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他人を変えることはできないけれど、今朝、夫が変わった

2階のクローゼットの前に佇み
「服はあるのに、着たいものはひとつも無い」
と、いつも通り途方にくれているところに、玄関から声が聞こえました。

夫:行ってきますよ~?

……今なんて言った?

クローゼットから取り出していたハンカチとストッキングだけを握りしめて階下にダッシュしたら、玄関前でゆっくりマスクを装着している夫がいました。

私:出掛けるのですか?

夫:ほい。

私:いてらしゃい

夫:いてきます~

まるで「引きこもり、外に出る」のストーリーみたいですが、夫は引きこもりではありません。むしろ私よりずっときちんと働いています。

ただし、夫はずっと「行ってきます」を言わない人でした。


遡ること6年。
ひとり暮らしの私の家に転がり込んできた彼氏。現・夫。

私の実家は、それぞれの「行ってらっしゃい」と「お帰りなさい」のために家族総出(たった3人ですが)で玄関まで出向く習慣がありました。
食事中でも、席を立って玄関までお迎え&お見送り。

なので、一緒に住み始めた彼氏が、何の予告もせず無言で出掛けていくことに私は衝撃を受けました。

ドアの閉まる音で、出掛けたことに気付く。

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え、なんて失礼なのかしら。

とはいえ、こんな些細なことでも、他人を変えることは難しい。
帰宅後、なぜ「行ってきます」を言わないのか、とお尋ねしたところ

出掛けたことはわかるよね(たしかに1Kの家ですから)
この時間に出掛けるのも知ってるでしょ?(定時通勤ですね)
自由に動きたいからめんどくさい(え?)

驚いた。
これをカルチャーショックと言うのだな、と思いました。
その行為、私は自分を軽んじられているように感じますよ、とは伝えましたが……とはいえ、彼が「行ってきます」にメリットを感じないことも分かりました。それは仕方ない。私に理想があるように、彼にも「こう生きたい」という理想があるのですから。

ただ、猛烈にモヤモヤする。
じゃあどうしよう?と考え、こちらから一方的に解決してやろうと決めました。

なにがなんでも、私は、見送る

出掛ける気配を察知したら、「出掛けるの!?行ってらっしゃい!お気を付けて!!」と玄関まで着いていく。
うっかり見逃してドアの閉まる音がした時には、ダッシュで玄関に向かってドアを開け、歩き去るところを呼び止めて「行ってらっしゃい!!」と見送る。

ひとまず満足しました。

そもそも、実家が全力でお互いの見送りをするのは、
根底に「これが今生の別れかもしれない」という考えがあるからです。
その意味においては、一方的な見送りでも私は満足でした。

そう、たとえ返事がなくても。たとえ振り向かれなくても。

(泣いてません)


そして6年。
夫は、一方的なお見送りに徐々に返事をするようになり、こちらを振り向くようになり、私の強硬な「行ってらっしゃい!!」に、「行ってくる~」と応じることも増えてきました。

でも、今朝の「行ってきますよ~?」は、本当に素晴らしかった。
夫がこんなに明確に『出掛けるけど見送らないの?』と意思表示をしたのは今朝が初めてです。

本人はきっと自覚していませんが、たしかに夫は変わりました。
出掛ける時には見送られたい人になりました。
いや、私がそうした。
ここまで長かったなぁ。あいつ可愛いなぁ。
本人にこの喜びを伝える気はありませんが、私はひとりで達成感に酔いしれています。

次は、私が玄関まで見送られたい。

それは、次の6年でなんとかします。

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