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お化けの話

―中尾
澁澤さん、幽霊って見たことあります?

―澁澤
たぶん、僕は見たことはないです。が、感じたことはあります。
この場所は今までいた場所と波長が全く違うなと。
「見た、見ない」でいうと、私の周りには「幽霊をみた」という人が圧倒的に多いです。

―中尾
私は見たことはないのですが、すごい怖がりなんです。
見えそうな気がして、怖いんです。だから、一人では寝られないんです。

―澁澤
あぁ、じゃあ見えると思います。やれば…

―中尾
やれば? 何を?

―澁澤
見える人たちがみんな言うのは、テレビのチャンネルを合わせるのと同じだというのです。
だから、中尾さんはたぶんボタンを押したら、チャンネルが変わることをわかっているのだと思います。

―中尾
なるほど。
例えば、うちの寝室が和室なんですけど、押し入れがあって、その押し入れのふすまがちょっとだけ開いてるのが一番いやなのです。それで、ちゃんときっちり全部閉めないと眠れないのです。

―澁澤
それって、お化け屋敷のレベルの話ですよね。

―中尾
いえいえ、どこに行ってもそうなのです。新潟に行ったときも、東北行ったときも。
でね、「なんで? 大人になっても治らないの?」ってよく言われるのです。
うちは、姉もすごい怖がりだったんですけど、結婚して、子供ができてから、怖くなくなったっていうんですよ。

―澁澤
うちのかみさんも、とても見えるというか、そういうことに敏感な人でしたけど、見えなくなりましたね。

―中尾
え?!どうしてですか?

―澁澤
そういうことに興味がなくなったのだと思います。敢えてそこにチャンネルを合わさなくなったんですよ。

―中尾
私も合わせてないですよ?

―澁澤
中尾さんは怖がりだから、合わせてしまったら見えちゃっていやだなと思うから、合わせないだけで、そういうことに興味がなくなってくると、全く見なくなります。

―中尾
一番怖かった話をしても良いですか?

―澁澤
良いですよ。

―中尾
広告代理店にいたときに、きもの屋さんの仕事で京都に行ったんです。
その時、きもの屋さんがホテルをとってくださるというので、スポンサーさんがとってくださるとおっしゃっているのだし、私も探すのが面倒なので、「じゃあ、お願いします」と言ったんです。
で、当日、そのホテルに行ってみると、細い路地を入ったところにそのホテルの入り口があるのですが、その路地がなぜだか暗いのです。昼間なのに。
で、入り口に立って中に入ったのですが、「あれ?まだチェックインの時間じゃないのかな?」と思うほど入り口が暗いのですよ。で、フロントで「早く着きすぎましたか?」と聞くと「あっ大丈夫ですよ。どうぞ。」といわれたので、チェックインして、カギをもらって部屋に行こうとエレベーターを降りると、今度は廊下が暗いのですよ。真っ昼間ですよ?!
カギを開けて部屋の中に入ったのですが、電気もつけているのに、部屋もやはり暗いんです。
いつもならすぐに荷物を降ろすのですが、なんだか落ち着かなくて、肩にバッグをかけたまま、バスルームやクロゼットをのぞいて窓を開けてみると、窓の外は隣のビルがとても近くて、その大きな柱がちょうど窓の真ん前にあって、すごい圧迫感でいやだなと思ったんです。で、そのまま窓を閉めて、どこも触らないで、部屋を出てフロントに行って、「あの、お部屋を変えていただいても良いですか?」って聞いたんです。
そうしたら、「何かありましたか?」とフロントの女性。
「いや、なんかちょっと嫌だったので、ほかの部屋に変えていただけないかなと思って…」というと、今度はカギを3つ並べて、低い声で「どこでもお好きなお部屋を選んでください」っていうのです。これっておかしいですよね。ちょっと怖くなって、フロントの女性に一緒に行ってもらったのですが、どの部屋も嫌な感じがして、「申し訳ないけど、今日はやめておこうかな」って言ったんです。すると、その女性が「ちょっと待って。では、こちらの部屋、本当は料金も違うのですが、良かったら使ってください」って一番上の広くて明るいお部屋に案内してくださって、「なーんだ、こんな部屋があるんじゃない」と思いつつ、部屋の窓を開けて下を見たら、見事に、お墓だったのです。暗かった路地の塀の向こうが全部お墓だったわけですね。
うわあ~、こりゃだめだ…と思ったところに、自分でホテルをとった同僚が電話をかけてきて「そっちのホテルはどう?」って聞くので、「ちょっとヤバいかも」というと、「見に行っていい?」と。
その人は好奇心いっぱいで飛んできたのですけど、ホテルに入った瞬間に青ざめて、「いさこちゃん、やめた方が良い」っていったの。それで、結局そのホテルには泊まらないで、その同僚の部屋に転がり込んで泊めてもらいました。
この話を、私はそのホテルをとってくれたきもの屋さんの部長に話したのです。すると、その部長さんは「あっ、大丈夫なんだよ、あそこの幽霊は。幽霊は甘やかしちゃいけないんだよ。『ここはダメです』と言えば、悪さしないんだよ」って言ったのですよ。
そんな話ってあります?

