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ネガティブをつかまない努力

―中尾
すっかり秋らしくなりましたね。
私ね、よく他人からなんでそんなにポジティブなの?
前向きなの?
元気なの?って言われるんです。
私は普通だと思っているのですが、「どうすれば前向きになれるのか?」と聞かれたときに、「前向きに考えるしかない」としか言えなかったんですけど、澁澤さんはどう思われますか?

―澁澤
私もよく言われますね。
だけど、ひょっとしたら、ポジティブになろうとして自分を奮い立てているわけではなくて、ネガティブなことをつかまないのかもしれませんね。

―中尾
なるほど。若いころ、私はネガティブに考えることが多くて、澁澤さんにご相談した時に
「それ、つかんじゃだめよ。流しなさいよ」ってよく言われました。今それがとてもよくわかるんですけど、それって感覚的なものですか?

―澁澤
感覚と訓練と両方ですね。

―中尾
なるほど、そうですね。もう言われて長いですものね。
だいたい「あっ、これだな」というのはわかるようになってきました。

―澁澤
私も昔はネガティブなことってはっきりわかるので、それをどうしたらよいかと、解決しないとその次の一歩を踏み出せないタイプだったと思います。

―中尾
澁澤さんが?

―澁澤
そういうときがあったのだと思います。だけど、ネガティブなことがあっても、つかまない時もあるわけです。全部が全部つかむわけではない。
例えば恋愛なんていうものは、うまくいかないわけですよ。
なんでうまくいかなかったのか、その原因を一生懸命考えてみても、全然自分は前に進まないし、ましてや恋愛も進まない。それだけ痛い経験を何回かしながらでも、その娘のことを忘れることはできるわけですよ。忘れようとしているわけではなくて、その娘のことを考えないと、「時はいつも親切な友達」という歌詞じゃないですけど、その娘は毎回頭の中に出てこなくなって、そうなると必ず好きな娘がまた見つけられるんですよ。

―中尾
それがポジティブなんですよ(笑)

―澁澤
そう、それをポジティブというんですよ。だから、掴んでネガティブなことを解決しても決して物事は前には進まないんだという理屈はわかった。後は、それをあの恋愛と一緒だなと思って、自分に習慣づけたのかもしれない。

―中尾
私は勉強が嫌いだったから、早く働きたくて、大学があった私学の学校だったにもかかわらず、上に上がれずにそのまま働き始めてしまったんです。働き始めたのが10代なので、社会に出て初めて高卒の痛みを知るわけです。そうすると、敵が多くなるのです。当たり前だけど、思い通りにならない。私の方が絶対正しいと思っても、世の中に合わせなきゃいけませんよね。でも、私が正しいと思ったら、戦ってたんですよ。一見、ネガティブではなさそうに思えるけど、「戦う」というのはネガティブに入っちゃうんですよね。

―澁澤
そうですね。戦うというのはエネルギーはいるし、何よりも時間がね、最後はむなしくなりますよね。

―中尾
しかも、勝つ見込みのない戦いなわけですから。だけど、迎合するのが嫌で、やっぱりずっと戦っちゃうんですよね。でも、戦ったからこそ、自分で分かったこともいっぱいあって、今思えば、あの戦い無駄だったなとか、あの時にこんなことしていたら、もっと楽しかっただろうなと思うこともありますけど、あの時戦ったからこそ、今の年齢になって見えてくることもありますね。

―澁澤
私もね、考えてみれば戦ってきたなと思います。
ビジネスの世界では、やはり同じようなことがあります。どんなに自分が正論を言ったところで、部長と課長では立場が違うし、課長と平の社員でも違うから、最後の決定権は違うわけです。ただ自分の見えていない世界のことを急激に持ち出されて、これだからこうやれと、今必要だとは思えないことをやらされる、不条理なことって仕事の中では山のように出てきます。上下関係がありますからね。そこでずいぶん戦って、本当に息詰まっているときに、私の部下だけど、ある会社を定年退職されてからうちの会社に来られて、私の下で働いていらっしゃった良いおじさんがいたのですが、その当時まだ30代のひよっこの私を捕まえて、「そんなところで戦ってもしょうがないですよ。3年、長くても5年待っていれば、不条理なことを言ってくるような上司は、ビジネスの世界からはどんどんつまはじきにされて、いなくなります。3年待っていなさい。」って言われたのです。その当時、新聞記者からも似たようなことを言われたので、大人の世界ってそういうものなのかなと思いました。だけど、「待っていろ」といわれても待てるものじゃないですよね。モヤモヤモヤモヤしたのですけど、ふっと3年後くらいに、その言葉を思い出した時には、たしかに、不条理なことを言った上司はいなくなっていましたね。

