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第6章 命がけの出産


第1話 承諾可能性1000%の誘惑


「何だよ、そのもっと面白い願いって」

「まあ、そうあせらずに聞きなよ」

 イブはあいかわらず笑みを浮かべている。

「ところであんた、女優の古橋エリの大ファンだったよね」

「なぜ君がそんな事知ってんの?」

「あったり前でしょ。なんてったってあたいは神様なんだからね」

「何でもありっての嘘じゃなかったっけ?」

「そうだけど、やっぱり神様だからね。すべての神はすべてを知っているの。つまり神は全知の存在」

「へー」

「ところが、この話が一人歩きを始めてしまって、いつの間にか神は『全知全能』って事になった。これは半分正しくて、半分嘘なの。『全知』だけが正しいんだ」

 イブの話は、どう考えてもおとぎ話としか思えないのだが、中途半端な現実感もあり、翔は次第に真剣に話を聞き始めていた。

「それでさ、古橋エリの話に戻るけど、どうせならあんたのあこがれの人、エリと入れ替わってみない?」

「へっ?」

「あたいが、あんたとエリの身体を入れ替えてあげようかって言ってんの」

「そんな事出来るの?」

「もちろん。入れ替える人に何も制限はないから。なんならもっと凄い人でもいいよ。例えば……」

「例えば?」

「そうねぇ……世界有数の大富豪、セーレン・マリット夫人なんてどう? 一生お金の心配要らないよ」

「すごいなそれ。究極の逆玉じゃない?」

「逆玉って……あんたから見たらそうなのか。なんかややこしいな。あまり神をからかわないように!」

「大真面目なんだけど」

「そりゃどーも。でもさ、マリット夫人はあまりおススメしない」

「それはまたどうして?」

「絶対誰にも言わない?」

「分かった」

「実はさ……表向きはオシドリ夫婦と言われてるけど、それはマスコミ対策なの。あの二人は仮面夫婦もいいとこだよ」

「そうなんだ」

「それにね……」

「なになに?」

「あんたが女に生まれたかった理由の一つに、男よりも性感が高いからってのがあるでしょ」

 翔は顔を真っ赤に染めて言った。

「そ、そんな事まで知ってるのか! 恥ずかしいなあもう……」

「だから言ったでしょ。あたいは神様だって」

「分かった。そこまで言われたら君の言う事信じるよ」

「やっと信じてくれたんだ」

「それで、さっきの話だけど……」

「あんたちょっと誤解してる。たまたまあんたがかかわった角田美紅と、奥さんの早紀の感度が良かったんだね。それで過度に一般化してるけど、実際は女は男以上に性感の個人差が激しいの。それでね……」

「もしかして……」

「マリット夫人は不感症なの。あんたの方がずっと夜の生活は充実してるよ」

「そうなんだ。どんなにお金持ちでもそれは嫌だな~」

「ドスケベ! しょうがないな~もう。まあ、周りが羨むような地位を持つ人でも、本人が幸せかどうかは場合によるよね。神やってるとそういうの手に取るように分かる」

「すごいな。さすが!」

「少しは尊敬した?」

「大いに尊敬しますです」

「敬語やめてよ。嫌いなんだ」

「分かった。それにしても神様には守秘義務を課す必要があるんじゃないかな。個人の秘中の秘まで知ってるなんて」

「固い事言わないの! ここからが大事なんだから。最初の話に戻るけど、なぜエリをすすめるかっていうと、エリは世界レベルで5本の指に入る程の性感の持ち主だから」

「何だって!」

「性感だけならもっと上の人もいるけど、エリは有名女優でしかも旦那も有名プロデューサーの春先コージでしょ。やっぱりお金の心配がいらないっていいよね。世界有数の大富豪よりもこれくらいの方が幸福感は高いんじゃないかな」

「そりゃもうエリリンと入れ替われるなら、死んでもいいくらい嬉しいけどさ」

「どう? こんな魅力的な提案、受けるしかないでしょ」

「ちょっと待って」

「何よ。まだあたいの事信じられないわけ?」

「そうじゃないけど、ちょっと確認してもいいかな?」

「?」

「僕とエリリンが入れ替わるって事は、当然エリリンが早紀の旦那になるって事だよね?」

「そういう事になるね」

「そしたら、エリリンは早紀のめんどうを見て、無事出産出来るようにはからってくれるかな」

「そんなの期待する方がおかしいでしょ。だってエリは、あんたみたいに早紀に愛情は持ってないんだから」

「やっぱりそうか。そしたらエリリンじゃなくて、早紀と入れ替えて欲しいんだけど」

「あんた正気? 天下の古橋エリと入れ替わるチャンスなんだよ。あたいの気が変わらないうちにこの申し出を受けた方がいいと思うんだけど」

「やっぱり早紀を愛してるから見殺しには出来ないんだ」

「ヒューヒュー。お熱い事で。でもさ、良く考えてみて。世の中の夫婦って結婚する時には永遠の愛を誓うじゃない。でもどれだけ多くの夫婦が離婚してると思う?」

「それは……」

「離婚しないまでも家庭内離婚の夫婦まで含めたら、かなり多くの夫婦が上手くいってないからね」

 たしかにイブの言う事にも一理ある。なにせ現代の日本では、3組に1組が離婚していると言われているのだから。

「神がこんな事言ったら身もふたもないかもしれないけどさ、愛なんて幻想に過ぎないんだよ。それよりもお金も美貌もある楽しい人生の方が大事だと思うけど」

「そうかもしれないけど……」

「大事な事なのでまた言うけど、エリは感度抜群だから。夜の生活が10倍楽しくなるよ。早紀と違って普通の身体でだよ」

「早紀の事を悪く言わないでくれ」

「はいはい。しょうがないね。今すぐでなくていいからよ~く考えて返事しな。あんたは絶対あたいの提案を受ける事になる。気が変わったらいつでもあたいを呼びな」

 イブはそう言い残して、また突然姿を消した。


 さて、翔はイブの提案に魅力を感じなかったと言えば嘘になる。なにせずっとあこがれていたエリリンこと古橋エリと入れ替われるのだ。しかもその人が世界レベルの性感の持ち主だったとは。

 ただでさえ翔は女に生まれたかったトランスジェンダーなのだ。この際、早紀の事は忘れてイブの言う通りにした方がいいのではないか、そんな悪魔のささやき(?)が何度も翔の頭をよぎった。

 その日翔はすぐに家に帰る気になれず、あてどもなく街をさまよい歩きながら、今日の夢のような出来事について考え続けていた。

 そして……

「ただいま」

「おかえり翔。ずいぶん遅かったね」

「ちょっと考え事してて」

「私、今日もひどいつわりだったんだよ。しばらくはなるべく早く帰って来てって頼んだよね」

「うん、忘れてたわけじゃないよ」

「だったらなんでこんなに遅くなったの?」

「それは……」

「翔、私がこんなだからって、他の女の人と会ってたんじゃないでしょうね」

「まさか……僕が君以外の女の人と会うわけないじゃない」

 と言いつつも、一応イブも女の人といえば女の人である。敏感な早紀はこの翔のほんのわずかな後ろめたさを見逃さなかった。

「翔……あなたもしかして……」

「ち、違うよ、誤解だって」

「ひどい。もう信じられない……バカバカバカ!!!」

 また早紀とケンカしてしまった。夫婦喧嘩は犬も食わないとは良く言ったものだ。

 いたたまれなくなった翔は、家を飛び出していた。

◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

 次の第2話は、再びイブが翔の前に! 翔は何と返事するのでしょうか? お楽しみに!


