第2章 最愛の人との出会い
第1話 セックスよりもオナニーが好き
翔はセックス出来ない身体となり、オナニーの見せっこでしか達する事が出来なくなってしまっていた。
でも、まさか好きになった女性にいきなり「君が一人でしてる所を見せて欲しい」なんて言えるはずもない。だから翔は好きな娘が出来ても、結局何もする事が出来ないのだ。たとえ自分の部屋で女性と二人きりになったとしても。
そんな中で出会った神谷江梨香という女性がいた。
江梨香との出会いはいわゆる「逆ナンパ」つまり江梨香が翔をナンパした事で始まった。場所は高崎線の上り電車の中だ。
比較的空いているにもかかわらず、なぜか翔の隣の席に座ってきた女性がいた。
どこかで見た事がある制服姿で、割と翔の好みの顔だ。髪の毛は肩くらいまである。
「ねぇ、あなたどこまで行くの?」
「は、はあ。新宿へ行きます。友達と会う約束してて」
翔は江梨香がかなり年上に見えたので敬語で話していた。しかし……
「そんな敬語なんか使わないでよ。私は社会人1年目だから。良く実年齢よりも上に見られるんだ。あなたは?」
「はあ、1コ下です。やっぱり敬語使います。」
当時の翔は大学4年生で就職活動真っ最中であった。
「いいって。やめてよ」
「まあ、そう言うなら」
こんな感じで知り合い、その後はとりとめもない世間話を色々とした。まあこのときはあまり深く付き合おうとかは考えていなかった。
江梨香は埼玉県熊谷市のデパート勤務だそうだ。どこかで見た事のある制服というのは気のせいではなかった。話も面白く、いつもなら退屈なはずの電車が楽しいものになった。
あっという間に新宿駅についてしまった。これでお別れはしたくないな……電話番号聞こうかな……すると江梨香がこう言ってきた。
「せっかくこうして知り合ったんだから連絡先交換しない?」
「ぜひ。今度どこかへ行こう」
こうして、江梨香と知り合った日には、たわいもない話と連絡先交換だけで別れた。
その後2回2人で会い、3回目のデートでキス。
4回目のデートで親と姉のいない時を見計らって大宮の自宅に誘うという、典型的なマニュアル的お付き合いを進めていった。まさに教科書的なステップを踏んだわけだ。
美紅との恋で順序を覚え、キスもかなり上達した。
でも、ここから先はちょっと教科書とは違う。まずは教科書通りにこう言って誘う。
「何もしないから僕の家で遊ばない?」
問題はその後だ。翔は言葉通り本当に何もしないのである。なぜなら普通のセックスが全く出来ないからだ。
原因は元カノだった美紅とのプレイ内容にあった。2人はほとんどセックスはしていない。大部分がオナニーの見せっこである。そこで膣内ではイクことが出来なくなってしまった。
さて、翔がセックスしないとなるとたいていの女の子はどうするか。他にも何人かの女の子とベッドインのチャンスがあったが、いずれも何もしなかった。
いきなりオナニーの見せっこをしようとは言えないから、俗に「男の恥」とさえ言われている「据え膳を食わない」事になる訳だ。
そうすると、当然愛想をつかされて別れる事になる。江梨香ともそうなる可能性が高かったのだ。
「ねぇ翔クン、本当に何もしないんだね。私ってそんなに魅力ないかなあ?」
「そんな事ないよ。正直に言うね。諸事情でセックス出来ないんだ。だからもし嫌ならそう言って欲しい。」
「そうなんだ。なぜ? 無理にとは言わないけど」
翔は包み隠さず言う事にした。今まで下手に誤魔化すといい事がなかったからだ。
「以前付き合ってた娘がセックスがあまり好きじゃなくて、オナニーの見せっこばっかりしてたんだ。それで僕もそれが気に入ってしまって。いつのまにかセックスではイク事が出来なくなったんだ。」
江梨香は翔を逆ナンパするぐらいだから、少なくとも見た目はタイプだったのだろう。当初は翔の性癖にも理解を示し、プラトニックな交際が続けられた。
でも、少し経つと江梨香もやはりなんとかしてセックス出来るように働きかけてくる。そんな事はとっくにやり尽くしているというのに。
