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「おいしい」との出会い



出会いは、一昨年の春先まで遡ります。

当時僕は、渋谷にある和食のお店で働いていました。コロナ禍によるダメージを受け、渋谷には全く人がおらず、まるでゾンビ映画の世界みたいで、深夜に開いているお店は、俺流塩らーめんくらいでした。

仕事の休憩中に、ふと見たInstagramのストーリーで、シェフは「料理の悩みにお答えします」と言って、上に表示される繋ぎ目の棒がありんこみたいに点々になるまで、本当に全てに答えていました。お店で使うような鶏の出汁やオイルのレシピまでそれはもう詳しく。思わずスクリーンショットしたのを思い出します。

「あぁ、この人まじだ、本気だ」
僕も20数年男の子やってます。本気の男とか覚悟が決まっている男は肌感でわかります。
この後すぐ、僕はsioの予約を取れる日をチェックする様になって、実際、8月の末に予約を取ることができました。

sioに初めて行った日の半月前、人間関係から来る悩みなどがあって、和食店を辞めて、通行止めや歩行者誘導、片側交互通行などをする交通整備のアルバイトを始めたところでした。夏真っ盛りの炎天下の中で、真っ黒に日焼けして、水一滴で生き返る感覚を感じて、一日中、自分と向き合う時間を過ごしていました。

いざ、当日。
料理人を諦めたつもりでいた自分でしたが、出てくるお料理の全てにロジックと気合、本気を感じて、アツアツの料理ってこういうことか、これがおいしいということかって、悔しい気持ちと寂しい気持ちを感じました。

その日はたまたま、シェフが厨房にいらっしゃって、お見送りにも来てくれました。
レシピ本(おうちでsio)がでるということ、これから店舗がたくさん増えるということを、初対面の僕にもアツアツで話してくださいました。
話の流れで、次の日面接に行くことになり、帰り道に履歴書を買って、皆さんにナポリタンを食べていただいて、その次の日にはパーラー大箸で働くことになりました。

「野菜のカットはスプーンに乗るサイズで」
「あと少しだけ大きくカットした方が食感よくない?」
「これレシピ通りだけど、今日は少し増やそうか」

毎日、こんなやりとりが行われていました。

自分たちのお店のメニュー、レシピも決まっているのに、常に試食して、疑う。何を食べても難しい顔して、トレビスがどうとか、ケチャップのメーカーがどうとか…
会社のスレッドでも、昼夜問わず常に料理の話が飛び交っていて、しんどい時は「大丈夫だから、信じて俺について来い」って言ってくれる本気の男がいて。

僕ははじめて、おいしい料理を作るということはどういうことかを知って、それを作るメンバーの一員になりたいと思いました。


何もしなければ、ただ過ぎてしまう毎日ですが、あの時感じたアツアツを忘れずに
食べていただける皆様にただただ「おいしい」と言っていただけるように、僕らは料理人として生きていきます。

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