見出し画像

暮らしを見つめなおす

―中尾
最近、いろんなものの値段が上がってきていますね。
一つの国が戦争を起こして、その国との行き来が絶たれてしまうと、いろんなものに影響が出ますよね。

―澁澤
そうですね。グローバル経済ですからね。世界が全部つながっていますから。

―中尾
今までも、何度かそんなお話をしましたけど、特に今、実感されているのではないかと思います。ガソリン代とか、とても大変ですよね。
みんな、「資源がない、資源がない」っておっしゃるんですけど、私はそれにとても違和感があるのです。じゃあなんで江戸時代は鎖国していたのに、260年もみんなで生きてこられたの?って。資源がなければ生きられないですよね。
資源ってなんですか?

―澁澤
一つは食料ですね、そして水ですね、それからエネルギーですね。まあこの3つが天然資源ですね。

 ―中尾
日本は四季に恵まれ、水に恵まれ、土に恵まれ、素晴らしい国ですよね。

 ―澁澤
だから、260年、江戸時代が続いたんですよね。それは徳川幕府が武力で強引に治めてきたというよりも、人々が暮らしてこれる土地と暮らしがあったのです。プラス、それを円滑に動かす幕府があったと考えた方が良いでしょうね。

―中尾
皆がそれぞれにちゃんと生きられていたということですよね。

―澁澤
そうですね、「人口が少なかったから生きられたんでしょ」という話が良く出るのですが、江戸時代の後期くらいですけど、3000万~3300万人くらいの人口なんです。その当時の稲の収量を見ると、一反300坪辺り、だいたい2.5俵(150キロ)が日本の平均でした。今は反当り約10俵採れるんですよ。ということは収量は4倍になっています。ところが人口はその時の4倍にはなっていないのですよ。人口が少なかったから生きられたんでしょというのは、あまり理由にはならないですね。ということは、要するに生活のレベルですよね。江戸時代には戻せないと言いますけど、今のように、好きなものを好きなだけ食べられて、どこでも好きなエネルギーを好きなだけ使えます。逆に、好きなだけ供給しなさいという法律までできているのです。それを望んでいくと、当然戻れない話ですね。

―中尾
私がちんじゅの森を始めたのは、お風呂を薪で沸かして入っていた最後の人だなあと思ったので、「こうやって暮らせるよ!」ということを伝えたいなあと思って始めたのです。

 ―澁澤
まさに薪というのは植物ですから、1年間の植物の成長量だけを、食料を含めてエネルギーとして使ってきた社会が江戸時代なんです。
今私たちはこれだけ発展したので、植物を使っていると煩わしいから、もっと石油を使いましょう、もっと石炭を燃しましょう、もっと言ってしまえば原子力を使いましょうということになっています。それをどう考えるかですね。
そりゃ、江戸時代の家の中は寒いですよ。江戸時代じゃなくても、昔の茅葺屋根の家に行くと冬場は隙間風が通ってきて、煙は上に抜けていきますけど、天井は空が見えるわけですよね。煙取りの穴から。
そんな中で背中は本当に凍えて、いろりにあたっている前面だけがかろうじて熱を得ている。そこに戻れるかというか、それをどう思うかですよね。

 ―中尾
だけどね、今の時代、そこまで行かなくてもよいと思います。
朝、目が覚めてすぐにお湯が出たらとてもありがたいし、すっごく嬉しいです。それはその時代を知っているからうれしいわけですよね。だけど、それが当たり前だと思ったら、また違いますよね。出るのが普通だと思っていたのが、なくなったときの怖さって半端ないですよね。

 ―澁澤
ですから、今のウクライナの戦争を止められないのは、一つはそれが原因ですよね。
今の生活が不便になるのではないかという恐怖感。

 ―中尾
だけど、あの壊滅状態を見ると、何があってもおかしくないし、これどうやって復興するの?って考えたら、土地と太陽と水しかありませんよね?