「今日は調子良さそうじゃない。ちょっと試してみない?」
「そうしようか」
しかし、いったん普通のセックスが出来ない程の超遅漏になってしまうと、そう簡単には元のように出来るようにはならない。
結局、江梨香との交際は半年間で終わりを迎えた。
交際が比較的長く続いた上での破局は、2人の心の傷を大きくした。すぐに別れた方がお互いに心の傷も少なくて済んだかもしれなかった。
江梨香との破局の傷がまだ癒えないまま、翔は大学を卒業して就職。社会人となった。
翔は、一時はもう二度と女性と上手く付き合う事は出来ないのではないか、と考え始めていた。
そんな中で、翔はインターネットを使って、自分の性癖に会う人との出会いを考えるようになった。
やはりあれだけ好きだった美紅をそう簡単には忘れる事は出来ない。でもこのまま貴重な人生を浪費するのももったいない。そろそろ先へ進まなければと考えたのだ。
そして、自分にピッタリの人をピンポイントで見つけるには、もうインターネットを使うしかないと悟った。
ただ、ネットを使う事には抵抗もあった。相手の顔が見えないし、直接会って話すのとは違い、ある程度変な人ではないだろうという確証がつかみにくいからだ。
実際に、変な人と知り合って凶悪事件に巻き込まれたという話も聞く。
また、女性らしきHNを使っているからと言って、必ずしも女性とは限らない。
インターネット上には、ネカマと呼ばれる女性のHNを使う男が跋扈していると聞く。
そんな人に当たった日には、とんでもないトラブルに巻き込まれる事必至である。
幸運だったのは、翔がとてもポジティブシンキングの持ち主だった事である。
普通ならば、セックス出来なくなれば男女交際を諦めて、日陰で生きる事を考えても不思議ではない。でも翔は違っていた。これだけ気持ちいい事なんだから、自分の他にもオナニーの見せっこが好きな女性はどこかにきっといるはずだ。そう考えたのだ。
最初はエッチな出会い系サイトを利用していた。そこでオナニーフレンド、いわばオナフレとでも言うべき友達が出来た。ひとまず身体の欲求は満たす事が出来るようになった。
でも、翔は次第にむなしさを感じるようになった。なぜなら翔が欲しかったのはオナフレではないからだ。美紅の事を忘れさせてくれるような、燃えるような恋をしたかった。出来れば将来結婚を考えられるような恋人が欲しかったのだ。
その目的を達成するためには、出会い系サイトでは難しかった。かといって、真面目な婚活サイトや、結婚相談所では、翔の性癖を伝えるような活動は難しい。規約違反になるし、こういう真面目な出会いを求める場に来る女性には、この手の話はタブーである。
そこで次に翔が考えた事は、自分の性癖をカミングアウトするサイトを立ち上げて、そこで深く自分の事を理解してくれそうな女性からの連絡メールを待つという方法だ。
サイトの内容は、自分がセックス嫌いである事、なぜそうなってしまったか、そしてセックスの代わりにオナニーの見せっこが好きな事を語ったページが中心コンテンツである。
これは素晴らしいアイデアだった。ほどなくして翔と同じセックス嫌いでオナニーの見せっこが大好き、かつ真面目なお付き合いを望んでいる女性からのメールが翔の元に届くようになったのである。
> こんにちはsyoさん。私もセックスよりもひとりエッチの見せっこが好きです。
こうして翔は、セックス嫌いでオナニー好きという自分の性癖に合い、しかも真面目なお付き合いを望む女性と知り合う手段を手に入れたのである。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
次の第2話は、いよいよこの物語のヒロイン、深山早紀が登場します。翔と早紀が運命的な出会いを。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!
