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2023.02.26 LaLiga第23節 レアル・マドリーvsアトレティコ・マドリー

・はじめに

おはようございます。こんにちは。こんばんは。
絶対に負けられない3連戦の2試合目。
ホームにアトレティコを迎え、マドリードの雄を決める今季2回目のデルビを振り返る。

以下、スタメン。

両チームのスターティングメンバー

アラバとロドリゴを欠き、恐らく頭を悩ませたのが左SBと右WGの人選
ポリバレント性も相まって、ここ最近出ずっぱりのカマヴィンガは一先ずベンチに置き、ナチョを左SBで起用する安定択。
右WGを務めるのはアセンシオ
そして彼とのユニット効力を考慮し、右IHにバルベルデを置く形。
チュアメニの復帰も予想されたが、この試合では無理をさせず。
アトレティコは表記上一応4-4-2、一応。
前回対戦時には右WBを務めたジョレンテを前線に。
デ・パウルの欠場の影響もあるとは思うが、サウールの先発がサプライズ要素か。

・試合内容

・メインテーマと個々人のタスク

この試合、序盤から見えたメインテーマは「シームレスに様々な守備陣形を継ぐアトレティコの組織的守備に対して如何に風穴を開けるか」
アトレティコの守備陣形は、ざっと観測できるだけで“4-4-2“、“5-3-2“、“5-4-1“、“6-3-1“等、各々のタスクと相手選手の立ち位置をトリガーに、様々な様相に変形する。
この可変に最も分かりやすく影響を与えるのがマドリーの両SBである。
右SBカルバハルに対してはカラスコがほぼマンツーマンで監視。
彼がCBに前プレに出ている場合はサウールがカバーに入るシーンもあったが、基本カラスコにかなり一任されていた印象。
左SBナチョに対しても2トップの一角ジョレンテが降りるパターンをメインとし、状況に応じて主にバリオスとマークを受け渡しながら対応。

そして、どのチームも真っ先に考えるであろうヴィニシウス対策。
ここにアトレティコなりの工夫があった。
ヴィニシウスに対しては基本的にモリーナをぶつけることが第一選択肢。
そしてサビッチが中央〜やや左側の立ち位置を好むベンゼマを監視しつつ、ヴィニシウスが内に入ってきた際やモリーナが突破されてからのカバーにも対応。
他チームと戦う際によく見られるSH(WG)を下げ、サイドの二段構え守備による数的優位で“大外の“ヴィニシウスを潰すという対策とは若干違った形。

中央エリアに目線を移す。
バリオス-コケ-サウールは比較的低めの位置で引き取りたがるマドリー中盤陣の“前“に立ち、まずはクリティカルな縦パスを塞ぎたいという意図。
特に、バリオスやサウールがHSを封鎖するポジショニングを取る傾向が目立った。

アトレティコの守備タスク概略図

アトレティコMF陣のプレーぶりを見るに、やはり中央を締めることの優先度は高い。
そして、中央を閉めるために大外は極力少数で潰せた方が効率的である。
そんな中、大外を打開するヴィニシウスとカルバハルを1on1で監視しつつ、反対にオフェンス時にも上下動を求められるモリーナとカラスコへの多大なる信頼が印象に残った。(特に後者は攻撃のキーマンでもある)

そして、上で述べてきたようなタスクを持って可変してくるアトレティコ守備網をマドリーは如何に掻い潜ろうとしたか。

・右サイドユニット効力による打開アプローチ

右サイドで形成される3〜4人称のユニット効力の高さはマドリーのストロングポイント。
そんな右ユニットにはこの試合、いつも通りの点と、少し違いが見えた点が。
いつも通りの点。
内側志向のアセンシオと外側でもバリューを出せるバルベルデのポジションチェンジ。
違う点。
比較的放置されていた右CBミリトンのコンドゥクシオン頻度といつもよりカルバハルが大外を志向していたこと。

ミリトンの持ち上がり自体特に珍しいことでは無いが、そこから絶対的なチャンスを作り出すシーンがあればそれは珍しいことである。
そのため、多少運ばれてもアトレティコにとっては致命的なプレーを食らう可能性が少ないと判断される所謂“捨て“の選択
しかし前半10分にはその放置されたミリトンがボックス手前まで持ち運び、惜しい低弾道クロスを披露。
その辺のSBよりも圧倒的に精度の高い良クロスであった。
(これは本当に決めときたかったが、たぶんチームメイトのベンゼマですらミリトンを舐めていたため、準備できていなかったんだと思う。)

そして、カルバハルの大外志向の意図。
それは上で述べたカラスコのマンツーマン対応を利用しつつ、相手の最終ラインを右サイドに引っ張ることで、密度の高い中央のスペース創出とアトレティコDF陣の距離感を開かせることを狙ったものだと推察。
そうして生まれたのが前半9分のアセンシオのミドルシュートのシーン。

