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暮らしだよりNO.4 ~飛島~

大変ご無沙汰をしてしまいました。
このページは、澁澤壽一さんと中尾伊早子がYouTubeでお送りしている「キツネラジオ」を文字起こししたものです。ラジオでは言葉が足りなくて伝えきれていない部分を修正しました。
今回は昨年の夏に伺った瀬戸内海の飛島で「育海(はぐくみ)」というフリースクールを訪ねた時のお話です。

中尾:
今日は瀬戸内海の飛島というところに来ました。こちらで、フリースクール「育海(はぐくみ)」の代表をされ
ています堂野博之さんを訪ねました。(ちなみに、澁澤さんは
このフリースクール「育海」の理事をされています。)
まずは、ここでフリースクールを始められることになった経
緯からお話を伺いたいと思います。
 
堂野:
経緯は、一番よく聞かれる質問なのですが、僕がこの島に出会ってからかれこれ7-8年になるんですけど、その頃はフリースクールをつくるビジョンは正直持っていませんでした。ただ、ここに廃校があって、この島に出会ったときに、ここで教育というか、子供たちと一緒に過ごすことができたら、何か素晴らしいことが出来そうだなあという直感みたいなものがあって、それからこの島と関わる中で、島の現状もだんだんわかってきて、できるだけたくさんの子供をこちらにつながらせてあげたいなあという気持ちが芽生えきたんです。
 
中尾:
まだ新しくて、とても廃校とは思えない良い学校ですよね。
 
堂野:
そうなんですよ。それで、そっちの方向に自分が向いたので、それから先は日々の暮らしの中で起きてくる課題を一つ一つクリアにして行ったら、段々現実に近づいていって、制度も整っていって、協力者も増えて来て、これだったら自分で立ち上げてしまった方が早いなと思って「フリースクール」という形にしたのが昨年です。
 
澁澤:
まず、フリースクールという言葉がわからない方がいらっしゃると思うので、その説明からお話していただけますか?
 
堂野:
これといった定義はないのですけど、学校に行けなくなったり、行きづらくなっているお子さんが学校と家庭だけだと、どうしても家に閉じこもり気味になってしまうので、そうではない第3の居場所として、気軽に立ち寄れる場所、安心して過ごせる場所をつくっています。それぞれのフリースクールさんによって、勉強を重視しているところもあれば、徹底的に遊ばせたいと環境をつくっているところもあります。
 
中尾:
こちらは遊びの方ですよね… 勝手に決めちゃいけないかな?
 
堂野:
そうですね。遊びというか、子供たちに全部考えさせています。
一日のスケジュールも、何をやっていくかということも、全部子供たちにやらせています。
 
澁澤:
これから子供たちに求められるのは、自分たちで自分のことを客観的に見ながら、社会とどうかかわっていくかということを、自分で考えて、決めて行動していくということ。そういう子供を国も育てたいのです。ところが先生方はみんな昔の教育制度で育ってきていますから、発想がないのです。それで、堂野さんみたいな人達が新しい教育というか、教えるのではなく、共に育つ方の「共育」を始めたということです。
 
堂野:
このフリースクールの名前も、「育海(はぐくみ)」ということで「育つ」が入っているのですけど、結局僕たちは何を与えたら子供がどうなるかという視点ではなくて、子供が自分の力でどうやったら成長していけるのかということだけしか考えていないので、一切なんにもしないんです、僕は。ただ見守って、何かやりたいと言えば「いいよ」というだけの存在ですね。
 
中尾:
堂野さん自身もそうやって切り開いてきたのですか?
 
堂野:
僕はね、中3まで学校に行けなかったんですけど、そこから親元を離れて一人暮らしを始めたんですね。だから全部自分で考えないといけないし、決めないといけないし、向き合わないといけないという環境にいたので、近いものはあるかもしれません。
 
中尾:
その経験から、こうやってみんなを自由にして環境を整えてあげられれば、ちゃんと自分で考えられる脳になっていくぞというのがあったのかもしれませんね。
 
堂野:
そうですね。僕は当時、学校に行けない状況の中で、いろんな大人を見てきましたけど、自分の本当の力を誰も信じてくれないという思いがあったのです。絶対子供は自分で成長する力を持っていますから。
 
澁澤:
それともう一つ、自分で考えるということと、そこには絶えず他人がいなければいけないのですよ。もともと今の教育制度のもとはイギリスのプライマリースクールと言われていますけど、船の教育から始まっているのです。子供たちを船に乗せて集団教育をするのです。船の上では、生きていくということと、力を合わせるということを嫌でもやらなければいけない。それで、今のプライマリースクールになって、寄宿舎で一緒に生活するということが、今の世界中の教育制度の根源の部分なのです。そういう意味では「島」というのはぴったりですね。
 
堂野:
まさに、そういう感じです。食事の場面でも、僕は作る側には入らないのですけど、食べさせてもらっています、子供たちに。これはね、子供たちだけで自由にさせると、食べなかったり、いろんな自由になってしまうから、そこに、堂野さんの分も作らなければいけないという役割があると、みんな頑張ってやってくれるので、非常に楽をさせてもらっているのです(笑)
 
中尾:
大事ですね。すごくいいです。
 
澁澤:
役割を持つということはとても生きがいになるし、それはもう過疎地域での独居老人の問題も全く同じですね。
 
中尾:
本当に。そして、なんていえば良いのでしょう…この解放感! 本当に気持ち良いところですね。
この島に来るだけで、この解放感で心が開く感じ… 子供たちにも感じますか?
 