第2話 「不感症」になってしまった男、「感じすぎる身体」になりたくなかった女
そんな中、ひときわ目についたのが、深山早紀からのメールだ。
>こんにちはsyoさん。私もセックスはあまり好きではありません。ひとりエッチが大好きです。
>よかったらこちらでチャットしませんか?
https:××××…
当時はまだSNSが普及する前だったので、ネットでの連絡手段といえばメールかチャットであった。
早紀は、ほどなくしてツーショットチャットでのチャットセックスに応じてくれた。
翔は、早紀のメールでの自然な言葉遣い、その内容、更にチャットでのやり取りから、間違いなく女性であり、決してネカマではないと確信していた。そして、二人でしている事はエッチそのものであるが、意外とマジメで真剣な交際を求めている事も感じ取っていた。
ところが、早紀はネット上でかなり親しくなったにもかかわらず、どうしてもリアルで翔と会う事を頑なに拒否するのだ。
saki>……ア……
syo>キレイだよsaki。もっと良く見せて。
saki>いや、恥ずかしい……
こんな感じでいつも他の人とするよりもずっと盛り上がるのであるが……
>syoです。sakiさん、良かったら今度実際にお会いしませんか。あなたとはとても気が合いそうです。それに……チャットセックス、すごく素敵で……だからお会いしたいです。
>sakiです。私もsyoさんにお会いしたいです。でもごめんなさい、どうしても実際に会う事は出来ません。
>なぜですか?
>実は……セックス嫌いの他にも、誰にも言えない秘密があります。そのために私は多分、今後男の人とお付き合いする事は出来ないと思います。
>良かったら教えていただけませんか?
>それは無理です。ごめんなさい。
こんなガードが堅い早紀になぜそこまでこだわるのか。
今までの翔ならば、手っ取り早くリアルのお相手をしてくれる女性の方がありがたかったのである。でも、すぐに会ってくれる女性はそれだけ本気で真面目なお付き合いに発展させるのが難しい事に気が付いていた。
>syoです。sakiさん、やっぱりどうしてもお会いしたいです。たとえどんな秘密があっても驚きません。お願いします。実は私にも、セックス嫌いの他に誰にも言えない秘密があります。お互いに教え合いませんか。
やはりよほどの秘密なのだろうか。このメールを出してからしばらく早紀から返事が来なくなってしまった。
それでも翔はあきらめず、根気強く早紀を説得するメールを送り続けた。すると……
>分かりました。そこまでおっしゃるのなら私の秘密をお伝えします。
ついに早紀からカミングアウトのメールが届いたのだ。
早紀からのメールは驚くべき内容だった。
>実は私、現代医学では直せない不治の病に冒されているんです。
翔はすかさず返信した。
>どんな病気でも私はあなたのために力になりたいです。ぜひ教えてください。
>ありがとうございます。
早紀は自分がどんな病気なのかを翔に伝えた。
翔はエイズみたいなものを想像していたのだが違った。
早紀の病名は正式名が「持続性性喚起症候群」別名「イクイク病」と呼ばれるものであった。翔はもちろんこの病気について知ったのはこれが初めてで、いったいどんな病気なのか想像もつかない。
この病気は日常生活の何気ない動作でも激しく性的に興奮してしまい、それだけでオーガズムに達する事さえあるという。その数は多い人だと1日100回を超すとの事。
早紀の話はこうだ。とにかく日常生活の何気ない動作、例えば自転車を漕いだときの振動のような事でも激しく性的に興奮してしまい、それだけでオーガズムに達する。彼女の場合は重症の場合と比べると、かろうじて日常生活は可能のようだ。
ここで、リアルタイムの会話の方がいいだろうと判断した翔は、いつものチャットに早紀を誘った。
syo>何かきっかけというか原因とかはあるのですか?
saki>私の場合は10年前に交通事故にあって生死の境を彷徨《さまよ》って、幸運にも元気になれました。でも、おそらくそれがきっかけとなって発病したみたいです。あとはうつ病とか、禁欲が行き過ぎたりしてもなると聞いた事があります。
早紀の場合もう10年前から症状があり、誰にも言えず一人密かに悩んでいたらしい。そりゃそうだろう。普通の人ならば恥ずかしくて死にそうに感じるはずだ。なにせ電車の振動だけでイってしまう事もあるとか。
だから仕事のある日は下着を何度も履き替えるという。更に夜ほとんど眠れないらしい。エッチな夢で何度も達してしまい、そのたびごとに目が覚めるからだ。いってみれば女の夢精のような事が起こってしまう訳だ。それも複数回。
これでは普通の人と同じ生活を送るのは難しい。そこで病院で診てもらってもお医者さんですら病気の事を知らない。異常性欲ではないかみたいなひどい事も言われたらしい。可哀そうに。このように治療する事が出来ない不治の病なのである。
更に、話を聞いただけでは女として魅力的になるような気もするが、そうでもないみたいなのだ。今まで恋人になった人は全員半年と持たずに別れを告げられたとの事。
あと快感というのは苦痛と紙一重。度が過ぎると絶頂も快感ではなく痛みにすらなるという。この病気の患者の中には絶望して自殺してしまう人もいるんだとか。
syo>でもなんで男が逃げるんでしょうか?
