見出し画像

『結び屋 キツネツキ』を終えて

先日令和二年二月二日(20200202)、東京は阿佐ヶ谷にて1日限定の幻酒場"結び屋 キツネツキ"を開店致しました。

『店内に入るためにはきつね面を必ず被らなければならない』
ありそうでなかったきつね面を被ったひとだけが集まる場所。
年齢や性別、身分すらも関係なく分け隔てなく交流できる空間が作りたいと思いこの幻酒場を企画しました。

私は"キツネツキ"という名前で写真活動をしています。
前々から狐憑きという名前らしい何か活動ができないかと考えていました。そんな中この想いを共同企画のあこちゅあさんに話したところ面白いと意気投合し『きつね面を被って飲み食いをしている場所』を作ってみようと動き出したのが『結び屋 キツネツキ』の始まりです。

画像5

最初は街のどこかに屋台台車を転がしていきそこでうどんやおでんなどの商いはどうかと考えてました(XXXHOLiCの狐のおでん屋に強い憧れを抱いているのは内緒)
知名度がない中で偶発的なイベントを企画するリスク、慣れてない人が食事を提供する怖さを考えるとまたいつかという結論になりました。そんな中、阿佐ヶ谷のいちょう横丁にあるでんでん串というところが店舗の貸出を行ってると聞きつけちょうどよい場所感や店内の感じでこの場所でやろうとなりました。

画像4

もともとこういった昔ながらの路地裏や横丁にロマンを感じていたので実際の横丁で何かをするというのはキツネツキとしては願ったり叶ったりでした。

1日限りの幻酒場ということで普通に営業するのではなく企画として面白いものにしたいと細かなところをこだわっていきました。それは入店時と退店時です。「非日常の場所に行って帰る」これはファンタジーの物語では必須な事柄です。日常を逸脱するその境界はいつだってなにかしら切り替わるポイントがあります。"結び屋 キツネツキ" では入店前に禊の紫蘇ジュースを飲み、敷居を跨ぐ前にきつね面を必ず被ってもらいました。面倒なシステムと感じてもらったかもしれませんがこれがあるだけできつね側の世界に入っていけたと思えてたら幸いです。
そして店内では必ずきつね面を身につけてもらい外すことはご法度。視界が狭く、口元がお面で邪魔をするため飲み食いがかなり大変だったかと思いますがみなさんその約束事を守ってもらい酒場を楽しんでいただきました。

画像1

店内は和と中華が入り混じる空間。ネオンライトにほのかに光る照明類。
そして店内にいるのはきつね面を被った人々のみ。

画像2

皆一様に同じようなきつね面を被っていることで個を特定するのは難しいのがわかってもらえると思います。(入店時に着用してもらったきつね面は亜子巫女によるひとつひとつ手塗りとなっているのでひとつとして同じものはありません)

このような集まりはアニメや漫画などの創作の類では見かけるが現実世界ではお目にかかったことはありません。仮面舞踏会が開催されていたのは今は昔、会員制のバーなどではそのようなパーティが開かれるかもしれないが表立って聞いたことがないのが現実です。ましてやきつね面を被るというのは稀ではないでしょうか。
東京都王子にある王子稲荷に初詣をするためのきつねの行列『王子狐の行列』や京都などでイレギュラーに行われる『狐の嫁入り』など狐面を被るイベントは探せば見つかります。けれどきつね面を被って交流するというようなことはないように思います。
そして、インターネット上でよく聞く匿名性を現実社会に持ってきたいとも考えていました。アバターによる匿名性ときつね面をかぶることで手に入る匿名性は近いのではないか?という気持ちがありました。

きつね面のデザインは口部分が露出しているものを被っていただきました。目の部分は本当に視界を得るためだけで大きく空いてるわけではありません。なので被ってしまうとその人の素性はほぼわからなくなります。目を見て話せとはよく言いますが目を隠してしまうとその人が完全にわからなくなるのは驚きであり発見でした。ではその人と成りをどのように把握していたかというとそれは声音でした。声のトーンや抑揚、単語の選び方などでその人がどんな人かを判断していたような気がします。他人のことがわからないからこそそのわかる糸口を探す。それはすごく単純だけどどのように探っていくのかまではわからなかったのでひとつのヒントとなりました。

話は少し変わりますが毎月22日に京都の出町柳にある鴨川デルタにて巨大なショートケーキを囲んでピクニックをする活動をGranewtonとしてもう今年で7年ほど続けてきました。詳しくはGranewtonを調べてもらえればとだいたいの感じはわかってもらえるかと思います。

画像3

鴨川という360度見渡す事のできる場所で特異なものを置き、それを偶発的に発見したひとでそれに興味関心があるひとが心の赴くままに近寄ってきて話しかけてくれるのです。そして気がつけばその人も居着いてピクニックをするなんとも不思議な空間です。このピクニックを続けて感じたことは人は偶然の出会いを求めているのではないか?ということと自分が知ったことを話をしたがりたいということです。共有したいというか。コミュニケーションをとること話題がひとつだけあればいいということもこのピクニックを通じて知りました。もう100回目に到達しようという感じですが未だに本名や素性がわからない常連の方もいらっしゃいます。けれどその人のことを知っているというか巨大ショートケーキに引き寄せられてきた人というだけでなぜか知った気になるというか、不思議な感覚だけがあります。