前半9分のシーン概略図

引いてボールを受けたいアセンシオは、右サイドでカルバハルがボールを持ったタイミングで低い位置から前進し、平行サポートを行う。
ブロックを組みつつ自分の前にいる選手の迎撃をメインにしていたアトレティコの守備を利用し、サウールの受け渡しとエルモソorヘイニウドの迎撃までの一瞬の隙ができたタイミングでアセンシオがボールを受けることができた。
そうしてボックス付近で前を向き、得意の左足を振るもオブラクがセーブ。

そして、右サイドの3人称を中央の4人称に派生させることにもトライしたのが前半24分のシーン。

前半24分のシーン概略図

このシーンでも大外を取るカルバハルと降りるアセンシオの構図は同じ。
降りたアセンシオとバルベルデでパス交換し、サウール、コケ、エルモソの3枚を誘引。
アセンシオの前ベクトルダッシュでパスコースを開ける。
そのタイミングでセバージョスがコケの背中側を通り、スペースでバルベルデのパスと待ち合わせ
このシーンでもセバージョスがミドルを放つも枠外に。
セバージョスの強みは動いてナンボ。
あらゆる局面とエリアで2〜4人目になるプレーの持ち味は失われないで欲しい。
反対に課題はこのシーンのようなミドルシュートなのかもしれない。

明らかにアトレティコ側当初のプランからイレギュラーが起こった事象はヘイニウドの負傷退場である。
エルモソが守る位置が変わったことはマドリーとしては狙いたい/狙うべきポイントであったのではないか。

・沈黙のヴィンゼマ

そして逆サイドの左。
ヴィニシウス対策とアトレティコMF陣のプレーの優先順位は本稿序盤で述べた通り。
出どころへの牽制に重きを置き、クリティカルなパスをできるだけ少なくする、そしてサイドは極力少数で対応し、エラーが起こった場合に周りがカバーするという算段
前半24分の自陣からセバージョスが送ったロングスルーパスや、42分のナチョがタメを創って出したタッチライン沿いスルーパスなど、長めのパスでモリーナを出し抜けるシーンは見受けられた。
しかし、その後に待ち構えるサビッチとの1on1局面でヴィニシウスが勝てない。
これがかなり痛かった。

そしてこの日はベンゼマが目立たないことが目立った。
それもそのはず、この試合ベンゼマのボールタッチ数が極端に少ないのである。
彼が出場した直近の3試合のボールタッチ数がこちら。↓

・CWC決勝アルヒラル戦(62分間出場)→52回
・LaLiga第21節エルチェ戦(78分間出時)→67回
・CLベスト16リヴァプール戦(87分間出場)→42回
Sofascoreより

これに対してこの試合はフル出場にも関わらず“29回“にとどまっている
ベンゼマのここ最近の低調さも関与しているが、最大の要因はアトレティコの守備の狙いに嵌められたものだと個人的には思う。

ジョレンテ、バリオスでパスコースを塞ぎ、5バック可変で右HV位置に入るサビッチの迎撃も合わせてヴィニシウスとベンゼマの2人称を潰す。
圧力をかけるポイントを大外ではなくHS付近に設定して人を集め、ヴィニシウス単体に勝とうとするのではなく、そもそもヴィニシウスとベンゼマのリンクを断つ。
そんなアトレティコのアプローチは理にかなっていると同時に、バックラインだけでなくMF陣にも高度な組織力を求めるハイレベルなものであった。

幾度となく相手の守備組織を破壊してきた“ヴィンゼマ“。
直近のベンゼマのパフォーマンスがどこか物足りない中、このコンビの復活は間違いなく今後の鍵である。

・マドリー守備局面における局地戦とアトレティコの最終生産者不在問題

マドリー守備面で鍵を握ったのは右サイドのカラスコvsカルバハル局地戦グリーズマン対応

マドリー守備局面概略図

この日右WGを務めていたのはアセンシオ。
そのため、擬似5バックとして右サイド大外の守備力を担保するバルベルデ的効果は見込めない
(アトレティコの左SB位置に入るヘイニウドも守備的なプレーヤーであるため、そもそもそのエリアからの大外加勢はそこまで脅威ではなかったが)
カラスコのサポート役は基本的にサウールが務めており、カルバハルをカバーしようとするバルベルデやミリトンの注意を引きつつカラスコをサポート。
そのような状況下で、カルバハルの対応はまずまずと言ったところ。
クロスやシュートは普通に飛んできていたので、完封とは言えないものの、完全に抜き去られるといった危険度の高いプレーはきちんと阻害できていた。