saki>やっぱり相手をするのが無理だからだと思います。性的興奮を抑えるにはオナニーかセックスで絶頂に達しないといけないんだけど、とても普通の男の人が合わせられる回数じゃないですから。
この病気の存在を知らない翔であったが、早紀がでまかせを言っているとはどうしても思えなかった。なぜなら異常性欲の持ち主のような美紅の相手をしてきたから、早紀が異常性欲の持ち主ではない事はすぐに分かったからである。
syo>そうなんですか。大変ですね。僕なんてまだましな方だ。少なくとも日常生活には何の支障もないですから。でも僕にそこまで教えてくれるなんて嬉しいです。何か力になれないでしょうか。
saki>もう考えられる事はやりつくしています。数少ない権威の先生にも見てもらいました。薬とかカウンセリングで症状を緩和する事が出来ますが、完全に抑えたり、完治するのは無理なようです。
翔はなんとかして早紀を助けたいと思った。
saki>だから私に合わせるのは無理だと思います。私がセックス嫌いになったのもこの病気が原因ですから。今はもっとひどくなって男性恐怖症に近いです。男の人がうんざりするくらい何度も求めてしまうかもしれませんよ。
syo>気にしないでください。僕はオナニー見るの大好きですから、僕の前では気にせず何回でもしてかまいません。女の人が気持ちよくなってくれればどんな形でも嬉しいです。前の彼女も僕が出来なくなった後も何度もしてました。見てるだけでも幸せだったんです。僕ならきっとあなたの相手をする事が出来ると思います。
saki>そんな事今まで誰も言ってくれた事ないです。本当ですか?
syo>はい。
いわば「男の不感症」とでも言うべき翔が、「異常に感じすぎてしまう病気」の早紀と知り合ってしまった訳だ。こんな組み合わせ、普通に考えたら最悪のように見えるはず。ところが不思議な事に彼らの相性は抜群だった。
この相性の良さは、彼らが生まれつき有していた性格や好みというよりも、お互いに相手の事を思いやる気持ちから生じたのだった。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
次の第3話は、いよいよ翔が早紀に今まで誰にも言えなかった秘密をカミングアウトします。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!
第3話 男だって赤ちゃん産みたい~トランスジェンダー
syo>僕の秘密をお伝えします。聞いていただけますか?
saki>もちろんです。
翔は、女に生まれたい願望を持っている事、つまり自分がトランスジェンダーである事をカミングアウトした。
syo>子供の頃からずっと女の人に生まれたかったんです。
saki>なぜですか?
syo>まずは、赤ちゃんを産みたいと思ってます。
saki>え~っ! 本当ですか?
syo>はい。
saki>でも出産ってすごく痛いですよ。鼻からスイカを出すみたいなんて良く言われてます。それから男の人が経験したら死んでしまうとも。
syo>本当ですか? 僕が子供の頃に読んだ妊娠・出産に関する本にはそんなに痛くないみたいな事が書いてありましたが。
saki>それは読者を安心させるためにわざとそう書いてあるのだと思います。あとは……
早紀は少しためらいながら、ゆっくりと話を再開した。
saki>会陰切開ってご存じですか?
syo>いいえ、初めて聞きました。
saki>クーパーって言うハサミのような医療器具で、アソコの下を切る事です。
syo>えーっ! そんな事するんですか?