第2話 神がサイコロを振る時


(ひどいよ早紀。君のためを思ってあんな魅力的な提案を断ろうと思ってたのに)

 翔は、とぼとぼと夜道を歩きながら、イブの提案を受けようかと考え始めていた。

(世界レベルの性感の持ち主かあ。いったいどんなに気持ちいいんだろう。考えただけでイっちゃいそうだ。それにエリリン美人なだけじゃなくてナイスボディだしな……お金の心配もなさそうだし絶対入れ替わりたい)

 そんな妄想が、早紀を想う気持ちをかなり上回ってきた。でも……

 翔の心に引っ掛かる言葉に出来ない違和感。これは一体何なのだろう。

 イブと話していた時には、明らかに早紀への愛情からの躊躇だった。でも今や早紀への愛情はかなり薄れ始めてきている。それでも、違和感は減るどころか、むしろ大きくなっていた。

 少なくとも、イブが神様である事はもう疑う余地はなかった。なにせ翔の心の奥底にある事まで知っているのだ。でも何かがおかしい。

(まず、当り前だけど自分の利益だけを考えちゃダメだよな。確かに女優の美貌と地位と性感が手に入ったら素晴らしいけど、これって得するのは僕だけだ。それに早紀への愛情だけ考えるのも偏り過ぎなんだよな。ここはゼロベースで冷静にもう一度良く考えた方が良さそうだ)

 翔は早紀とケンカした事で、クールにイブの提案を考える事になったのだ。

 そして……


「早紀とケンカしたみたいだね。だから言わんこっちゃない」

 翔の前に、再び現れたイブ。やはり不敵な笑みを浮かべて翔を見つめている。

「悪かったな。でもおかげで君の提案を冷静に考える事が出来たよ」

「ふ~ん。やっぱりあたいの提案を受けるってか」

「いや、受けない」

「何だって?」

「せっかくの提案だけど、僕にとってはもっと素晴らしいのが、やはり妻の早紀と入れ替わる事だって分かった」

「やっぱあんたおかしいよ。早紀なんてさっきみたいにちょっとした事でヒステリーを起こすような女だよ。そのうち愛情もなくなるんじゃないの」

「そうかもしれない。でもそんな事はどうでもいい」

「分からないな。どういう事なのか説明してよ」

「今僕は早紀をちょっとだけウザいと思い始めてるから、最初に君と話した時ほど目は曇っていないつもりだ」

「そしたらエリと入れ替わればいいじゃん」

「エリリンと入れ替わる事がもたらす、早紀が困る事とは別の問題が見えて来たんだ」

「聞かせてくれる?」

「まず、エリリンはたまったもんじゃないだろう。僕なんていう一般庶民になるなんてさ」

「あんたらしくない。もっとわがままになったらどう? もう一度言うよ。エリの性感は世界レベル。味わってみたいんじゃないの?」

「それはたしかに魅力的だ。でもさ、早紀をほっとけないのと同じで、好きなエリリンのためにならない事はしたくないよ」

「あんたがそんなに他人の事を考える人だとはね。エロのためなら何でもする人かと思ってたのに」

「あのねえ……いったい人をどんな目で見てるんだよ」

「じゃあさ、エリがOKすればいいって事だよね」

「いや……それでも答えは変わらないよ」

「何でよ?」

「僕には演技の才能も経験もない。だから、『大女優古橋エリ』がいなくなる事になる。これは僕にとっても、彼女のファンにとっても、いやそれだけじゃない。日本の芸能界にとっての大損害だ」

「ふうん。ずいぶんスケールの大きな事考えてるねぇ。でもさ、エリと入れ替われたらこの先お金の心配がいらなくなるんだよ。なんだかんだ言ってもきびしい世の中、先立つ物は大事だよ」

「そのとおりだね。でもさ、エリリンのお金を棚ぼたで手に入れたら、僕はきっと堕落すると思う。そして人間、一度転落を始めたら早い。君が言ってたマリットくらいの大富豪だって、あっという間に破産するなんていう例はいくらでもあるだろう」

「……」

「それ以前にさ、やっぱり自分で稼いだお金じゃないと嬉しくないし、気持ち良く使う事も出来ないと思う」

「あんたそんなしっかり者だったんだね」

「とまあ、色々考えたからなんだけど、一番決定的なのは君の事なんだ」

「……あたいの事?……何それ。なら素直にあたいの言う事聞いて欲しいんだけど」

 イブは自分の顔を指さしながら、不思議そうな表情に変わった。

「それが本心ならね」

「エリと入れ替えてあげるという提案は本心じゃないって言うの?」

「そう」

 イブの顔からは既に笑みは消えていた。

「ここまで僕が言ったとおり、君の提案はどう考えても不合理なんだ。僕以外に誰も得する人がいない。いや、長い目で見れば僕にとっても決して得とは言えないかもしれない。神様が本気でそんな提案をするとは思えないんだ」

 イブは目をつぶって黙り込んでしまった。

「もしかして君は、僕を試したんじゃないのか?」

 すると、イブは目を開いて再び翔をじっと見つめて言った。

「良く分かったね。お察しのとおり、あんたの事を試させてもらった」

「やっぱりそうか」

「あんたに悟られないように、一番の弱点のエロで攻めたけどだめだったか。まだまだ神として修業が足りないかな。あたいの負けだ。あんたの頼み、聞いてあげるよ。早紀とあんたの身体、入れ替えてあげる」

「ありがとうイブ。頼むよ」

「あたいが試したのは、あんたが考えている事が、あんたの想像以上に過酷だから。もしあんなチンケな手にひっかかる程度の覚悟なら、手を引こうと思ってた」

「そうか。やっぱり乗らなくて良かった」

「中途半端な覚悟じゃ駄目なんだよ。出産は男が経験したら死ぬ程の痛みを味わうんだ。しかもそれだけじゃない。早紀の病気、PSASイクイク病は出産時に大変な状態になる」

「どんな事になるの?」

「まず、PSASはあらゆる刺激に過度に敏感になるから、普通の人よりも更に陣痛の痛みが体感上増してしまうの」

「ただでさえ死ぬ程の痛みがもっと痛くなるって事?」

「そう」

「もう一つは、陣痛の合間に激しいオーガズムに襲われる。出産時は胎児の身体で産道が刺激されてるからね。そうすると、次の陣痛に耐えるために身体を休める事が出来なくなる」

「そんな事になったら……身体が持つのかな?」

「今の早紀の身体じゃ絶対無理。本当に命の危険が生じるよ。それでも入れ替わるの?」

「ああ。僕はかつて早紀に命を助けてもらった事があるんだ。今度は僕が早紀のために命がけでどんな事でもしてあげたい」

「分かったよ。早紀は幸せ者だね。あんたにこんなに愛されてるなんて」

 この時のイブの笑顔は、不敵な笑顔ではなく優しさに満ちていた。

◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

 次の第3話は、翔の前に立ちはだかる意外過ぎる障壁。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!