 ―澁澤
私は前にお話した通り、真庭のバイオマスエネルギーの卸売りというか地域内でエネルギーを使うという仕事に携わっているのですけど、今回のロシアとウクライナとの紛争が起きる前から日本政府はこの一年で完璧にもう一回原子力に舵を切っているのですよ。だから経済産業省のある人たちは今回の戦争で、これで一気に原発を動かせるぞと思っているのですよ。
ということはね、消費者はどうせ生活を我慢することはできないと、もっともっとと要求してくるはずだと。それに応えるには原発を動かしましょうと。3.11からわずか10年です。

 ―中尾
それって、「国民は」じゃなくて、「自分は」でしょ?

 ―澁澤
だけど、国民はそんなもんだと思っている日本の役所の人は多いです。

 ―中尾
でもそれ勝手に決めないでって思いますね。

 ―澁澤
だから、消費者側がどこまで我慢とは言いませんが、使わないでいられるか、それを考えていかないと、いつまでたっても行政は国民を馬鹿にしてとは言わないけど、下に見て、自分たちが施してやるんだという感覚が抜けなくなります。いかに日本の国民が自分たちで考えなくなっているかという私たちの問題でもあるのです。

 ―中尾
みんなが考えなければいけませんね。
考えて、どこまでなら我慢して電気使わないでできるかなとか、ガスを使わないでできるかなということを知るべきですね。

 ―澁澤
使わないようにするわけじゃない、ゼロじゃないんですよ。
今の生活のどこの部分を削れるかということを真剣に考える。冷蔵庫の中にあんなにものを入れなければいけないのか、あるいは旬のものを食べて残さないようにしたらそのエネルギーは必要なくなるとか、それからパソコンとか照明のエネルギーというのはわずかなものです。それに対して動力系のエアコンとか冷蔵庫とか言うのは大変多くのエネルギーを使います。なおかつ、電気にするということは石油から作るとすると、石油の持っているカロリーの約3分の1の電気しかできない、つまり3分の2は熱エネルギーとして途中で捨てるということなんです。そこまでして電気を使い放題にするならば、原発を使うしかないでしょ!という理論です。そこしか回答がないと政府は思っているんですよ。

 ―中尾
「そうじゃない」と、みんなが言わないといけないのですね。

 ―澁澤
そうじゃないというのは、私たちがライフスタイルを変えないといけないということです。

 ―中尾
今、変え時ですね。今変えなきゃ変われませんよね。

 ―澁澤
そう、変え時です。小麦粉が必要なのか、米粉じゃできないのか、米は余っている。もうこの土地はいらないと言ってその上にソーラーパネルを張っている、本当にそれで良いのか?ということ。
目を覚まさないと!逆に言うと、世界中で日本が一番ひどいのです。全部海外に頼って。それよりも付加価値の高いものを国内で作って、食料だとかエネルギーは少々高くても海外から買って来ればよいではないかという風になってしまったのは、まだわずか5~60年なんです。

 ―中尾
だけど、もう建物もマンションになっていて薪では暮らせないわけですよ。山も持っていないので薪も出てこないですよね。ということは日本の国土をどう使っていくかという話ですよね。それは農林水産省?国土交通省?どこの問題?

 ―澁澤
省庁ではなくて、言うならば政治家の問題。もっと言えばリーダーの問題です。ただ、経済を中心に世界を見ていますから、経済界から必ず大反発が出ますから、そんなことを言う人は首相にはなれないのです。経済界はそれが良いとは思っていないけど、回していかないと自分たちが倒れてしまう。自転車操業というか、後戻りができないと思っているのですが、生きていくということ、ちょうどこれで食料もエネルギーも上がっていく、使いたいものが使えなくなるというときに、そこでもう一回立ち止まって、本当に自分に必要なものは何なのかと考えてほしい。ひょっとしたら、それは時間かもしれないのです。子供と向き合う時間、あるいは家族と食卓を囲む時間、あるいは一人で考える時間も含めて。

 ―中尾
このコロナで、思いがけずそこに行きましたよね。
これはチャンスかもしれませんね。

 ―澁澤
その通りです。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?