saki>はい。これしないと赤ちゃんの頭が大きすぎる時にアソコが派手に裂けてしまうんです。
翔はそんな事初めて聞いた。帝王切開でお腹切る事は知ってたけど、まさか自然分娩で体に傷をつけるなんて。
しかもあんな敏感な場所を。男でいえばボールかポールに傷をつけられるようなものである。
saki>病院によっては切らないですけど。あと助産院も。ナチュラルバースですね。
syo>いくら赤ちゃん産みたいと言ってもそればっかりは……
saki>でも陣痛がすごいから、麻酔なしで切っても痛みは感じないくらいなんですよ。
syo>陣痛ってそんなに痛いんですか……知りませんでした。
saki>そうですよ。それでも赤ちゃん産みたいですか。
syo>それでもやっぱり産みたいです。もっと言えば、たとえ帝王切開になったとしても気持ちは変わらないですね。
saki>それなら本物ですね。あと他に理由はありますか?
syo>幼馴染の女の子とのお医者さんごっこで、女性の性感が男よりもずっと強く、続けて何度でも気持ち良くなれる事を知りました。
saki>そうみたいですね。男の人はエッチの時もあまり声出したりしないですし、3~4回でもう出来なくなりますから。私がお付き合いした人には1回しか出来ない人もいました。この理由はごもっともですね。
syo>やっぱりそうでしたか。ますます女の人に生まれ変わりたくなりました。
saki>幼馴染の方はその後どうされたのですか?
syo>その娘とはその後恋人同士になりましたが、ある日突然行方不明になってしまったんです。
saki>そうだったのですか。悲しかったでしょうね。
syo>はい。立ち直るのにかなり時間がかかりました。でもあなたなら、きっとその娘の事忘れさせてくれるんじゃないかって思いました。
saki>あなたって本当に変わった人ですね。でもなんだかお会いしたくなりました。
syo>ぜひぜひ。
ついに翔は、早紀と直接会う約束を取り付けた。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
次の第4話は、いよいよ翔と早紀がリアルで会う事に。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!
第4話 出会い……そしてすぐに憧れの同棲生活へ!
翔はなぜか早紀とは上手く行くような気がしていた。何の根拠もないのだが。そしてその予感の通りとなった。
翔は自分の顔写真を早紀に送った。
>かわいらしい感じですね。お会いするのが楽しみです。
>ありがとうございます。
今まで「カッコいい」と言われた事はあまりなかった。褒められる時はいつも「かわいい」だったのだ。でも翔はそれがとても嬉しかった。
翔からは早紀に写真は求めなかった。見た目はあまり気にせずにネットで知り合った女性と積極的に会っていたのだ。でも早紀は進んで写真を送ってくれた。かなり翔の好みに合っていた。
>とても素敵な人ですね。今すぐお会いしたいくらいです。
>そんな……恥ずかしいです。
こんな感じで、会う前から既にかなり打ち解けた上で、メールで待ち合わせた。
待ち合わせ場所は地下鉄半蔵門線某駅前。いた。けっこう天然ぽい感じ。メールやチャットで感じてたイメージの通りだ。
「深山早紀さんですか?」
「原口翔さん?」
「そうだけど」
こうして翔と早紀は、インターネットを通じて出会う事になった。
翔は、今目の前にいるこの娘が自分と同じ性癖の持ち主なのかと思うと、とても親近感を感じた。それにこうしてリアルで会ってくれるという積極性と勇気にも脱帽。男だって躊躇するくらいなのに。
でも、この時はひとまず早紀に名刺を渡し、若干の世間話をしてすぐにお別れした。もちろん連絡先は交換した。
そして、その後再び会う事になった。今度はデートみたいなものである。
喫茶店だと周りの人の目が気になる。なにせ翔と早紀は禁断の特殊性癖で繋がっている仲なのだ。そこで近くの広場に行く事にした。
このあたりは高層ビルが立ち並んでいる場所だ。ここの公開空地のベンチに座って、秘密の会話を楽しんだ。
「いつ頃からセックス嫌いになったの?」
「病気になって3年くらいしてからかな。もうかなり経ったよ」