第3話 予想だにしなかった障壁


「ところでさ、入れ替わるためには一つ条件があるの。それと元に戻るのも」

「どんな?」

「まず入れ替わる条件は、当事者双方が入れ替わりの意思を持っている事」

「なんだ、そしたらやっぱエリリンは無理じゃん」

「だから~もうその話は無し!」

「元に戻る条件は?」

「入れ替わりの目的を達成するか、又は達成可能性がなくなるかのどっちか。本人達の意思では戻れないから注意して」

「目的?」

「あんた達の場合は、無事子供が生まれる事ね。仮に死産でも達成可能性がなくなるから、やっぱり元に戻る」

「縁起でもない事言うなよ」

「だからさ、あんたがまず真っ先にすべき事は、早紀と仲直りして彼女を説得する事だね」

「う~ん。機嫌直してくれるといいんだけどなあ。あれでけっこう強情な所があるから。前に怒って実家に帰られた事もあるんだ。まだ結婚する前だけど」

「まあ、せいぜいがんばんなよ」

「ちぇっ。冷たいなあ。あと心配なのが、早紀が君の事を信じるかって事」

「ああ、それなら心配いらない。あたいがなんとかする」

「どうするの?」

「あんたに信じてもらった時と同じ事する。早紀しか知らない事を彼女に言えば信じてくれるでしょ」

「それ知りたい。内緒で教えてくんない?」

「ダーメ。守秘義務があるから。懲役1兆年の刑に科されちゃうよ!」

「うそつけ!」

「それよりもさ、あんた早紀の機嫌が直りさえすれば彼女を説得出来るつもりかもしれないけど、たぶん説得するのは難しいと思うよ」

「それなら大丈夫じゃないかな。昨日『タツノオトシゴみたいに君と入れ替わってあげたい』って言ったら喜んでたし」

「そんなの冗談半分の話でしょ。あんたの心遣いが嬉しかっただけだよ。あと今はつわりが酷いから苦し紛れってのもあるかも」

「まあそうだろうけどさ」

「あんた母性本能を甘く見過ぎてるよ」

「そうかな?」

「もうすぐ安定期に入ってつわりも収まる。胎動も始まる。そうしたら早紀の中に抑えられない母性本能が目覚める」

「そうだろうね」

「母性本能は、あんたの性欲なんかよりずっと強い人間の根源的な本能なんだ。だから女はね、我が子のためなら平気で命だって捨ててしまうの」

「!」

「いくらPSASイクイク病で命の危険があっても、早紀は自分で産みたいんじゃないかなあ」

「う~ん。そう考えると入れ替わりをやめた方が早紀のためって事になるよね」

「あたいに聞くなよ。あとはあんた次第だね。健闘を祈る!」

 イブはまた突然姿を消した。


 その後、翔は家に戻った。

「おかえり翔。さっきはごめんね。大人げなかった。翔が浮気みたいな事するはずないよね」

(良かった。機嫌は直ったみたいだ)

「もちろんだよ。それで早紀、大事な話があるんだ。良く聞いて欲しい」

 翔は、説得するなら今しかないと思った。

 というのも、イブの言うとおり、安定期に入って母性本能が目覚めてからは説得するのは難しいと思ったからだ。

「帰りが遅かったのはなぜなのか言うよ。信じられないかもしれないけど、実は神様に出会ったんだ」

「まさか!」

 すると、早紀の目の前にイブが現れた。

「はーい! あたいが神様でーす!」

「あらかわいい。翔、私にプレゼント買ってくれたの?」

 たしかに最近はネコ型のマスコット人形で、言葉を話したり、本物の生きものみたいに動くおもちゃもある。早紀は勘違いしたようだ。

「早紀、おもちゃじゃないんだ。この娘が神様なんだよ」

「嘘でしょ。そんなの信じられない」

 すると、イブは早紀の耳元に行き、なにやらゴニョゴニョと話している。残念ながら翔にはその話の内容は聞こえなかった。

 そして……

 早紀は顔を真っ赤に染めて、叫んだ。

「なぜそんな事知ってんの!?」

「あたいが神様だから」

 早紀は翔に言った。

「翔、あなたの言う通りこの娘が神様なのね。今の話でもう信じるしかなくなった」

「ねぇ早紀、いったい何を話したの?」

「イヤッ! 絶対翔には知られたくない! 私以外誰も知らない事だから」

 早紀は両手で顔を覆ってヘタヘタと座りこんでしまった。

「たとえ夫婦でも知らない方がいい事はあるからね。もうそれくらいにしたら。それよりも早く本題に入りなよ」と、イブは翔にささやいた。

 翔は早紀とイブの話に興味津々ではあったが、今はそれどころではなかった。

「早紀、これでイブが神様だって信じたよね。それで、イブは男と女の身体を入れ替える事が出来るんだよ」

「そんなすごい事が出来るの?」

 イブは早紀に言った。

「そう。翔に頼まれたんだ。早紀、これから出産までの間、あんたと翔の身体を入れ替えてあげる」

「ちょっと待って」と、早紀は言った。

「翔、あなたの気持ちは嬉しいよ。だけど、私はたとえ命にかかわるような事があったとしても、自分で産みたいの。お願い、産ませて」

 早紀は、声を震わせながら言った。

「早紀、聞いてくれ。以前鷺沼医師が言っていたように、このまま君が十分な栄養状態を維持出来なければ、妊娠を続ける事だって出来なくなるって」

「でも産みたい。無理してでも食事はするから」

「君の病気、PSASの症状で身体が敏感になってるでしょ。だから陣痛の痛みが通常よりも増すかもしれない」

「それでも産みたい」

「それだけじゃない。陣痛の合間にPSASの症状が出たら、次の陣痛に耐えるために身体を休める事が出来ないだろ。そんな事になったら……身体が持つのか? 今の早紀の身体じゃ無理でしょ。本当に命の危険が生じるよ」

「分かってる。でもね翔、私どうしても赤ちゃんを産みたいの」

 それでも早紀は、決して翔から目をそらさなかった。毅然としたその瞳は、たとえ何があっても自分で産むのだという固い決意を表していた。

「……産んじゃだめだ。僕と入れ替わろう。僕が2人の赤ちゃんを産んであげる。イブの力で本当にタツノオトシゴみたいにさ、君に変わって子供を産めるようになれるんだ」

「私は自分でこの子を産みたいの」

「早紀……」

 翔も負けずに早紀の瞳をしっかり見つめながら言った。

「君のためなんだ」

「いやっ! 産みたい」

「早紀!」

「PSASの私が出産するのは無謀だって事、私が思ってる以上に大変な事だってのは分かってる。簡単に決められる事じゃない。そんな事は分かってるんだよ。でも、それでもやっぱり……産みたいの」そう言うと、早紀は大声で泣きだしてしまった。

 翔の想像以上に早紀の母性本能は早く目覚めていた。しかもとても強いものであった。

「早紀……君の覚悟はそこまでだったのか」

 翔は、やはり入れ替わりをやめる事が早紀のためになると考えざるを得なかった。

 イブは、翔と早紀に言った。

「あたいからは何も言う事はない。とにかく早紀が嫌だと言っている以上、翔と早紀の身体を入れ替える訳にはいかない」

◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

 次の第4話は、ついに翔と早紀の身体が入れ替わります。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!


第4話 お願い、僕に赤ちゃん産ませてっ!