W杯でも己の価値を証明し続けたグリーズマンの凄まじさは今更言及する必要もないが、この試合でも攻撃の旗頭として機能。
特に周りを巻き込む能力が高い。
単騎で無理に打開しようとするシーンが本当に無い。
味方に時間を創ることはピンク頭の8番にとって容易いことであった。

カルバハルがカラスコにはちょくちょくクロスや惜しいシュートを放たれ、グリーズマンは捕まり切らなかった。
そんなマドリーが何故このような流れから失点しなかったのか。
その大きな理由がアトレティコに最終生産者がいなかったこと
基本的に2トップの片割れグリーズマンはリンクマンとして働くため、最前線にいないことが多い。
相方のジョレンテは前半44分のシーンのようなショートカウンター局面のアトレティコ右サイド〜HSの走力担保やグリーズマンの舎弟役割を兼ね、こちらもボックス内で常駐して効力を発揮できるタイプではない。
カラスコがカルバハルを出し抜くことができても、その後の選択肢が少なかった。

最終生産者不在による物足りなさはずっと感じていたはずで、アトレティコは終盤にコレアやモラタを投入したことからも、交代策を絡めてオープンになってくる最終盤で得点を狙う意図だったと推察。
(結局コレアは人数を減らすきっかけになってしまうのですが)

・実らない飛び道具

自陣中央ボックス前に強固な守備ブロックを作るアトレティコに対して、最も難易度が低く試行回数を重ねることできる攻撃手段。
それはクロスとミドルシュートである。
この試合に限ったことではないが、マドリーのクロスには致命的な欠陥がある。
それは“ニアが居ない“ことである。
選択肢がファーだけで非常に少ない分、クロスの出し手に対するボックス内認知能力とそこに完璧に届ける技術的要求が過剰に高まる
一つの例を挙げるなら、後半54分のシーン。
バルベルデの高速対角フィードからヴィニシウスが左サイド深部を取るも、対面2人を相手に余裕のない状況で「ニアがいない+ファーのベンゼマvsゴール前守備4枚」というボックス内に高精度クロスを上げろというのは流石に酷。

後半54分のシーン

サイドからのクロスを選択する中で、逆サイドに目を移すと、特にアセンシオに対するスタンスはかなり明確。
「バーティカルな裏抜けは許容。その際、左足を切って右足で苦し紛れのクロスを上げさせる。」といった趣旨。
そのため右サイド深部からのクロスでも怖さを出せず。
(アセンシオは大外で基準作って自分の得意なアングル作れと何度言ったら...)

先に述べたアセンシオやセバージョスのように、崩せない守備ブロック外からミドルシュートを撃つシーンもこの試合では多くなっていた。
ボックス内を固めるブロックをなぞるように横パスを繋ぎ、スライドが間に合う前に放つミドルシュートを多用するも、シューターが精度を欠いたり、そもそもGKがオブラクだったりという期待値低めの条件下であった。

・コレアの退場による逆風

転換点、後半63分のコレア退場。
正直この退場は個人的に全然嬉しくなかった。
勝ち点1ではなく3を得てこの試合を終えたいためである。
案の定、アウェイのアトレティコはまずは失点しないことに重きを置く。
5-4ブロックになることも厭わず、ゴール期待値の高いボックス内侵入をまずは防ぐ
人が少なくなった分、締められているボックス外ではこれまで以上にミドルシュートを撃つが、ミドルシュートはオブラクが全部止める。
このような展開のオブラクは本当に強いと改めて分からされる分岐点であった。

・両チームのスコアを動かすセットプレーと18歳の悲喜交交

先に言っておくと、この試合はアトレティコがFK、マドリーがCKで得点し1-1で終えることになる。
そして、この2つのセットプレー得点に絡むのが後半76分に投入された18歳192cm長身FWアルバロ・ロドリゲスである。

後半77分、 FKから失点を喫したシーン。
マドリー右サイド側やや遠目位置のFKからグリーズマンが送り込んだボールをヘディングで沈めたのは、皮肉にもヘイニウドの負傷交代によって出てきたヒメネス。
アトレティコはボックス内に5人、マドリーは7人を置いていた。
マドリーはラインを揃えつつマンツーマンというよりはゾーン寄りの待ち構え方。
そのため、ライン上で駆け引きしてくる相手には監視が行き届いていたが、後ろから飛び込み気味に入ってくるヒメネスは比較的自由
そこの粗雑さを突いたヒメネスがアルバロの守っていたゾーンへ視野外から前に入り込んで合わせる頭脳的なヘディング。
そこにピッタリと合わせるグリーズマンのキック技術にも脱帽。
おそらくアルバロの身長を買っていることやCFとしてカウンター時には攻め上がる必要があることから、特定のマークを持たない中央のフリーマン的なストーン役を任せていたもののそれが裏目となり、目の前でヘディングを叩き込まれる悔しい失点に。

