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透けて見えるくらいの水の中に小さいトゲがある。スピッツの曲と同じ。そういう夏の緑も車窓から見える。そういう感性を私はまだ持っている。「もう二度とひとりが好きなんて言わない」と大きな声で木の机に叩きつける結果になったけれど、あの言葉が全てだったと思う。今はただ、ひとりじゃないことに安心するようになった。あまりに気がつくのが遅かったけれど、私の頭のなかに、誰かが残り続ける時間はとっても短い。だから、ひとりのとき目をつむると、人をかき集めている。そうして私の名前を呼ばせる。それがや

    • 水族館

      平日、純粋の愛を願って 週末、知らない男とSEXしてる君へ。 もらった香水は、かばんの中で破裂した。あの匂いが、だめだった。 シャワーの音、コンビニの廃棄、歯磨き粉の味しかしない不健康なキス。 白のキャスター、味が薄い。忘れられないのは、思い出しているから。 同じ男と、二度目がないのは、君のいびきがうるさいから。 思い出してばかりってことは、もう二度と戻らない。 「またきてね」ひどい夏、階段の踊り場に、とりの巣があった。 先に寝て、先に起きる、下くちびるを噛んで、こっちを

      • 歯を磨いてからコーラを飲む

        僕は、 部屋を片付けてもまた散らかすし、切符を買ったら失くすし、靴下を脱いだままにするし、コンタクトをちゃんと洗わないし、歯を磨いてからコーラを飲む。一生飲まないと思うのにまた酒を飲むし、二度と食べないと誓ったラーメン屋に並ぶし、三度目はない、と言われて四度目をするし、日用品を買うのを後回しにするし、このご時世で禁煙する気もない。同じ手口に引っかかるし、同じ手口で引っかけるし、昨日と今日の違いがわからないし、二年前から書いてることが変わらない。一人で生きていけそうな

        • アルコール中毒になる女

          ‪メッセージが来た音で目が覚めた。両目を開く力もないから、片目で見る。「久しぶり、急にどうしたの」という文面。その文より、送ってきた人の名前の羅列に驚き、まるで大遅刻した時みたいに飛び起きた。このまま火を出して死んでしまうくらい、頭とか心臓がどたばたした。体が故障しそうだった。やっと理解できたときには、両目が開きすぎて痛いくらいだった。‬ ‪ああ!もう、今夜も酒を飲んでやろうかしら。それはもうたらふく、酔っ払っていない時が、ないくらいに。‬ ‪この間、「酔っている時の自

          あなたは生きていてください

          どうか、あなたの中に居座らせてください。 あなたの中に、わたしがいれば、笑えるのです。 あなた、そう、あなたの中です。 あなたは生きていてください。あなたのこれからも続いてく、豊かで美しい生活の中にわたしを見つけて欲しいのです。 わたしのことを想い続けてほしいわけではないのです。あなたの美しい生活の中、その連鎖の先にわたしがいてほしいのです。夏の日に炭酸水を飲んだ時だったり、夕暮、遠くに聞こえる子どもの声と、食卓のにおい、聴いている音楽と音楽の間、その一瞬の静まり

          あなたは生きていてください

          卒業文集を踏みにじり、人様のため。 / 355文字

          もう、反抗できる先生はいない。 アウトローなんていう生活に憧れやしない。 うすら寒さすら感じるのだ。 自分が何者かであると、 信じ続けている思春期の燃えカスに。 卒業文集を踏みにじり、人様のため。 友人たちとの会話に儚ささえ、感じるのだ。 持続可能なことが美しいと知りながら、 一瞬の輝き、消えるとわかっている、ドラッグみたいな時間をみんなで取り繕う。 言葉の裏にあるトゲついた攻撃性を、情で守る。 誰かを傷つけないように、ただ少し見せるように。 永遠の別れみた

          卒業文集を踏みにじり、人様のため。 / 355文字

          母よ、堕落を許せ。117文字

          母よ、堕落を許せ。 拝啓、母へ。あなたは素晴らしい女性だ。 あなたのつくる野菜炒めはこの世の料理のなかで最も健康的だ。 母よ、わたしの堕落を許してください。 あなたがなにも言ってくれないから、わたしは、車窓に映る自分の顔から目を背けてしまうようになったのです。 #小説

          母よ、堕落を許せ。117文字

          イオンの火曜市 地獄 / 448文字

          ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ 心に余裕がない夜に頭の中をまわる言葉がきっと私の芸術なのだろうけれど、心の余裕がない夜に文字が書けるほど、地獄は見ていない。イオンの火曜市で冷凍うどんが安くなって193円だった。レジで200円を出して、3円を財布から探しているとき、しにたくなった。あのときのことを引きずっている。自分のことをまだ十代だと思っている。空腹で涙がでる。どうにもならないことを、どうにかしないと、どうにかなりそうなのだ。国会議事堂の前で、割腹自殺をすることを考えているくらいなら、街