「そうなんだ。自分はもっと前、以前話した元カノが行方不明になったのが中学1年の頃だから」
かなり踏み込んだ会話だ。まあ、その前にメールでけっこう長期間、日常の話とかをして打ち解けていた。それになんといっても熱いチャットセックスまでした仲だから。
翔はこんな会話していたら我慢出来なくなってしまった。ダメ元で誘ってみる事にした。そして例の決まり文句を早紀に伝えた。
「なにもしないからこれから家に遊びに来ない?」
これは嘘ではない。なにせセックス出来ない身体なのだから。
「本当? 行ってもいいの?」
「ぜひ」
こうして翔と早紀は、出会った日の次のデートで家で2人きりですごす事になった。
更に、そこでオナニーの見せっこをするという夢のような事をしたのである。早紀は翔と一度もセックスした事がないにもかかわらず、見せっこに応じてくれた。
まあ、翔のサイトがきっかけだったからある程度は予測出来たのだが。
翔はまず早紀に軽くハグすると、早紀は強く抱きしめ返してきた。
翔も思わず強く抱き締め返す。そして早紀のほっぺにキスをすると、早紀は目を閉じた。翔は軽く唇を重ねた。
普通のカップルならばこの後セックスになだれ込むのだろうが、この2人はそうではなかったのだ。
「早紀さん、君が一人でしている所を見せて」
「いいよ」
早紀は翔の目の前で椅子に座ってほんの少し脚を開くと、洋服を着たままスカートの中に手を入れて、女の子一人だけの営みを開始した。
少しづつ服を脱いで行って、いつのまにか下着1枚だけしか身に着けていない。
徐々に息が荒くそして早く変わっていく。
早紀のオナニーは変化に富んでいた。美紅のようなシンプルな指オナをしたり、バイブやローターを使ったり。声はかなり控え目だ。
まずは指オナ。ひたすらアソコをいじりまくる。早紀は左手で胸を愛撫していた。胸もかなりの性感帯のようだ。
「あ……ン……」
今ので3回イッたらしい。本当にすごい。
続いてピンクローター。やはりクリに充てて軽く撫でる。みるみる愛液が溢れてくる。これなら替えの下着が何枚も要るというのも納得。そして時折中に入れて軽く出し入れした。
「……く……」
今度はこれで5回。なんという高感度の体なのだろう。
バイブを使ったときはかなり情熱的だった。クチャクチャ、ズブズブという愛液がまとわりつく音を立てながら、激しくバイブを出し入れする早紀。
「あ……あ……イクっ!」
はじめてイクという喘ぎ声を聞いた。ほんの10分程度でまた5回イッたとか。
「中も感じるの?」
「うん。子宮口がすごく感じる。バイブがここに当たるだけで達しちゃうよ。」
翔は美紅以来、初のオナニー見せっこに大興奮。
「本当はもっと声出したいけど、周りにバレないように押し殺すのに慣れちゃって」
早紀は恥ずかしそうに言った。
「いいよ。あまりわざとらしいとかえって萎えちゃうから。そのままがいい」
「普段はもっと地味なの。とにかく周りにバレないようにする事が最優先だから。見てみる?」
「見たい見たい」
早紀は脚を閉じたまま、ほんの少しだけ締め付けるような仕草をした。普通に見ていたのでは、締め付けていることすら分からない程自然な動きである。
「ン……ン……う~ん……」
すごい、見た目では全くわからない状態でイケるのか。美紅以上だな。
これも早紀がなんとかして日常生活を送るために、切実な思いで身に着けた技術なのかと思うと切ない。
「いいよそのオナニー。最高だ」
「いやン……恥ずかしい……」
今までの最高記録タイの5回の射精まで時間はかからなかった。
それでも早紀は少し経つとまたモジモジし始めている。本当に可愛いな。
「さすがに今日はもう限界だ。でも気にしないでいくらでも自分でして。僕ずっと見てるから」
「ありがとう。それじゃお言葉に甘えようかな」
早紀はその後も何度も絶頂に達し、翔はそれをずっと見つめながら声を掛け続けた。
翔は早紀に真面目な交際を申し込んだ。
「よかったら、これから僕と真面目に付き合わないか。これからは『翔』って下の名前で呼んで欲しい」
「はい。私の事も『早紀』って呼んで」
翔はインターネット検索で、更に早紀の病気がいかに深刻なものであるかを知る事になった。