堂野:
そうですね。環境が違うので、ただじっとして部屋でゲームをしているのと、こういう環境にいるのとではそもそもが違いますし、僕が何かしなくても島民の方がお世話もしてくれるので、そういう中でいろんなことを学んでいってほしいですね。
 
中尾:
じゃあ島民の人たちともお話されるの?
 
堂野:
もちろんです。
 
中尾:
そういえば、さっきも郵便を届けに行くとか…
 
堂野:
そうそう。郵便業務を手伝ってもらっているのですが、これも非常に良いツールになっているのですよ。自動的に島の方に会いに行って、お話して手土産もらって帰ってくるというね。
 
澁澤:
そりゃあ若い子たちが郵便持ってきてくれたらうれしいですよね。
 
中尾:
そうですよね。だってみんな中学生でしょ⁉ めっちゃ良いと思います。
 
堂野:
これが二泊三日とかの短期だとプログラム化してやらないといけないのですけど、長期だと放っておくんですよ。この子は海もあるのに釣もしないなという子もいるんですけど、段々お互いに刺激し合って、みんな飛び込み始めるんですよ、面白いですね。(笑)
そういうのがベースにあるので、授業として提供しなくても生活の中、暮らしの中に勝手に学びがあるので、そこを大人はできるだけ邪魔しないようにしています。
 
中尾:
基本は長期で半年間なのですね?
 
堂野:
はい。
 
中尾:
半年経ったら、みんな帰るのは寂しそうですか?
 
堂野:
半年で区切っていることにもちゃんと意味があって、せっかくご両親に高いお金を払ってもらって来ているので、自分の意思をもう一回示すということで、半年で区切っています。続けたい場合は、ちゃんと「続けさせてください」と自分で親にお願いをします。
 
中尾:
なるほど。交渉ですね。それで続けて残る人もいるんですね?
 
堂野:
はい。一年間いる子もいます。
 
中尾:
ここは、夏を過ごすにはぴったりな場所に見えますけど、冬はどんな感じなんですか?
 
堂野:
冬はやはり北風は吹きますし、海は荒れますし、なんにも楽しくない(笑)
 
中尾:
そんな冬は何をするのですか?
 
堂野:
いや、もう暮らしがあるので、一日三食決まっているし、洗濯も掃除もしなければいけないし、島の人に呼ばれれば手伝いに行くしという、暮らしそのものですね。
 
中尾:
島の人口はどれくらいですか?
 
堂野:
今居住人口でいうと25名になりましたね。
 
中尾:
年配の方たちですか?
 
堂野:
高齢化率でいうと90%。
 
中尾:
じゃあ子供たちが来るのはとっても良いですね。
 
堂野:
お孫さんたちが増えていく感じですね。
 
中尾:
澁澤さんは世田谷区の教育委員会もされていますけど、どうですか?こういう島での活動は。
 
澁澤:
もう学びの場は学校だけではないし、特に今はギガスクールと言ってタブレットを全員に配布しているんですよ。かつて義務教育と言って学んでいたことはほとんどがタブレットの中の知識で十分なんです。そうすると学校はどういう場かというと、先ほどの話じゃないですけど、集団生活をしたり、社会と関わるということの疑似体験をする場なんです。だけど疑似体験しなくても、社会そのものが一番の学びの場なんですよ。子供たちにとっては、地域社会ですとか、ここで言ったら島の人々、まさに暮らしとおっしゃいましたけど、暮らしの中にしか学べないんですよ、生きていく方法は。どんなに知識を持っていてもどんなに技術を持っていてもそれだけでは生きられなくて、暮らしの中で自分の生き方とか、暮らしをつくって行くということが、一番クリエイティブな部分なのです。
 
中尾:
最後になりますが、伝えておきたいことはありますか?
 
堂野:
伝えておきたいことというよりも、こういう場所が必要になってきているなということをすごく感じるので、行政とか教育委員会とかいろんな組織があるんですけど、こういう場所で子供が育つということをちゃんと受け入れていただいて、できる限りの協力体制をつくって行きたいなと思います。
 
澁澤:
全国的にね、コロナの2年半くらいの時間で、ものすごく不登校と言われている生徒たちが増えたんですよ。それが問題だと言っているのですけど、世田谷区の教育委員は「不登校」という呼び方をやめようと。なんかいかにも登校することが良いことで、登校しないのが悪いことだという言葉ではなくて、多様な学びが必要。どこで学んでも良いし、逆に子供たちが学びたいときにそれをちゃんと受けられる、経験したいときにそれが経験できる、社会のシステムというか、社会側の問題とか家庭の問題とか、そういうことを考えないと、これからの学びというのは意味がないなと思っています。
 
中尾:
今日は瀬戸内海の飛島からお届けしました。
 
「フリースクール育海(はぐくみ)」


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