          イオンの火曜市 地獄 / 448文字

          絶望に立ち向かう勇気

          私は、絶望に立ち向かう勇気というものを持ち合わせております。それは、そこらの人とは並外れた勇気であります。しかし、それしかありません。わたしは、いま、手に入れられるだけの絶望すべてに立ち向かい、なぎ倒し、ここに立っています。つまり、わたしには、幸福との接し方がわかりません。 幼い頃は、気弱な子でした。嫌なことがあると、すぐに拗ね、いっさい言い返すことなく小さく意地をはるだけでした。母に怒られても、決していい返すことなく、自室に閉じこもり、扉をすこし強く締めるといういかに

          絶望に立ち向かう勇気

          SEXしたから終わること、始まること。

          終わること、始まること。 始まったから、終わるという表現より、 終わったから、始まるといったほうが身近で、生々しい。 SEXしたから終わること、始まること。 たしかになにかが終わった。思い返してみろ。あの時、あの朝か昼間に見えた空の色だったり、アスファルトの匂いを。たしかにあの時終わったんだ。終わったと確信したのだ。だけれど、終わりは悲しいものだ。見ようとしない。そういうものだ。始まりに目を向けたのだ。そうして、なにが終わったのかわからぬまま時が経つ。悲しいのは、

          SEXしたから終わること、始まること。

          「坂口安吾の堕落論は聖書である。」

          「坂口安吾の堕落論は聖書である。」 電気ヒーターの前に座って、本の表紙が熱くなるのにも気づかないほど読み入っていた。友人が出してくれた茶はずいぶんぬるくなっていたけれど、ただ唇を濡らすためだけのように口に運んでいた。「はぁおもしろいな。」と一ページごとに声を出すと、友人は「嘘をつけ!嘘をつけ!嘘をつけ!」と坂口安吾の真似をする。彼は森見登美彦の本を読んでいる。駅前のラーメン屋に行こうと言いだしてからもう二時間経った。お互いに二度ほど、「そろそろ」と言って本を畳んだけれど

          「坂口安吾の堕落論は聖書である。」

          2018.1.9

          酒飲んでATM行くな ゴミ 世界は手の中に、手の中にはゴミ。 すべて忘れている、ただ母の愛情が歪んで。 #文 #散文 #エッセイ #写真 #ブログ

          2018.1.9

          2018.1.5

          「2日くらいさ、人とまともに話さんかったら脳みそ溶けるよな。」 「うん、まあ。言わんとしてることはわかる。」 確かにそうだ。彼のいうことは確かだ。 決してアルコールやドラッグなんかではなく、ふと脳みそが溶け始める頃合いがある。 それは、夕暮れの電車。母親にすこしの制止をされながら、それでも外を見ようとする少年を見たときが、わたしの場合はそうだった。 いわゆる大都会から、実家の方へ向かう。 二回、乗り換える。その度に人が減っていく。まるで取り残されたよう。窓の外に茶色

          2018.1.5

          「あの子彼氏と帝国ホテル泊まったんだって」

          「あの子彼氏と帝国ホテル泊まったんだって」また刺してきた。鞄をひっくり返すように充電器を探しながら。「帝国ホテルってどこにあるの?」と聞くとわざわざ検索して画像まで見せてくれた。豪華絢爛、上品とはまさにこのことなんだろうな。どんどん画像をスクロールしていく、まだまだ君の攻撃は続いている。「ここ泊まりたい?」一応聞いてみた。「泊まってみたいけど、そわそわしそう。まあ一回くらいは行ってみたいかなあ。」やっと携帯を消してくれた。きっと、帝国ホテルに泊まりたいわけじゃないんだろうな。

          「あの子彼氏と帝国ホテル泊まったんだって」

          僕の副流煙で死んでほしい

          2006年の東大阪市、急行が止まる駅。 二つ目の信号を右に曲がった路地。 アパートの名前は、カタカナで、なんだっけな。 一. 「靴下、片方ない」 「その辺にあるだろ」 「ない」 黒い靴下を、ひとつだけ持って、ぶらぶらさせてる。それなら、どっかで見たような気もするけど。 「妖怪のしわざだよ」 「なんていう妖怪?」 「妖怪 片方隠し」 「なにそれ」 呆れた声。 「ふたつじゃないと、意味がないもの の、片方だけ持っていく悪い妖怪だ」 「君のとこにもいたの?」 「うん

          僕の副流煙で死んでほしい

          湿気た春の恋

          わざわざ濡れて帰るような少女に恋をして、 未だに忘れられずにいるのだ。 つま先から濡れ出した靴下で、 湿気た春をまわしていた。 「春はあけぼの」と読んだ、あの詩人の名前は、試験が終わってすぐ忘れたが、 「春は夏へと美しくバトンを渡せばいいのに、なぜ、水たまりに入ってしまうのか。 梅雨はのけものだ。」 と言った友人の顔と名前は今でも覚えている。素人役者みたいな奴であった。私はというと、鞄を傘の中心にし、中に入っている本を守っていた。防ぎきれない横からの襲撃には身体を使うの

          湿気た春の恋