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『彗星書架』第3号 〜サラリーマン〜 レビュー③

BL俳句ネプリ『彗星書架』vol.3 ~サラリーマン~、プリント期限がついに10月15日(日)に迫ってまいりました。
多彩な5句作品のレビューをご紹介してきましたが、その最終回も胸が苦しくなるような妄想を綴りたいと思います。

(注)皆さんにネプリを手に取っていただきたいので、句を引くことはしませんが、ネタバレを避けたい方はネプリ印刷後に当記事をお読みいただくことをオススメします。
また鑑賞はすべて私の主観(ときどき妄想)によるものであることをあらかじめご了承ください。

『とりあえず』 星野いのり

その昔ことばを異常に短縮する文化があったのだけど、今の若い人たちも「とりビ」とかって言ったりするのかしら。
あ、「とりあえずビール」の略です。念のため。
先輩と後輩@居酒屋で、そんなかる〜い雰囲気から始まるこの連作。
続く二句目も、冷やしトマトを肴に遊ぶ話しか出てこない。
あれ?飲み会連作でしたっけ?
しかし中盤、後輩がサラッとぶっ込んでくる。
え、無理って何が?いやそれより「好き」ってそんな軽い感じで言うセリフ?
苦っ…。動揺してうっかり生搾りレモンの種噛んじゃった。内心うろたえる先輩。
とりあえずこの2人、ここまで仕事は全然してない。
さりげなく、でもうっとりするようなフィジカルコンタクトのひと時を経て、先輩・後輩の立場が微妙に崩れていく。
そして美しいフルムーンの結末。
きっとこの2人は、これからも居酒屋で変わらぬとりとめもない会話を重ねながら、月が満ちるようにさりげなくやわらかく関係性を変化させていくのだろう。
変わらないもの/変わるものの、それぞれの愛おしさをたっぷり見せつけてくれる2人なのでした。
なお、とりあえずこいつら最後まで仕事はしていない。

『同期』 相田えぬ

いきなりタイトルが関係性をズバリ教えてくれるので、ほうほうほう、とこちらも前のめりになってしまう。
いつも同じ位置の助手席。こないだ私が乗った時こっそり前にずらしておいたんだけど、今日はまた元の位置に戻されている。
まぁ考えてみればよくある話ですよ。頼めば車に乗せてくれるのも、七夕の日の仕事終わりに飲みに行ってくれるのも「同期だから」。
それゆえに、自分が相手にとって特別な存在なのかどうか、相手にはすでに特別な存在がいるのかどうか、確かめてみたくなったんだよね。
鬼灯を鳴らす。警笛のように。
終電を逃す。選択肢を奪うために。
それでも相手は拒まない。沼のように受け入れてくれる。
酔うと桜色になるその肌で。(そんなこと書いてない)。
朝の光の中でふと気付くと、その薬指には指輪跡。
ある決意が、すうっと澄みわたっていく。
助手席は、ゆずらない。(そんなこと書いてない)
…あぁ萌選にした作品だけに、妄想が加速してしまうごめんなさいごめんなさい。
と言うより業の深い関係へと妄想を走らせてしまうほどに、季語の活かし方が絶妙なんですよ。
たった5句なのに、季語によって行間が無限に湧いてくる。
くっ、堪能しちまったよ!BL俳句ってやつをね!

さてさて6作品の妄想鑑賞、何とか完結しました。
『彗星書架』の今後は未定ですが、またBL俳句の楽しみを皆さんと分かち合えるといいなと思っています。
それではまたいつかどこかで…。

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