「翔、喉が渇いて死にそう……」

 早紀はここの所食事だけでなく、水分すらほとんど摂れない状態だった。

 水を飲んでも、ポカリスエットを飲んでもすぐに吐いてしまう。

(このままでは早紀は妊娠を続けられなくなる。一体どうしたらいいんだ)

 翔は、先日入れ替わりの説得に失敗してしまった。そこで、なんとかして早紀に無事赤ちゃんを産んでもらおうと気持ちを切り替えて、色々な方法を考えた。

「早紀、ひどいつわりでも飲める物、食べられる物を調べたんだ。まずこれ飲んでみて」

 翔はそう言うと、早紀に「はちみつレモン」を渡した。

 早紀はおそるおそる、ちょびちょびと舐めるようにして飲む。すっかり恐怖症になっているようだ。すると……

「あ……気持ち悪くならない。これなら飲めるかも」

 早紀は安心したのか、まるで母親のおっぱいを吸う赤ちゃんのように、ごくごくとはちみつレモンを飲んだ。

(早紀、そんなに喉が渇いてたのか……)

「よかった。今度はこれ食べてごらん」

 翔が買ってきたのはフライドポテトだ。

「なに考えてるの。あっさりした物だって受け付けないのに、揚げ物なんて食べられる訳ないじゃん」

「騙されたと思って食べてみなよ」

 早紀は、これもおそるおそる口に入れ始めた。

「あっ、本当だ。食べられる! 大丈夫だよ翔」

「でしょっ」

 翔のがんばりと気持ちが効いたのか、早紀の身体は徐々に回復していった。

 そして、ついに早紀は安定期に入った。

「翔、お腹に触ってみて。さっき動いたの」

 胎動も起きている。

 翔は、お腹をさすりながらの、早紀の母としての優しさに富んだ何とも言えない表情が愛しくてたまらなかった。

「あ、今動いたかな?」

 翔もごくわずかであるが胎動を感じた。

「翔、絶対出産の時立ち会ってね。約束だよ」

「もちろんだよ。安心して」

 もうこうなると、翔も早紀を説得して身体を入れ替える事は諦めかけていたのである。

 そんなある日の事。こんなニュースが流れた。

「日本でも子宮移植を条件付きで認める」

 このニュースを流したバラエティ番組で、その後特番としてゲストの著名医学博士により「子宮移植」の歴史が語られた。

 世界初の子宮移植手術は2000年に行われたが、妊娠には至らず最終的に失敗に終わった。その後2011年に子宮移植が行われた女性は、2013年に妊娠したが出産には至らなかった。2014年に世界で初めて子宮移植を受けた女性が出産した。

 続いて2017年、遺体から子宮移植を受けた女性が出産した。それ以前は、母親から娘へ等、生体間の子宮移植であった。しかし、死亡した提供者からの子宮を移植した場合には、失敗または流産に終わっていたのである。

 生体間子宮移植の最大の問題は、生きた臓器提供者を確保する事が極めて困難である事だ。通常、家族や友人等に限られる。遺体からの移植による出産の成功により、臓器提供者となれる人の枠が広がった。更に経費も下がり、生きている臓器提供者の手術リスクを回避出来るというメリットもあるのだ。

 翔と早紀は、この番組を見ながらあれこれと雑談した。

「近い将来に、男にも子宮移植が出来るような世の中にならないかな」

「なるんじゃないかな」

 更に、男性への子宮移植についても取り上げていた。医学的には、男性への移植手術も可能なのだそうだ。

 ただし、専門家によると大きな問題があるとの事。

 それは、ホルモンのコントロールをどうするかである。単純に臓器をつなぎさえすれば機能まで期待出来るという訳ではない。

 出産までには、様々なホルモンが子宮や他の臓器をコントロールする。今のところ子宮移植の対象は女性のみだったため、身体が妊娠に対して正常に反応し、無事出産まで導いた。

 ところが、男性の場合には女性と同じ反応は期待出来ないから、外部から様々なホルモンを追加投与しなければならない。

「子供の頃にさ、男の身体に人工子宮を作って、男が出産するなんていう小説を書いたりした事があったんだ」と、翔は早紀に言った。

「へー。そんな事してたんだ」

 早紀は、ふと思い出した事を口にした。

「そういえば翔、出会う前にメールで赤ちゃん産みたいって話してたよね」

「うん。あれは決して冗談なんかじゃない。本気で赤ちゃん産みたいと思ってる」

「そうなんだ」

「うん」

「ねぇ翔、その話さ、もっと詳しく聞かせてくれない?」

 翔は、幼い頃のおままごとやぬいぐるみ、出産の真実を知った時の話等、すべてを早紀に話して聞かせた。更に……

「女の人に生まれ変わってさ、赤ちゃんを産むっていう夢をそれこそ数えきれないくらい見たよ」

「へーっ」

「よくマンガとかでさ、夢かと思ったらほっぺたをつねって痛いかどうか確かめるといいっていうじゃない。でもさ、僕の場合、夢の中で本当に陣痛みたいにお腹が痛くなるんだよ」

「嘘でしょ」

「本当だよ。だからほっぺをつねるまでもなくこれは事実だ、僕は女の人に生まれ変わったんだって喜んでさ、で、いつも赤ちゃんが出る瞬間に目が覚める」

「あるある~。私も3日くらい前に赤ちゃんが生まれる夢みたけど、やっぱり出る瞬間に目が覚めた」

「あーやっぱり夢だったんだって。で、悲しくて泣いた。枕がぐちゃぐちゃになってた」

「そっか。そんなに赤ちゃん産みたかったんだ」

 翔は、ダメ元で早紀に素直な気持ちを伝えた。

「早紀、良く聞いて欲しい。僕も出産願望があるくらいだから、君が自分で赤ちゃん産みたいっていう気持ちは痛いほど良く分かる。だからもう僕が代わりに産んであげるなんて言わないよ。絶対」