イクイク病による性衝動がいかに強いかを物語る事が外国で生じていた。ある女性がこの病気で仕事もままならず、解雇されてしまったそうだ。ところがこの女性は強い人だった。
この職場を訴えて、解雇無効の判決をもらい、復帰する事が出来たのである。しかもそれだけではない。復帰後の職場で18回までアダルトサイトを見てオナニーする権利を認められるという判決だ。
「早紀の病気の事色々調べた。外国の解雇無効の判決の話とか」
「そんな事して職場に戻るなんて恥ずかしくて無理。ましてや仕事中に自分でするなんて絶対無理。その女性メンタル強すぎだよ」
「たしかにそうだよね」
もっと重症の患者だと、一日に何百回もオーガズムに達し、全く普通の生活が出来なくなり、あげくに自殺してしまったという例もある。
その患者は、継続的な症状に対応する為に働く事を辞め、ほとんどの時間を自室にこもって、バイブレーターと共に過ごす事しか出来なくなってしまったという。
その性的興奮状態からくる苦しみが自殺に向かわせたと思われる。
おそらく周りの偏見だってかなりひどかっただろう。
(早紀がそんな事にならないように良く見ていてあげなければ)
翔は、早紀と知り合った事で自分が何をすべきか、深く考えさせられた。
早紀は、決して翔に無理にセックスするようにみたいな事は言わなかった。それがすごく楽だったのだ。
他の女の子はとにかく、翔がセックス出来ないと知るとすぐに別れを切り出すか、あるいはなんとかしてセックス出来るように働きかけてくる。そんな事はとっくにやり尽くしているというのに。
「早紀、一緒に住まないか。今の状態を『生活様式』にすればいい。そうすれば少なくとも家にいる時は普通に生活出来るだろ。できる限り協力するから」
「わー本当? 嬉しいな」
翔と早紀はその後すぐにマンションに引っ越し、同棲を始めた。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
次の第5話は、せっかく同棲生活を始めた翔と早紀の関係に暗雲が立ち込めます。ピンチ到来。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!
第5話 同情するなら愛をくれ
さて、ここまでの経緯で翔は早紀に惚れてしまったのかと誤解されるかもしれない。まだこの時点では惚れてはいなかった。
どちらかというと大変な病気に冒されてしまった早紀への同情と、セックスが嫌いで自慰が好きという同じ特殊性癖で苦しむ翔が共感し、安らぎを求めて一緒に居たかったといった感じだ。
それは、あたかも共生する動物、例えるならば翔がクマノミで早紀がイソギンチャクであるかのように。
まだ美紅の事を愛していたから、とても彼女の事を忘れて、他の女性を愛するまでの気持ちにはなれなかったのである。
とはいえ、とても相性のいい二人が同棲生活をしているのだから、もちろん翔の中に早紀への愛が少しづつではあるが育まれていった。
セックスしていないので、二人は愛の営みの最中も一定の距離を保っていた。いわば「愛のソーシャルディスタンス」である。
早紀はとてもポーカーフェイスで、表情も息遣いも全く変えずに絶頂に達する事が出来た。でも、しばらく一緒に暮らしているうちに、翔は早紀がいつ達したのか手に取るように分かるようになってきた。
そこで、そんな時にはたとえ下半身が役に立たない状態でもキスしたりハグしたり、「素敵だったよ」とか「綺麗だったよ」と声掛けをした。
すると、早紀はだんだんポーカーフェイスをやめるようになったのだ。翔の態度が、かたくなだった早紀の心に少しだけ変化を与えたのかもしれない。安心して体の感覚に反応してくれるようになった。
達したときの快楽に激しく歪められた顔。今までずっとがまんして表情を変えていなかったのかと思うと、その色っぽさに気絶しそうになる。そして甘い感覚に漏れてくる自然なため息。小刻みに震える脚。ぎゅっと力強く握った手。あの早紀が快感に素直に身を委ねていた。
「くぅっ……」
翔が達した回数はおそらく早紀の10分の1にも満たないだろう。でも、その射精時以外の時間も今の翔にとってはとても甘美な、幸せな時間であった。