この"結び屋 キツネツキ"はGranewtonでの活動から一歩踏み込んできつね面を被ることで顔をわからない誰かとコミュニケーションを取る / 取れるのかいうことでもありました。ピクニックを通して人と成りが顔に出るということが肌感覚ですがわかるようになってきました。だからこそそれを意図的に消したらどうなるかが気になったのです。本当にどんな人かわからなくなるんです。年齢はもちろん生活感なんかもほんと消えてしまう。だからこそ信用と称して自分のことを語るひともいました。(その方は女性を口説いていました) バツイチだとか別居してるとか言わなきゃわかんないのになぁって気持ちで聞いてました。面白いですよねほんと。皆一様にきつね面だからこそどこで個性を獲得するかみんな考えてるんだなって。

画像6

酒場の一角に亜子巫女による御神託を授かる場所を用意しました。人生相談とか人に言えないことを言う場になればな、と。ひとり10分ぐらいで亜子巫女に想いを打ち明ける、きつね面を被ってるからこそ言えることもあるかなと思っていたらかなり深い相談を色々受けたそうです。相談中涙した人が一人や二人ではなかったとか。見ず知らずのどこの誰とも知らないひとに相談したいことがあったりしますがそういった需要ももしかしたらあるのかもしれませんね。軽い気持ちでやってみましょう、と始めたけどきつね面を被るからこその言える何かがそこにはありました。

画像7

話が終わった最後に亜子巫女自らが一筆したためてくれます。この写真の彼は二日前に彼女と別れたそうでその相談をしたそうです。相談内容がディープすぎやしませんか。

画像8

画像9

甘いものが大好きだったので飲食店をするならぜったいに甘味は欲しいとお菓子が作れる妹に無理言って頼んだりしました。そして数少ない料理で狐に関する企画なんだから稲荷寿司は欠かせません。亜子巫女の絶対的な希望により紅白稲荷となりました。店内では照明のせいでしっかり色の違いがわからなかったかと思いますがこんなにも綺麗な紅白だったんです。でもそこまで注文がなかったのでもっとこの良さを知ってもらいたい、そう思うのです。

画像10

狐ノ使イとして料理だしから店内内装までいろんなことをお手伝いしていただいたくらげさん(左)としょうこさん(右)。飲食経験者のふたりがいなかったらこのお店は回らなかったといっても過言ではない。それぐらい頼もしいおふたりでした。なにも見えないゼロからのところからいろんな助言をいただきました。ほんとありがたし。

画像11

容姿についてあまりいい思い出はありません。学生時代に比べたら容姿について言われることはなくなりましたがそれでも自分に一生ついて回ることのひとつです。SNSが容姿外見が関係のない世界になるかと思ったらそんなことは全くなくて。むしろ現実よりも顕著に優劣をつけられる世界になっているとすら感じます。そういったことは男性より女性のほうが顕著だと思います。「天気がいいですね」ぐらいの感覚で「お綺麗ですね」と容姿のことで会話を切り出す。そういった場面に出くわすことが多かったと思います。飲みの席ならなおのことです。でもこの結び屋キツネツキではそういったことができなかったのです。「俺の顔どんなだと思います?」とか「ぜったいあなた綺麗な顔をしてる」という憶測での話しかできないからです。「なんでこの店にきたんですか?」と探り探りに話をし始めてる姿は新鮮でした。

画像12

「結び屋 キツネツキ」、とりあえずやってみようという感じで開店致しました。知り合いの方、高円寺経済新聞さんの記事を見てくれた方、ふらりとお店の前を横切り気になり入ってくれた方、いろんな方に来ていただきました。噂を耳にした程度ですが漫画やアニメにもなった『鬼滅の刃』の影響で屋台のきつね面が飛ぶように売れているという話を聞きました。その流れでこのようなきつね面を使った企画やイベントに賛同してくれるひとが増えてくれたら私個人としてはすごく嬉しい限りです。

Granewtonのときに感じたことですが"続ける"ということがこの時代力になるんだと思います。単発で企画を打つということは比較的簡単な時代になりました。それを継続するのが逆に難しくなったというか… 結果をすぐ求めがちなんですよね。この「結び屋 キツネツキ」がどうだったかまだ個人的にはわかりません。そもそもこの企画を知らない人にどう伝えるのかわかりかねている感じもまだあります。続けることもそうですが言語化していく作業も並行してできたらと思うのです。

画像13

長くなってしまいました…
「結び屋 キツネツキ」についてなんとなくですがわかってもらえたでしょうか。基本的には一日限定でこれからもやっていきたいと思います。今年は四季毎になにかしらできたらという話はしています。きつね面や仮面舞踏会的なものに興味がある方はぜひ参加してみて欲しいです。

画像14

次回は
令和令和二年、四月十二日
『結び屋 キツネツキ - ハルサクラの宴-』を予定しております。
時間は18:00-24:00となります。
場所は変わらずでんでん串さんです。
〒166-0004 東京都 杉並区 阿佐谷南 3-37-5 紺野ビル 1F
https://goo.gl/maps/DP4ojVtc5Un9YNCo6
(でんでん串さん、普段の営業のときからメチャ安で串焼きがほんと美味しいのでおすすめです、ぜひいってみてください!!)

詳しくはツイッター上で #結び屋キツネツキ で告知していきたいと思います。

サクラの甘味などをご用意する予定です。
きつねになりたい方、ぜひともご来店お待ちしております。

どうぞよしなに。
キツネツキ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?