-澁澤
えーっと、その話を解説しろと言われてもねえ~(笑)
聞いた話でいうとね、幽霊にもいろんな幽霊がいるわけです。
波長の長さがみんな違うので、確かにそうやって悪さをしてくるような人もいるし、こちらがちゃんと言い聞かせれば自分がここにいちゃいけないと、聞くこともあるし…。向こうもチャンネルを合わせ間違えて出てくるわけですからね。まだ、肉体がなくなったこと、死んだことを分っていない霊もいる。そういうことがないとは私は思ってはいません。当然あるんだろうなと思います。
さっき気配を…と言いましたけど、私の経験でいうとね、車を運転していた時に、横からパッと何かが出てきたような気がして、慌ててブレーキを踏んだり、さっと車線を変更したりしたけど、何もなかったということがありました。その時たまたま後ろに乗っていた人が、そういうことが良く見える人で、「わー!」とその人も声を上げて、すぐにサービスエリアで車を止めて、塩とお酒とお水でおはらいをしてもらったということがありました。「ここが居心地がよいと思ってみんな乗ってきたからね」とその人は言ってました。
私は、姿は全く見えなかったけど、そういうこともあるんだろうなと思いました。

―中尾
なるほど。そういうことって、ありますよね、きっと。
ずーっと前のことですけど、梅津和夫さんという「まことちゃん」という漫画を描いた人の漫画を少しだけ読んだことがあるんです。

―澁澤
「猫むすめ」を描いたいた人ですね?

―中尾
そうです!
その人の漫画にあった話ですが、電信柱って道の端っこにありますよね。電信柱と家の塀の間の狭い空間を、なぜだか、わざわざ、たまたま通ったら、その瞬間に、全く風景は変わらない同じ道なんだけど、四次元の世界に行ってしまったという物語だったんです。
それがね、今でも時々出てくるのです、頭の中に。そうしたら、その電信柱と家との狭い空間を通れなくなってしまうのです。

―澁澤
だけどね、そうやって空想が広がっていくのって、楽しいですよ。
私も、一人っ子でしたから、そういう経験が結構あって、どこでもドアみたいに、いろんなところにドアがあって、そう思っていることは決しておかしくないですよ。

―中尾
大人になっても?おかしくないですか?
良かったけど、それって、澁澤さんだからじゃないですか?(笑)

―澁澤
一番怖いのは自分だと思いますよ。怖い自分が今度は自分を縛りだした瞬間に、身動きが取れなくなるというのが一番怖いですよね。

―中尾
何をどう縛るのですか?

―澁澤
怖いと思った瞬間、自分ではどうしようもないお化けという想いに、自分が押しつぶされるんじゃないかという自分が一方にいるわけじゃないですか、もう一方で、相手にしなきゃいいんだと思う自分がいて、だけど自分の心に恐怖心が生まれたときにそれが大きくなって、そういう心のざわめきが出てくると、思考も一方的になるし、行動まで縛ってしまう場合もあってそういう方が怖い。
さっき言った、ふすまが空いていたら眠れないというのと同じで、あそこから何かが出てくるんじゃないかと思っている中尾さん自身が、自分を眠らせないわけですよね。お化けが眠らせないわけではなくて。

―中尾
なるほど。想像している自分ということですね。

―澁澤
想像力豊かで、夢見るいさこちゃんで、全然構わなくて、それは周りから好かれる要因ではあるけど、夢見る自分が自分を縛っちゃったら、元も子もないよねっという話です。

―中尾
なるほど。今日はお化けの話でした。


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