「……」

「そうじゃなくて、僕が赤ちゃんを産む事は子供の頃からの夢だった。それも絶対に叶わない夢。それがイブのおかげで叶うかもしれないんだ。だから……」

「だから……?」

「お願いします。僕に赤ちゃんを産ませてくださいっ! 僕の一生のお願い。僕のわがままに付き合って欲しい」

 翔はそう言うと、早紀の目の前で正座をして、手のひらと頭を床に付けた。

「僕に、僕と君の赤ちゃんを産ませて欲しい」

 早紀はじっと目をつぶってうつむいた。沈黙の時間が流れていき……

「……分かったよ。翔。頭をあげて。あなたのお願い、聞いてあげるから」

「本当?」

「うん。翔がそこまで赤ちゃん産みたいんだったら」

「産みたい。絶対産みたいっ!」

「フフフ。本当に変な人だね。女でも出産は怖くて仕方がないっていう人だって多いのに」早紀は笑みを浮かべながら言った。

 早紀は更に続けた。

「その代わりって訳じゃないけど、私のお願いを2つ聞いてくれるかな」

「2つなんて言わず、いくらでも聞いてあげるよ。僕に出来る事だったら」

「まず一つは、絶対今回だけだからね。これから先はもう2度と嫌だから」

「ああ。イブが言ってた。入れ替われるのは一生に一度だけだって」

「2つ目は、これで子作りは終わりじゃないから。これからもどんどん子作りするから絶対協力してね」

「もちろんさ」

「たくさんエッチな事して、たくさん子供産むんだ」

「何人くらい欲しいの?」

「なるべく沢山欲しい。サッカーチーム作れたらいいな」

「そんなに育てるの大変じゃん」

「大丈夫だよ。私とあなたとなら」

「そうだね」

「それと……私が翔のお願いをかなえてあげるんだから、お礼は言わないからね。絶対」

「当たり前じゃないか。お礼を言わなきゃいけないのは僕の方だよ。本当にありがとう、早紀。愛してるよ」翔はそう言って、早紀のほっぺたに軽くキスをした。

 すると、またどこからともなくイブが現れて、翔と早紀に向って言った。

「どうやら2人の意思が同じになったみたいだね。そしたらあんた達を入れ替えてあげる」

「よろしくお願いします。翔と私の身体を入れ替えてください」

「らじゃー!」と、イブが答えた。

 その瞬間、翔と早紀はまばゆいばかりの光に包まれた。

◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

 次の第5話は、女の身体に翻弄される翔と、すぐに男の身体になじむ早紀。こんなんじゃ先が思いやられる! お楽しみに!


第5話 戻りたくない……ずっとこのままでいたい……


イブの神通力で、ついに翔と早紀の身体が入れ替わった。

「本当に入れ替わったのかな? 僕が目の前にいる!」

(でもなんか変だな。鏡を見てるのと少し違う。世の中には自分とそっくりな人が3人はいるなんていう都市伝説があるけれど、正に自分にそっくりな別人が目の前に現れたみたいだ)

 翔は不思議な違和感を感じながら、今では自分の身体となった早紀を見つめた。そうなのだ。人は外から自分の姿を見る事は出来ない。鏡で見ているのは実は自分であって自分ではない。なぜなら左右が逆に映っているからである。

 人間の身体は左右対称ではない。ほくろの位置や耳の形、髪型等。これが不思議な違和感を感じさせた。

 早紀も同じ違和感を感じているはずなのだが、翔の声を聴いた時の違和感はそれをはるかに上回る、はっきりとした感覚だった。

「あーっ。私だ! すごいすごい。入れ替わってるよ。でも声が私じゃない……どういう事?」

「そういえば……今の君の声も僕の声じゃないぞ。初めて聴いた。いや……ずいぶん前に聴いた事があるような……そうだ! 録音したのを聴かされた時の声だ」

「そう、それそれ!」

 人が自分で聞いている自分の声もまた、やはり自分の声であって自分の声ではないのだ。なぜなら、体内の骨等の振動で、外部に伝わる音とはずいぶん異なる音が発せられるのだから。

 こういった事実は、おそらく翔も早紀も知識としては知っていただろう。でも、単に知っているのと現実に目の前で起こっている事を理解するのは訳が違う。

 翔と早紀は、確認のため二人並んで鏡に全身を映した。

「本当だ。やった! 入れ替わったんだ」

「そうだね!」

 二人は手と手を取り合って叫んだ。

 感動で身体が震えた。

 まだ二人は、お互いに相手の身体になった事を完全に実感したのではないようだ。

 

 男女の入れ替わり。良くマンガ、ドラマ、映画で見かける話である。でも、大抵はぶつかった拍子にとか、期せずして突然入れ替わるというのが普通だ。翔と早紀はお互いが納得ずくで入れ替わった。

「これから2人で良く打ち合わせしておいた方がいいよ。入れ替わった事が周りに知られたら大変な事になるからね。そうならないようにお互いの情報交換を密にしないとね」とイブは言った。

「たしかにそうだね。2人共入れ替わりの意思がある場合に限るってのは合理的かもしれない」

「それから、言葉遣いに注意して。気を付けないとすぐ今までの言葉遣いが出てくるから」

「うん。本当にありがとうイブ。この恩は一生忘れない。なにかお礼がしたいけど何が欲しい?」

「い、いや別に……あたいら神には欲求というものがそもそもないから。物欲も性欲も何もない」

「そうなの?」

「よかったね二人共。じゃああたいはこれで。しーゆー!」イブはそう言ってまた姿を消した。

 イブがいなくなるや否や、早紀はすぐに言った。

「ねぇ、翔、今からしよっか?」

「賛成! もう我慢出来ないよ」

 二人は声をそろえて言った。なにしろつわりがひどかった最中、全く夜の生活が行われなかったのだから。ちょうど入れ替わったタイミングで、二人は激しい性欲に襲われていた。

 そして……二人は慣れない身体でぎこちなく、しかし本能の導くままに自分の一番感じる所を愛撫する。

「おおおおぅっ……」

「うくっ! くう……」

 二人共、生まれて初めて異性の性感というものを味わったのだ。翔は女の、早紀は男の。普段とちょっと違う喜びの声をあげ、二人はほぼ同時に達した。

「はぁはぁ……すっごい気持ちいい。女の人の性感って本当に激しいね。でもそれ以上に頂点が長く続くのがたまらない。まだ余韻が残ってる。は~っ。ねぇ早紀、男になった感想は?」翔は汗びっしょりで頬をそめ、うっとりした表情を浮かべて早紀に尋ねた。

「うん、する前とイク寸前は男の人もけっこう強い感覚じゃんって思った。でも短いしあっという間に引いちゃうんだね。やっぱり女の方がいいかな」

 我を失ったような様子の翔とは対照的に、早紀は冷めた感じで言った。

 早紀は更に続けた。

「男の人ってこうなんだ。さっきまでのたまらなく『出したい』っていう感じが完全に消えちゃった。今はなんか罪悪感が凄くて何もしたくないの。こんな感じはじめて」

「それが賢者タイムっていう現象だよ。女の人でも生じる人はいるみたいだけど、早紀にはなさそうだったね」

PSASイクイク病だからね。そう言えば翔は症状出て来ないの?」

「いやたぶん出てる。まだまだしたくてたまらない。ごめん、付き合ってくれない?」

「ちょっときついかな。そう言う事考えられない状態だから。申し訳ないんだけど自分でして」

「えーっ」

「あなたがしてくれたように、ずっとそばで見てるから」

「わかった」

 とは言いつつも、翔はせっかくの女の性感をたっぷりと楽しもうと思った。1回目はすぐにしたくて服を着たままだったが、汗びっしょりになってしまった。それで少しづつ服を脱ぎ始めた。

 まず上着を脱ぎ、続いてゆっくりとスカートを降ろした。でもストッキングがなかなか脱げない。

「早紀、これどうやって脱ぐの?」

「生地を裏返しながら引き下げていくの。無理に引っ張ると伸びちゃうから気を付けて」

「慣れるまでが大変そう」

 脱ぎ終わり、丸めて置く。

 翔は我慢出来ずにブラとショーツはつけたまま、自分の一番敏感な場所に手を伸ばす。

(うおっ、やっぱり男とは全然違う。イッたばかりなのにしたくてたまらない。それに気持ち良さがすごい……)

