?」
もう1人の里香「1つだけ……あなたがこれまで一番言ってきた言葉を世の中から消す……それを了承してくれるならあなたを元に戻してもいいわ……」
里香「やるわよ!約束守るから戻して!」
もう1人の里香「あなたはこれから『好…』」
  里香、意識がどんどん遠のいていく。

×     ×     ×

  起き上がる里香、せき込んで餅を吐き出す。
母「びっくりしたー!お餅は勢いよく食べたら危ないわよ!毎年お年寄りが何人も年末年始にお餅をつまらせて亡くなっているんだから……」
里香「……」
  里香、自分の喉、身体を触る。
里香「(小声で)よかった……生きてる……」
  テレビではBLが話題となった『おじちゃんずラブ』の再放送がされており、
  告白シーンで男性が『はるぽんが××だーー!!!』と叫んでいるが『××』が聞き取れない。
里香「??」

○里香の高校・正門前(数日後)
  食パンを食べながら走っている里香。
  と、目の前に彼氏の智也(18)を見つける。
里香「あ、智也!あけおめ!」
  智也、笑顔で里香の方に歩いてくる。
  が、智也は里香を無視して横を通り過ぎる。
里香「え」
  里香、振り返る。
  と、智也が眼鏡の地味っ子美穂(18)と抱きあっている。
里香「は?」
智也「あけおめ美穂!北海道は寒かったんじゃない?」
美穂「毎年の慣れっこだから大丈夫……それよりも……会いたかった(少し照れながら)」
  智也、美穂の頭をポンポンする。
里香「待ってよ……意味がわかんない……」
  美穂、カバンの中を探して。
美穂「これお土産!良かったら食べて!」
智也「お!ありがと!後でお昼に二人で一緒に食べよ!」
美穂「うん!」
  智也と美穂、手をつないで正門をくぐっていく。
  呆然と立ち尽くす里香。
  と、友達の郁美(18)がやってくる。
郁美「里香おはよー!あけおめ、ことよろー!相変わらずあんたは朝はパンばっかり食ってんのね、あきないの?」
里香「郁美……」
郁美「何ぼーっとしてんの?お正月ボケでもした?」
里香「……ねえ……あれって(智也と美穂を指す)」
郁美「あーあの二人?最初はそんな組み合わせあり?って思ったけど意外とお似合いだよねー」
里香「それってどういう……」
郁美「ちょっといい加減にしてよ(笑って)あの二人がカップルとして意外とお似合いだってこと!今もあんなにラブラブだし」
里香「カップル?だって智也は私の彼氏で……」
郁美「は?あんたと智也くんが?(冗談ぽく)」
里香「うん……」
郁美「その組み合わせは思いつきもしなかったわ(笑って)何それ今年の初ボケとか?」
里香「いや、全然ボケてない……めちゃめちゃ真面目……だって郁美もみてたでしょ文化祭の時に……」
郁美「文化祭?」
里香「うん、私と智也が劇で王子とお姫様役をやってその時に私が『好き』って言って」
郁美「何?何って言って?」
里香「だから『好き』って告白して……」
郁美「その『好き』ってなに?」
里香「え」

×     ×     ×
  フラッシュ。幽体離脱中。
もう1人の里香「1つだけ……あなたがこれまで一番言ってきた言葉を世の中から消す……それを了承してくれるならあなたを元に戻してもいいわ……」
里香「やるわよ!約束守るから戻して!」
もう1人の里香「あなたはこれから『好き』という言葉が世の中からなくなります……」
×     ×     ×
   フラッシュ。『おじちゃんずラブ』の再放送。
 告白シーンで男性が『はるぽんが××だーー!!!』と叫んでいる。
×     ×     ×

里香「まさか……『好き』が消えたってこと」
郁美「?」
里香「待って……でもその時郁美がうちらの写真撮ってくれたじゃん!」
  里香、スマホを取り出し、カメラロールを調べている。
  写真をみつけるが里香の横には別のクラスメイトが写っている。
里香「なんで……」
郁美「さっきから言ってることよくわかんないけど智也くんはほら、真面目じゃん。だからその時には美穂ちゃんと付き合ってて劇なんかやってなかったよ……」
里香「嘘……でしょ……なんであの二人が……」
郁美「もういい加減にしてよ!そんなの学校中で有名じゃない?夏の林間学校の肝試しで智也君と一緒になった読書部の地味っ子美穂ちゃんが肝試し後に『月がきれいですね』って告白したのに智也君がときめいちゃったんじゃん」
里香「……何……その『月がきれいですね』って……」
郁美「夏目漱石流アイラブユーの訳し方だってさ……読書部かつ日本人らしい粋な告白だよね…」
里香「……」
  と、学校の鐘が鳴る。
郁美「ほら!行くよ!年明け初日に遅刻はまずいって!」
  里香、郁美に手を引っ張られ走り出す。
里香(声)「『好き』がなくなったせいで……過去の人間関係も変わってる……」

×     ×     ×
フラッシュ。智也とのツーショット。
海、カラオケ、学校等で二人で撮った沢山の写真。
×     ×     ×

里香(声)「彼を取り戻さなきゃ……」
高校卒業まで……あと3か月――。


(つづく)