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手鏡日録:2024年3月8日

四歳児には、家の中におともだちがいる。名を、チャポーくんと言う。
四歳児と長女が二人で行っているごっこ遊びには、たいがいチャポーくんが登場する。
その正体は、某ブロック玩具に付属していた小さな人形。その名前の由来は定かでなく、二人に訊いても「チャポーくんはチャポーくん」と要領を得ない。
四歳児と年の離れた長女は、よく面倒を見てくれていると思う。四歳児もそんな長女によく懐いているが、やはり遊びの取っ掛かりのところで好みや成長段階の違いから、ズレが生じてしまう。例えば、人形遊びで仲のいい友達同士の世界を作りたい長女と、恐竜たちのバトルを繰り広げたい四歳児、みたいに。
そんなとき、二人はチャポーくんに訊ねる。「チャポーくんはどうしたい?」と。そうしてチャポーくんは、どう遊びたいかという二人の意思を互いに代弁して、遊び方をうまく調整してくれる。依り代であり、ハブになってくれる。
遊びがうまく進むと、チャポーくんは役割を終え、影が薄くなる。忘れられてしまうわけではないが、遊びのいちキャラクターとなり、出番は少なくなる。
いっとき熱狂的に必要とされても、その地位は不変のものではない。チャポーくんも、家族の成員の誰もが。最後に残るのは、そこに存在することのゆるしだけなのかもしれない。二人の遊びが移ろっても、チャポーくんの表情は変わらない。
家の外では夕陽が沈んでいる。じんじんと潤みながら。

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