 どんどん息が荒くなる。

「はぁはぁ……」

 翔は、ブラのホックに指をかけて外すと、腕を抜き取った。

 次いで、既に最初の絶頂までにグショグショになっていたショーツも外した。右手で脚の付け根を軽くまさぐると、再び何とも言えない強い感覚に襲われる。

 翔の中はすでに愛液があふれていた。

 我慢できず股間の豆を、最初は優しく、徐々に激しくさわる。快感が一気にこみあげてくる。

「ンッ……あ……あぁッ!」

 すぐにイってしまった。

「すごい、2連続でイッたのに余韻がすごくて全く賢者タイムがない」

 間髪入れず、すぐに自分の身体を慰める翔。淫らな体はすぐに反応し始めて、分泌された蜜が股の間を濡らす。

「ダメ、またしたくなった……はぁっ、んっ、くぅっ……」

 人差し指と中指にからまった愛液ラブジュースが秘部から糸を引いていた。

 早紀の身体はとても敏感で濡れやすかった。

「ねぇ、早紀……ピンクローター……貸して、お願い」

 翔は早紀に借りたその小さな楕円形の物のスイッチを入れると、軽く振動を始めた。

 おそるおそるローターを尖りに当てると、それだけで果てそうになった。

「あっ、あっ、んっ……」

 翔の荒い息遣いと喘ぎ声が響く。

 すると、早紀の下半身もだんだん回復してきた。

「翔、すごいよ。そんないやらしい声出さないで。またアレがこんなに大きくなってきた。私もしてもいい?」

「……して……良く見せて……ああっ!」

 翔の喘ぎ声がより大きくなった。

 あまりの快感に、言葉づかいは自然に女のように変わっていった。

 翔は、早紀のバイブレーターを見て思わず口にした。

「早紀……今度はバイブも貸して……」

「ダメっ! こんなの使って激しくオナったら流産しちゃうかもしれないから」

「したくてたまらないんだ……お願い……入れさせて……あっ」

 じらされた翔は、仕方なく指とローターで思う存分オナニーをくり返し、何度も何度も達した。そして体力の限界が来て、そのまま気を失った。

 

 しばらくして目が覚めた翔は、目を潤ませながら、目の前の早紀につぶやいた。

「早紀、こんな気持ちいいなんてもう元に戻りたくない。ずっとこのままでいたい」

 この時、翔はまだPSASの本当の怖ろしさをまだ知らなかった。

◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

 次の第6話は、妊娠による身体の変化と、想像を絶するPSASの症状に早くもギブアップしそうな翔。いったいどうなるのでしょうか。お楽しみに!


第6話 やっぱりこんなの無理……よく我慢したね


 翔は、早紀に対して「元に戻りたくない、ずっとこのままでいたい」と言ってしまった。

(しまった! 思わず早紀の前でとんでもない事を言ってしまった)

 翔はあまりの快感についつい本音をぽろっともらしてしまったのだ。なにせ翔は女に生まれたかったトランスジェンダーである。絶対に叶わないと思っていた長年の夢が叶って浮かれていたという事もある。

 下手をすれば、夫婦の危機をもたらしかねないような爆弾発言かと思われた。

 ところが、早紀は悲しそうな目で翔を見つめるのみで、一言も言葉を発しなかった。

(うわ~口も利きたくない程怒らせちゃったかな……)

 早紀は怒ってはいなかった。なぜなら、かつて自分がPSASイクイク病を発症したばかりの頃に通った道だったからだ。

 感度を増した自分の身体に溺れてしまった事を思い出していた。翔がその後に訪れるであろう絶望感に苦しめられる事を心配していたのだ。

 そんな早紀の心配をよそに、翔は不埒ふらちな事を考えていた。何と早紀の外出中に、バイブを使ってもっと激しく感じてみたいと考えていた。何を考えているんだ翔!

 コロナ禍の影響で、翔の会社はテレワークが進められていた。でも、やはり週に2日は通勤しなければならない。また、在宅勤務中にも頻繁に電話がかかってくるため、その対応は早紀がしなければならない。そこで翔は、早紀に仕事の内容だけでなく、会社の人間関係や仲の良い同僚、先輩等の情報を伝えた。

「広報部の早川には注意して。なぜか逆恨みされてるみたいなんだ。全然心当たりがないんだけど」

「どんな人?」

「いい歳して独身。婚活してるみたい」

「もしかして結婚してる翔がうらやましいのかも。男の人の嫉妬って怖いね」

「どうかなあ」

 早紀はPSASのためほとんど外出しないので、あまり翔に伝える事はなかった。学生時代からの友人である山本美香、神田花江と、近所の人達の情報を翔に伝えた。

「近所の人とは世間話くらいしかしないし、私も美香も花江も、結婚してからはあまり会わなくなったの。だからあまり心配はいらないけどね」

「うんうん」

「あとは……そうだ、美容院の川口さんの事も知っておいて。けっこう突っ込んだ話もするからボロが出ないようにしないと」

「そうか。僕はいつも1000円カットだからあまり関係ないけど、女の人だとその問題があったか」

「それでね……」

 早紀は、翔に身だしなみについての注意点等を詳細に伝えた。

 早紀は、翔と入れ替わってから初出勤の日を迎えた。

「じゃあ、行って来るね」

「いってらっしゃい。言葉遣いに注意してね。女言葉にならないように。何かあったらすぐに電話して」

「わかった。あ、翔」

「何?」

「私がいないからってあんまり激しく一人でしないで。特にバイブは絶対だめだからね。ソフトに……」

「なるべくそうする」

「もう! 心配だなあ……」

「大丈夫だよ」

(そんな事いっても我慢出来ないよ……)

 翔は早紀がいない時にバイブレーターを使ってオナニーをした。あれだけやめるように注意されていたにもかかわらず。

(早紀、中もすごく感じるって言ってたな。気持ちよすぎて死ぬかも)

 早紀の使っていたバイブレーターは、男のアレにそっくりな形をしていて、首のような部分にはまるでパールのような粒々が埋め込まれていた。

(すごい……こんなの入れたらどうなっちゃうんだろう……)

 翔はゴクリと唾を飲み、これから自分を襲うであろう激しい感覚を想像した。

 翔はそのいやらしい道具を、ゆっくりと自分の中へ招き入れた。

「くふっ……」

(こ、こんなに凄いなんて)

「んはっ、はぁっはぁっ、ん…ん」

 翔はおそるおそるスイッチを押してみた。

 すると、その太くて大きな物はグィングィンと激しく音を立て、翔の中をかき回した。

「あっ、あ……これすご……もうダメ……」

 それはまるでヘビかウナギのように不規則にうねっている。

 ゴツゴツとしたパールが、翔の中のいろんな部分を刺激する。

 翔はバイブを出し入れしてみた。

「ぐちゃっぐちゃっ、じゅぼっじゅぼっ」

 バイブを出し入れする音と、愛液の音が混ざり合った絶妙なメロディーを奏でている。

「ンンンッ……」

 翔は更にローターも当ててみたくなった。中と外、同時にしたらいったいどんなに気持ちいいのだろうか。

 バイブを出し入れしたまま、ローターを一番敏感な突起に当てた瞬間……

(気持ちいい、気が狂いそう……)

