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在宅人工呼吸器の使い方と注意点

在宅人工呼吸器の使い方と注意点

在宅人工呼吸器(HMV:Home Mechanical Ventilation)とは、機械を使って呼吸を助ける治療法です。肺や心臓、神経や筋肉の病気の人を対象とし、全身の状態や生活の質の改善を目指します。              ここでは在宅人工呼吸器で必要なケアやかかる費用、介護施設での受け入れについて解説します。
【目次】                               在宅人工呼吸器が必要な人は?                     家族が行う日常ケアとよくあるトラブル                 在宅人工呼吸器にかかる費用は?                    介護施設での受け入れ

在宅人工呼吸器が必要な人は?

在宅人工呼吸器には非侵襲的陽圧換気療法(NPPV ※1)と気管切開下間欠的陽圧換気療法(TPPV ※2)の2種類があり、それぞれ対象となる人や治療の目的が異なります。

  • ※1 NPPV:Noninvasive Positive Pressure Ventilation

  • ※2 TPPV:Tracheostomy Positive Pressure Ventilation

<NPPV>
NPPVは気管挿管をせず、口や鼻に装着したマスク通じて肺に圧力をかけ、呼吸を助ける方法です。慢性閉塞性肺疾患(COPD)や睡眠時無呼吸症候群、心不全による呼吸の異常がみられるときなどに行いし、睡眠障害の解消や睡眠の質の改善、生活の質の改善、寿命の延伸を図ります。
NPPVは装着中も会話や食事が可能といったメリットがある一方、患者さんの意識がはっきりしていて協力的な状態でなければ行えません。また、マスクによる皮膚トラブルが起きやすいというデメリットもあります。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは睡眠時無呼吸症候群とは
<TPPV>
TPPVは手術によって喉に気管までの穴を開け、そこに挿入した気管カニューレという管に人工呼吸器を接続して呼吸を助ける方法です。ALS(筋萎縮性側索硬化症)など筋肉や脳・神経の病気によって自発的な呼吸が微弱、または困難な場合が対象です。
意識がはっきりしていない患者さんでも実施できますが、人工呼吸器をつけている間は、そのままでは声を出すことが難しくなります
ALSとは

家族が行う日常ケアとよくあるトラブル

自宅で人工呼吸器を使用する場合、さまざまなケアを行うだけでなく、トラブルにも家族が対処する必要があります。ケア方法などは入院中に看護師が指導しますので、わからないことや不安なことがあれば、遠慮せずに質問してみましょう。
以下に、自宅で行うケアやトラブル時の対応方法についてまとめました。
<痰の吸引>
特にTPPVの患者さんは自分の力で痰を出せない人がほとんどです。そのため、吸引器を用いて痰を吸い出します。
<皮膚のケア>
NPPVの場合はマスクとの接着面、TPPVの場合は気管カニューレが当たる部分で皮膚トラブルが起こりやすくなります。1日1回は皮膚の洗浄や拭き取りを行い、水分をしっかりと取り除いて清潔を保ちます。
NPPVのマスクはウエットティッシュなどを用いて汚れを拭き取り、皮膚との接着面を保護することなど行いましょう。
<回路の管理>
人工呼吸器の回路は汚れが溜まらないよう、1度は新しいものに交換します。トラブルがあったときなどに備えて、業者が予備の回路を1つ、自宅に常に置いてくれます。呼吸器の近くに保管しておきましょう。
<気管カニューレの管理>
TPPVの場合、皮膚のケアに加えて2〜3週間に1度、医師または研修を受けた看護師による気管カニューレの交換を実施する必要があります。また誤って抜けてしまったり、痰で詰まったりしたときには、家族がカニューレを挿入します。
予備のカニューレを必ず一つ近くに置いておき、挿入方法が書かれた紙を見えるところに貼っておいたり、定期的に練習をしたりして、いざというときに備えましょう。
<緊急時・災害時の備え>
人工呼吸器が止まってしまうと命に関わります。そうなったときに迅速に対応できるよう、日頃からの準備が大切です。
患者さんの近くにはバッグバルブマスク、手動吸引器、外部バッテリー、交換用回路を常に置いておき、定期的に使い方を確認しておきます。外部バッテリーは常に充電しておきましょう。また主治医や訪問看護師、人工呼吸器の業者の連絡先もすぐにわかるところに保管しておきましょう。
さらに、電力会社や消防署、保健所・センターに人工呼吸器を使用していることをあらかじ届け出ておくと、災害時には小型発電機の貸し出しや緊急搬送などの対応を受けられるので安心です。
地域や電力会社によって届出方法や受けられるサービスが異なります。契約している電力会社や地域の消防署に問い合わせてみましょう。自動車のソケットから電気を供給する方法がありますが、直接つなぐことは推奨できませんので、外部バッテリーなどを間に挟むことなどで対応します。
避難先として、近隣で非常時に発電機のある設備(病院や自治体の施設など)を確認しておきましょう。
<異常がないか観察する>
患者さんの呼吸や全身状態、酸素飽和度(血液中の酸素濃度)、痰の状態、睡眠や食事摂取状況などを常に観察し、普段と異なる様子が見られたときには主治医や訪問看護師に相談します。

トラブルが起きたときの対処方法

  • 人工呼吸器はトラブルが起こるとアラームが鳴ります。原因として考えられるのは、回路のねじれや圧迫、接続部からの空気漏れ、プラグの抜け、破損、痰詰まりなど、様々です。アラームの原因を探して、回路をきれいに整える、しっかりと接続する、新しい回路に交換する、痰を吸引するなど対応します。

在宅人工呼吸器にかかる費用は?

在宅人工呼吸器を使用している場合、月に1度の受診が必要です。毎月の診察代は少なくとも以下の値段がかかります。 

  • NPPV:9,280円/月

  • TPPV:10,280円/月

経済的な負担は小さくありません。社会資源を活用して負担を減らしましょう。
以下に、在宅人工呼吸器を使用する人が利用できる制度をまとめました。
<指定難病の医療費助成制度>
在宅人工呼吸器を使用する原因となった病気が指定難病である人が対象です。医療費の助成が受けられ、毎月の負担を1,000円に抑えることができます。助成を受けるには市区町村の保健所へ指定難病の申請が必要です。
<高額療養費制度、高額医療・高額介護合算療養費制度>
医療保険や介護保険の自己負担額が、所得に応じて定められた金額を超えた場合には、高額療養費制度や高額医療・高額介護合算療養費制度によって自己負担額を軽減することができます。加入している医療保険者に申請します。
<身体障害者手帳>
身体障害者手帳の発行を受けていると、医療費の助成制度を利用できます。また、税金の減額や免除、公共交通機関の運賃や施設利用料の割引などが受けられます。
申請を希望する場合は、市区町村の福祉担当窓口に問い合わせましょう。


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