見出し画像

ヒッチコックとプロセスエコノミー

ヒッチコックの発見

プロセスエコノミーという言葉をご存知だろうか?
作品や商品を売るまでの過程をファンと共有して、売り上げを作る手法のことである。

例で言えば、西野亮廣が「今」行っているエンタメ事業の裏側を”リアルタイム”で観れる西野亮廣エンタメ研究所があり、コレは現在最も順調なプロセスエコノミーの一つと言っても過言ではない。

実はこのプロセスエコノミーという仕組みだが、構造を分解してみると何十年も前にある映画監督が本質的な答えを出している。

その映画監督の名前はアルフレッドヒッチコックである。
ヒッチコックは、映画においてのサスペンスとサプライズの違いを次のように捉えている。


今、わたしたちがこうして話し合っているテーブルの下に時限爆弾が仕掛けられているとしよう。しかし、観客もわたしたちもそのことを知らない。わたしたちは何でもない会話をしている。と、突然ドカーンと爆弾が爆発する。観客は不意をつかれてびっくりする。これがサプライズ(不意打ち、びっくり仕掛け))だ。(中略)

では、サスペンスが生まれるシチュエーションはどんなものか。観客はまずテーブルの下に爆弾がアナーキストかだれかに仕掛けられたことを知っている。爆弾は午後一時に爆発する、そしていまは一時十五分まえであることを観客は知らされている。(中略)
これだけの設定でまえと同じようにつまらない会話がたちまち生きてくる。(中略)観客にはなるべく事実を知らせておくほうがサスペンスを高めるのだよ。

つまりサスペンスはあらかじめ爆発するかもしれないという情報を前もって与えるため何気ない会話や仕草に「意味」が生まれ、時にはその演者に対して「共感」が生まれる。
一方、サプライズは事前に情報を与えられないために瞬間的な驚きは大きいが爆発するまでの過程に意味はない。

これをプロセスエコノミーの文脈で解説してみよう。

プロセスエコノミーというサスペンス

同じ例になるが西野亮廣はオンラインサロン内で映画「えんとつ町のプペル」の劇場公開までの過程をその都度共有した。

2020年はコロナウイルスが猛威を振るい、そもそも映画の上映が不可能かもしれないという不安の中、西野亮廣は脚本を上映前から販売したり、オンラインサロン内で現在の状況を共有することにより、ファンを常にワクワクドキドキさせ、どのような結末になるのか分からない「サスペンス」を生み出した。

先を行くコンテンツと後追いのマーケティング

これは長年、エンターテイメントの「商売」という側面では見られなかったことである。
情報解禁は各メディアで統一され、それまでは内容やそもそも企画自体の漏洩が許されなかったまさに「サプライズ」の文脈で長年続けられていたエンターテイメント業界の掟を破ったことであった。

しかし不思議なのは、エンターテイメントというコンテンツの中では何年も前から研究され尽くしてきた「サスペンス」と「サプライズ」という違いが、何故かコンテンツの外つまり「マーケティング」という分野の中では長年発展してこなかった。

これは何故かというと、昔エンターテイメントというのは富裕層つまり生活に余裕のある人たちが娯楽を追求した上で生まれるものであった、そして現在は多くの人が生きるということ自体には困らず日々を生きている。

昔で言うところの富裕層というのは、日々の生活の上でお金で人生を左右するほどのことが起こらない人々であった。
そんな彼らにとって日々を生きるためのお金に対する喜びや心配はあまりに気にする必要はなく、その興奮できない心はエンターテイメントを消費することによって満たしてきた。

現在、日本において多くの人は毎日働いたりしているものの今日のご飯にありつけずに困る人は少ない。そして、公共の設備が整っているために感染症や戦争なので死ぬ可能性も非常に少なくなっている。

つまり、我々は昔の富裕層の生活に追いたのである。
そして、エンターテイメントという文脈で心を満たす必要が出てきた。

ただし、過去の富裕層と違う点としては皆が同じエンターテイメントを消費し楽しんでいることである。
それまでは、富裕層しか楽しめなかったので優越感や特別感が非常に優っていたが一般にそれが解放されたことで特別感は薄れてしまった。

そこで登場するのがプロセスエコノミーである。プロセスを共有することによりその過程はそれぞれの解釈があり結果的に自分だけのものとなる。
そのようにして生まれた作品は、自分のためのストーリーへといつしか変貌し熱狂へと変わる。

そしてそれはいつの間にか、応援や支援という文脈に変わりつつある。
事態は常に変化し、マーケティングの文脈も変わりつつある。
しかしながら、ヒッチコックが言うところのサスペンスとサプライズのように人の心が揺れ動くところは変わらないのである。
変わったのはどんどん豊かになっていく時代とその方法だけなのかもしれない

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?