「あああっ!!!」

 翔は、昨日以上に深く達してしまった。

 翔は、なんとかしてこの快感をこれから先もずっと味わいたいと思った。それで……

「イブ、そこにいるんだろ。出てきてくれないか」

「呼んだ?」

 すぐに翔の目の前に現れるイブ。

「今の見てないだろうね!」

「見てないよ。だって見なくてもあんたが何してるか知ってるから」

「もう~恥ずかしいなあ」

 翔は顔を真っ赤にしてイブに言った。

「あのさ……ダメ元で聞きたいんだけど、元に戻らずにずっと入れ替わったままには出来ないの?」

「無理。前も言ったけど目的達成or不達成で必ず元に戻る。それまでの一時的な夢のまた夢だと思って」

「そう言わずに、なんとかして……お願いっ」

「もう~本当にドスケベなんだから……でもね、そんな余裕こいてられるのも今のうちだよ」

「へっ?」

「あんたの目は節穴か。今まで近くで早紀がどれだけ苦しんできたのか、ずっと見て来たんだろ。今度はあんたが同じ事を味わうんだよ」

「そうだね。これからどうなっちゃうんだろう」

「すっかり女の快感のとりこになってるんだ。たまにならいいけど、これが日常的にずっと続くんだからね。ちょっと想像してみたら」

「たしかに色々困る事がありそうだね。まだ実感わかないけど」

「まあ、あたいは高見の見物するだけだけどね。がんばって」

 さて、今日は鷺沼医師の検診を受けなければならない。

 入れ替わる前は、早紀に頼まれて翔が遠方への移動には車で連れて行ってくれた。しかし、今日はどうしてもはずせない大事な会議のための出勤日なのだ。

 そこで、やむを得ず一人で電車に乗る事になった。鷺沼医師の産院は電車だと1時間以上かかる。出来れば電車での遠距離移動は避けたかったが仕方ない。

(そういえば電車の振動でも症状が出るって言ってたな。替えの下着とか用意しなきゃ)

 翔は、電車の振動がいかにPSASの症状を悪化させるかを甘く見ていた。電車の中でもかまわず襲って来る強烈な性衝動。とにかく我慢する事が出来ない。

 女性専用車両でもとても恥ずかしい。まだ自分が女の外見だという実感がないから、周り中から白い目で見られているような錯覚に陥る。そんな状態で症状が出て来た。

 どうしても我慢出来ない激しい身体のうずき。翔は早紀の見よう見まねで、手を使わずに脚の組替えだけで達して、PSASの症状をなんとか抑えようとした。

 が、見た目では簡単そうに見えたその自慰は、思ったよりも難しかった。性欲が強い割に相当な恥ずかしがり屋の翔は、羞恥心が邪魔をして人前でイク事がとても恥ずかしかったのだ。

(僕がこんなに恥ずかしいんだから、早紀はいったいどんなに恥ずかしかったのだろう)

 手を使わない方法が出来ず、やむを得ずスカートのポケットに手を入れ、見えないように股間をまさぐった。

(ああ~気持ちいい……ダメ……声が……出……ちゃう……がまんできない……)

「ンっ、ごほごほっ」必死で声を押し殺し、咳払いで誤魔化す。

 翔は、生まれて初めて周りに人がたくさんいる中で絶頂に達した。顔から火が出そうな羞恥。

(うう……だめだ。どうしても声を抑えられない。それに早紀みたいに手を使わずにイクってけっこう難しい。かなり練習しないと出来ないよ。困ったなあ……)

 下着を重ねて履いているのに、愛液が脚を伝って来る程分泌されていた。おそらくすごい匂いだろう。気のせいか周りの人が少しづつ離れているような気がした。自分では自分の匂いはなかなか分からない。鼻が慣れてしまって臭気を感じなくなるからだ。

 でも翔は普段から早紀の匂いを知っていた。毎日入浴していてもかなりの刺激臭がするのだ。愛する人だからこそ我慢出来た。これが野外で他人のものだったらと考えるとぞっとするほどの強い匂いだった。

 とても恥ずかしい。それなのにどうしてもオナニーする事を身体が求めてきて止まらない。

(そう言えば海外で仕事中に18回オナニーしてもいいっていう判決が出たんだっけ。こりゃ無理もないな……とても我慢出来ない)

 行きの電車の中での1時間の間に、翔は10回以上もオーガズムに達し、身体が激しく疲労してしまった。これから診察を受け、帰宅するのかと考えただけで憂鬱ゆううつになった。

(早紀、君はいつもこんな激しい欲望と闘っていたのか。なんて恐ろしい病気なんだPSASは……)

 なんと、あのドスケベな翔がほんの数日で女の快感を楽しめなくなっていた。

 恐るべしPSAS。

◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

 次の第7話は、PSASと闘いながら検診を受け、帰宅した後も悪戦苦闘する翔。いったいどうなるのでしょうか。お楽しみに!


第7話 君の強さがまぶしくて……


翔(早紀)は妊娠18週目に入っていた。今日は5か月検診である。

 早紀から内診はないだろうと聞いていた。また、超音波エコー検査には経腟けいちつ法と経腹けいふく法がある。

 経腟法は、細い棒状のプローブを腟の中に入れて行う検査だ。画像が精密で細かい部分も観察できる反面、女性の負担が大きい。特にPSASイクイク病患者にとってはきつい検査である。これも今回はたぶんないだろうという事だ。

 経腹法は、幅広のプローブをお腹の上から当てて行う検査だ。一般的に女性の負担は少ない。この検査が実施される予定だ。

 ただ異常があったりすると事情は異なる。翔は内診や経腟検査を受けたらどうなるかと考えるとぞっとした。

 しかし、PSASの症状は、お腹に超音波のプローブを当てるだけでも生じた。お腹にゼリーを塗り、プローブでお腹を撫でられた翔は思わず声をあげる。

「はぅぅっ……」

「大丈夫ですか。もうちょっとだから我慢してください」

 さすが鷺沼医師である。普通ならば苦痛はないはずの超音波検査でも大変だという事をちゃんと分かってくれていた。

「原口さん、見てみてください。かなり育ってきましたね」

 エコーの画面を見ると、心臓が強く鼓動しているのがはっきり分かる。顔もおぼろげであるが、しっかりと見えていた。

 翔は、思った以上にはっきり映っている画像で、この上ない父性が込み上げて来た。

「あの……もう男の子か女の子か分かりますか?」

「う~ん。もう少ししないとダメですね」

 翔も気が早いものである。

「それにしても原口さん、一時はどうなるかと思いましたが、身体の具合もかなり良くなりましたね。この分だと経腟けいちつ分娩もいけるかもしれません」

「本当ですか!」

 帝王切開も覚悟していた翔であったが、やはり下から産みたかった。

(色々と食べ物や飲み物を調べて、ちゃんと栄養状態を改善して良かった)

「この後、あなたの担当の助産師に指導してもらいます。経腟分娩だと助産師の介助の元で出産する事になります」鷺沼医師はそう言うと、横にいた翔と同じくらいの年齢の女性が翔に挨拶した。