一方でマドリーが追いついたのもセットプレーである。後半84分のCK。
アルバロ・ロドリゲスによるヘディング弾。
左コーナーアークからモドリッチが蹴ったボールをファーからニア方向へ走り込みながら首を捻って逆サイドネットに沈める見事なゴール。
この得点の肝はモドリッチのCKの精度、アルバロのヘディング技術もあるが、蹴るまでの“間“にあると考える。
モドリッチはCKを蹴るまでにじっくりと中を見ることはなく、少しの時間で中の状況を把握。
もしかすると、CKが決まった瞬間からアルバロに合わせることを決めていたのかとすら思う。(というかそうだったらアツい)
マーカーを整備される隙を与えなかったことがアルバロのフリー状況を生み出した最大の要因。
ちなみに、今季のセットプレーから生まれるゴールはモドリッチからのものが多かったりする。(記憶に新しいのはリヴァプール戦のミリトンのヘディングとか)

前節で観る者の心を掴んだアルバロが、今度は得点でチームを敗北から救ったという意味では彼にとってもチームにとっても大きな得点であった。

・最終盤における不可解かつ非合理的な攻撃構築

終盤の押し込み局面、一言で表すなら上の掲題になる。
特に痛かったのがヴィニシウスのプレー(エリア)選択。
内側を無理矢理打開しようとする意識がかなり高かった。
外を取っても内側に切れ込んでいくことが多く、真ん中で常駐するポジショニングを取ることもしばしば。
アルバロを投入しているにも関わらず、彼を外に回らせたり(というか彼はそもそも動きたい方だと思う)、パワープレーで上がっているリュディガーに外側取らせるシーン(これはほんとに意味わからん)も。
世界で1番試合の中の勘所を分かってる選手ことモドリッチが入ったにも関わらず、中央で無理に“得点“を狙いに行こうとする姿勢には疑問符が残る。
もう1人の中央の勘所の分かり手であるベンゼマが低調なのも分かるが、この日カットインのドリブルにあまりキレがなかった上、サビッチにも完封されていた分、サイドで“チャンスメイク“に回ってほしかった。

そんなこんなで1-1で試合は終了。
10人になったライバル相手に手痛すぎるドロー。

・まとめ

「シームレスに様々な守備陣形を継ぐアトレティコの組織的守備に対して如何に風穴を開けるか」
これに対する解答は上手く出せなかった試合。
左サイドは分断され、右サイドから作るにしてもやはり中央の密度が厄介
途中で相手が10人になるなど、イレギュラーが起こって逆にやり辛くなったことは確かであるが、単純に1人多い状況であれば打ち勝ってほしいものである。

失点時のセットプレーは相手が見事であったが、要注意人物を抑えるといった基本的なことができていないのは気になった。
ラインから外れてもミリトンあたりをヒメネスにくっつけても良かったのではないか。

そして、即興頼みのフィニッシュと稚拙な終盤のラッシュには至急改善を求めたい
ヴィニシウスやベンゼマがボールを持ってからの閃きに頼るシーンが多く、時にはそれが破壊力を産むことがあるものの、やはり組織的な崩しやフィニッシュ設計“も“整備しておくべきではないか。
終盤のパワープレーも同様に、リュディガーやアルバロを外に回してヴィニシウスが中を取るなら本末転倒である。
このようなシーンは無いに越したことはないが、無様に試合をクローズさせる姿はもう観たく無い。

明るい話題はアルバロが得点を決めてドローに持ち込んだこと。
ジョーカーとしてパワープレー局面で投入されている状況は、恐らく別の持ち味がある彼にとっては少し可哀想に思えるが、これを契機に飛躍してもらえばベンゼマの後釜問題に悩む必要がなくなるかもしれない。

この試合で被弾した枠内シュートは1本のみ、相手は64分で10人に。
しかし深夜目を擦りながら観た試合はこの統計ほど楽観的に観ることができるものではなかった。

・おわりに

首位バルセロナと差を広げられる中、絶対に勝ち点3を得て終わりたい試合。
10人の相手に先制点を許し、麒麟児の1発でなんとか追い縋るもののやはり落胆の方が大きい試合となってしまった。
1位との直接対決は尚更負けられない試合に。

稚拙な文章、お読みいただき誠にありがとうございます。
よければ拡散等していただけますと幸いです。今のところLaLiga全試合レビューするつもりではいます。多分。

それでは!

※画像はTACTICALista様、レアル・マドリー公式様を使用しております。
※データはSofascore様より引用しております。

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