―中尾
そうですね。時が解決するとか、全部に向かい合わないで「放っておく」ということもありですよね。

―澁澤
そう、掴まない。放っておく。その中で自分のできる、自分が興味のあることをやっていくということを、癖としてつけられたんじゃないかな。
例えば今回のコロナの状況の中でも、私の仕事はほとんど地域づくりで、地方出張に行くことが多かったのですが、それがパタッと止まってしまって、普通だったら一生懸命やっていたものがコロナのせいで止められたと、ネガティブになろうと思えばいくらでもなれるんだけど、この期間中にこれをやりたいとか、やりたいことがどんどん出てくるわけです。
現にこの「キツネラジオ」を中尾さんと始めたのも、こんなことがなければ絶対始めていないわけです。コロナだったからです。
そうすると、その先がどんどん見えてきて、こんなこともできる、こんな発見があると、わかってくるとその方がはるかに楽しいですね。

―中尾
そうですよね。前向きになるとか、ポジティブになるとか… なった方が良いですよね?

―澁澤
なった方が絶対楽しいです。
少なくとも人間一人では生きていけませんから、周りの人と何かをやっていく、あるいは共感を作り出すというときに、その幸せ感を感じていくためには、ポジティブというのは重要な要素だと思います。
仏さまはね、七道輪廻といわれたんです。同じところをグルグルグルグルつかんで回っていると、何回も何回も生まれ変わらないとそこから抜け出せないよと。そういうようなものを掴むことをやめて、そこから抜け出す努力を自分でしなさいよと。それは自分ですることと、逆に自分の個を捨てることによって見つかる部分もありますよと。

―中尾
私の場合は、どうすれば前向きになれるかを考えたときに、先を想像する力が大事かなと思ったんですよね。大人と戦っていたからかもしれないけど、どんな大人がかっこいいか、どうなりたいかと考えたのです。
今、自分が言おうとしている言葉によって、相手がどうなるかを想像しますよね。返す言葉はいろいろあるけど、これを言うと怒るだろうな、こっちを言うと悲しむだろうな、本当はそのどちらかで戦いたいけど、自分の言いたいことを我慢してこう言うと、一緒に前を向けるなという、一つの問いに対しても考えられる言葉がいろいろあって、どれを選ぶかは自分次第。敢えて嫌なことを言わなければいけない場合もある。自分次第で、こうなるぞと想像できる力を持つことが大人だと考えました。
わかっているのにできないのか、自分のことばかりで考えない人が意外と多くて、私はそんな大人が嫌いでした。
なので、一歩先を想像する力が大事だなと思ってきました。

―澁澤
私もね、そう思った時期がありました。だけどね、それは考えてやることですよね。瞬時に。それは苦手だなと思ったのです。そういうことではなく、自分がいつも、もう一つその下、問題の本質をつかむ能力をベースとして持っていれば、自然となるようになっていくと、ある時体得したのかもしれないですね。

―中尾伊早子
何かきっかけがあるのですか?

―澁澤
きっかけは大きくないですけど、やはり最初自分の方向だとか、生きていくということがわからなくて、なんでもやれると思ったしいろんなことに興味があった。そんな中から、今の仕事にだんだんくる道すがらというのは、やれないこと、あるいは今やっても時間的に無駄なこと、自分でなくてもできる人がたくさんいること、とかをそぎ落としていった。あるものを見つけていったという過程ではなくて、やらなくても良いことをそぎ落としていって自分の方向が見えた。そぎ落としていくとそのままでよくなった。
その辺のコツを覚えたのかもしれない。それはね、もう40歳を過ぎていましたね。

―中尾
私は、戦い終えて…じゃないですけど、戦いがほぼ無駄なことが多かったので、「いやなことだけはしない」という感覚に変えました。それが似ていますかね?

―澁澤
そうやって、過程は中尾さんも私も全然違うけど、行きついたところは似ているのかもしれませんね。
それは、時間の経過というか、気づきの積み重ねというもの。
いきなり悟りが来るわけではないということですね。

―中尾伊早子
今日はそんなことを伝えたいと思いました。

―澁澤
とりとめのない話ですが、何かのヒントになればうれしいですね。


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