「助産師の加藤です。よろしくお願いします」

 ネームプレートに“加藤美波”と書かれたその女性は、入れ替わる前の翔が街ですれ違ったならば、間違いなく振り返るであろう大きくて美しい瞳でこちらを見つめている。

 かなり小柄であるが独特の存在感を醸し出していた。そして大きなお腹をしていた。おそらく妊娠している。それも後期なのではないかと思われた。

「加藤は以前、PSASの患者のお産を担当した事があります。きっとあなたの力になってくれると思いますよ」と、鷺沼医師から紹介された。

「そうでしたか。それは心強いです。加藤さん、原口です。こちらこそよろしくお願いします」

 診察に続いて、翔は助産師の美波から指導を受けた。

「原口さん、これからの時期は今までとは逆に食べすぎに注意してください。あなたぐらいの年齢でも糖尿病や高血圧になったりします」

「そうなのですか?」

「あなたの場合、今まで体重が減り過ぎていましたので、まだあまり心配しなくても大丈夫です。でも、反動で増え過ぎるかもしれません。油断禁物です」

「はい。気をつけます。ところで、加藤さんは私と同じ病気の方を担当された事があるのですか?」

「はい。残念ながら陣痛が始まってから緊急帝王切開になってしまって、私が取り上げる事は出来ませんでした。でも自然分娩出来そうでしたので、私が指導していたんです」

「そうでしたか。私も以前は帝王切開の可能性が高いと言われていました。でも出来れば自然に産みたいです。よろしくお願いします」

「はい。私は、あなたが自然に出産出来るようにするために、最善を尽くします」

 

「加藤さん、もしかして妊娠されていますか?」翔は、気になっていた事を聞いてみた。

「はい。やっぱり分かりますよね。もうすぐ生まれます。でも心配しないでください。陣痛が始まるまで仕事は続けます。産後も最短の6週後には仕事に復帰しますので、原口さんの予定日には間に合うと思います」

「原口さん、加藤は私が『休んだら』って言っても休まないくらい仕事に意欲的なんですよ」

 労働基準法で、産前6週間は本人が請求すれば休ませなければならない。美波は請求するどころか、自分から進んで働くという。また原則として産後8週間は復帰が出来ないが、医師が認め本人が希望すれば6週間後に復帰出来るのである。

「そんなに仕事熱心なのですか? すごいですね」

「いえいえ」美波は、ちょっと照れたような表情で言った。

 そして……

「原口さん、良かったら私と一緒にマタニティビクスしませんか?」

「えっ?」

「自然分娩にはすごい体力が要りますし、食事制限よりも十分食べて身体を動かした方が糖尿病対策にはいいんですよ」

「でも……PSASの症状が心配です」翔は不安そうに言った。

「大丈夫ですよ。私が色々配慮します。もしエアロビクスがきついようでしたらヨガだけでもいいですから。ヨガはリラクゼーション効果が高いですし、気分転換にもなります。いい効果を生むと思いますよ」と美波は言った。

 鷺沼医師も、「私も賛成です。PSASはリラックスしてストレスが少ないと症状が緩和される事が分かっています」と言った。

「分かりました。よろしくお願いします」

(そう言えば早紀も、楽しかった高校時代はほとんど症状が出なかったって言ってたな。就職してストレスが増えたら悪化したとも)

 翔は、美波と連絡先を交換し、次のマタニティビクス教室の予定を聞く事にした。

 なんとか検診を終え、帰りの電車の中でもPSASの症状に悩まされながらも、無事帰宅した翔。もう恥ずかしさにもかなり慣れてきたが、とにかく絶え間ない絶頂は翔の体力をどんどん奪っていった。例えるならばいつもマラソンを走っているようなものだからだ。

 帰宅後にもPSASの発作はとぎれる事なく襲ってきた。これを我慢して家事にいそしむ事は性欲の強い翔にとっては極めて難しかった。

 そろそろ早紀が帰ってくる。それまでに掃除に洗濯、晩ご飯の支度等をしなければならない。

 しかし、家事の最中にも込み上げてくる強い自慰の欲望。既に体力はかなり落ちている。それでも枯れる事なく次々と襲い掛かってきた。

(これ以上は身体が持たない……でもしたくてたまらない……もうダメ……)

 更に、身体が入れ替わってからというもの、翔は慢性的な睡眠不足に陥っていた。夜にもPSASの症状で目が覚めてしまうからである。

 たび重なる絶頂による疲労と睡眠不足で、つい翔は居眠りをしてしまった。

「あーいけない。もうこんな時間だ!」目が覚めて、時計を見てびっくりする翔。

 早紀が帰宅する時間になっても、晩ご飯の支度が出来ていなかった。

「ごめん早紀。掃除と洗濯はなんとか済ませたけど、まだ晩ご飯の支度が出来てないんだ」

「やっぱりそうだったんだ。大丈夫だよ。お弁当買ってきたから」

「早紀! 本当に申し訳ない。ありがとう」

 翔は、そんな早紀の気遣いがとても嬉しくて、涙がこぼれて来た。

「早紀、君は今までこんなに辛い症状に耐えて来たんだね。僕の配慮もまだまだ全然足りなかった。君は本当に強い。すごい人だ。改めて尊敬するよ」

「そんな……翔だってすごいよ。今日一日働いてみて分かった。翔が私や生まれてくる子供のためにどれだけ会社でがんばっていたか。本当にありがとう」

 身体が入れ替わって、お互いに相手の思いやりを再確認する事が出来た。

 2人で早紀の買ってきたお弁当を食べると、早速あっちの話に。あれだけイってもまだ足りないのか翔。夫婦生活は別腹(?)なのだろうか。

「ところでさ、君がたまにしてた手を使わずに脚の動きだけでイくオナニーってどうしたら上手く出来るの?」

「う~ん。確かに難しいかも。私も出来るようになるのに一か月くらいかかったし」

「そんなにかかるの!」

「そう。ただ脚を組んで刺激すればいいって訳じゃないから。恥ずかしがらずに想像を膨らませて精神的に高まる事がすごく大事。エッチな音声テープを聴きながらだとイきやすいよ」

「なるほど」

「あと、『骨盤底筋』を鍛えて中イキ出来るようにするの。『膣トレ』になるからアソコの締まりも良くなるよ」

「へーそうなんだ。まあ僕らの場合は名器かどうかはあんまり関係ないけどね」

「もう~。でね、おしっこを我慢するように下半身に力を入れるの。で、そのまま少しその状態にして、そしたら力を抜いて、また入れてって繰り返すの。やってみて」

「やってみる。……ンッ……こうかな……」

「そうそう、その調子」

「高まってきてイキそうになったらお尻の穴をキュッと締めるの」

「やってみる」

 翔は早紀のアドバイスに従って、試してみるがなかなかイケないようだ。

「あーもうじれったい! 我慢出来ない。また今度にしよう」

「しょうがないなあ。でも上手くいけば普通のひとりエッチよりずっと気持ちいいんだよ」

「本当? バイブよりも気持ちいい? それなら練習しがいがありそう……あ(しまった!)」

「あーやっぱりバイブ使ったんだ! しょうがないなあもう……あれだけやめてって言ったのに」

「ごめん、どうしても我慢出来なくて」

「難しいと思うけど、可能な限りしないで我慢して。オナ禁ね。そうするとノーハンドでイキやすくなるから」

「それは難しいなあ」

 まだまだ前途多難な2人であった。

◇◇◇◇◇◇

 読んでいただきありがとうございました。

もし、PSASに負けるな翔! と思っていただけましたら、ぜひ♡評価とフォローをお願いします。

 よろしければ、私のもう一つの長編小説「ひとり遊びの華と罠~俺がセックス出来なくなった甘く切ない理由」もお読みいただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16816700429286397392

 次から第7章に入ります。第1話は、PSASにも負けず、もう一つの夢に向かって翔は早紀と協力し、2つの新しい事にチャレンジします。いったい何なのでしょうか。お楽しみに!

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