とにかく目の前で女性が気持ちよさを味わっている、ただそれだけで途方もない幸福感を得た。
これは偽善などではない。こんな事もあった。
「翔、これ見て」
早紀はスカートを少しめくって下着を露にする。クロッチ部分が大きなシミを作っているのが見えた。激しく濡れている。
「私だけこんなに感じちゃって。申し訳なくて仕方がないの」
「それは違う。これ見てよ」
翔はズボンを少し下ろして、男のラブジュースが作り出した、大きな恥ずかしいシミのついた下着を見せながら言った。
「ほら、いつもこんなになってるんだ。男も濡れるんだよ。これってすごい気持ちいいんだ。精液がスッカラカンになってもこっちは決して枯れない。僕だってかなり感じてるんだよ」
そして軽くキスをした。
「すごい……男の人がこんなに濡れるなんて知らなかった」
「ア……ア……愛してる。翔、大好きだよ……」
「とても綺麗だよ早紀。最高だ……」
翔はこの期に及んで早紀に対して「好き」とか「愛してる」という言葉をかけてあげられなかった。なぜなら嘘っぽく聞こえそうだったからだ。
この2つの単語の重みを誰よりも知っている翔には、とても無責任に口にする事は出来ない。美紅の事が吹っ切れるまでは本気で早紀の事を愛せないのだ。
「私はあなたの事がとても好きなの。翔は私の事どう思ってるのか聞かせて」
「とても大切で、特別な人だよ」
「どうして好きって言ってくれないの?」
「……」
翔は言葉に詰まった。
「元カノのあの人の事なの?」
(やはりするどいな。これは正直に言うしかない)
「僕はその娘の事を本気で愛してたんだ」
「そうなんだ。やっぱり。なぜ別れたの?」
「別れたんじゃなくて、ある日突然行方不明になった。僕、まだ彼女の事忘れられなくて。本当にごめん」
「こっちこそごめん変なこと聞いて。わかった。私のあなたへの気持ちは変わらないから。いつまででも待つから。無理しないでね」
早紀のこのまっすぐな気持ちをぶつけてくれた事が、翔にとってはたまらなく嬉しくもあり苦しくもある。本当に複雑な気持ちだった。
その後、翔は一度早紀とケンカして実家に帰られてしまった事があった。
ケンカの原因は翔の未熟さだ。その日は翔も少し寝不足で気が立っていた。そんな中でいつものように女の夢精で早紀が夜中に目覚めた。
ここの所素直によがっていたのでその声で翔も起こされてしまったのだ。
「あーん。またイッちゃった」
「……」
「ゴメン翔、起こしちゃったかな?」
やはり早紀の方がずっと気持ちよさそうなのに嫉妬してしまい、何気ない言葉を発してしまっていた。
「僕もそんなに乱れてみたい。いーな」
「……ひどいよ。やっぱり翔も他の男の人と変わらないんだね」
早紀はそう言うと、二人の愛の巣であるマンションから出ていってしまった。
早紀がどんなにつらい思いでいたのか良く理解しているはずだったのに。翔は本当に情けない思いであった。
早紀のいない日々にものすごい寂しさを感じた。
(僕、早紀の事好きなのかも……)
美紅の事吹っ切れたのかな。こうして時の流れが心の傷をいやしてくれるのだろうか。
翔は早紀の実家に電話して平謝りした。
「本当にごめん。僕は君がいないと生きていけない。お願いだから戻ってきて欲しい」
「そこまで言われたら仕方ないかな。わかった。戻る」
早紀は嬉しそうに言った。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
もし、翔と早紀のカップルを応援したいと思いましたら、ぜひ♡評価とフォローをお願いします。
よろしければ、私のもう一つの長編小説「ひとり遊びの華と罠~俺がセックス出来なくなった甘く切ない理由」もお読みいただけると嬉しいです。
https://kakuyomu.jp/works/16816700429286397392
次から第3章に入ります。今度は早紀の過去の回想です。第1話は子供時代の早紀。まだイクイク病にかかる前の話です。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!
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