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ひっくり返ればいいのに

ぜんぶぜんぶひっくり返ればいいのに。

良かれと思ってやっていたこと、きっと相手が喜ぶだろうと勘違いして続けていたこと、正しいと信じて疑わなかったこと、ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ、自分の思い違いだったとしたら。傲慢なひとり芝居だったとわかってしまったら。

やってらんない。ぜんぶひっくり返っちゃえばいいのに。

つらいよね。そんなこともあるよね。

きっと、世の中のすべてのことに絶望して、やけになって、ぜんぶどうでもよくなって、投げ出してしまいたくなってる人が目の前にいたとしたら、そうやって声をかけると思う。私だったらかけると思うんだよ。たとえ何の所縁もない人だとしてもさ。

でもそれって、本当に相手のことを考えてるんだろうか。

思いやりが余計なお世話だったと知って。黙っていたほうが何倍も良かったと思い知って。親切を悪意だと取られていて。やることなすことぜんぶ邪魔だったんだと痛感して。そんな人に向かって、「つらいよね」「そんなこともあるよね」なんて、今ならとても言えない。上っ面の励まし。考えてるようで何も考えてない言葉。心がなくても、赤の他人でも、誰だって口にできる適当な戯言。

そこに本当に心があったら、必ずしも言葉なんて要らないんだ。

私はそれを、わかってなかった。今の今まで。

どれだけ後悔してもし足りないことがあるなんて。生涯をとおして悔やみ続けることが存在するなんて。そんなこと、ぜんぜん知らなかった。

他の人にとっては、大したことない些細なこと。取るに足りない小さなこと。それでも私にとっては、死ぬ瞬間まで背負って運んでいく荷物になる。この重さがなければ、この苦しみがなければ、涙が伴わなければ、私はまた忘れてしまうから。

でも、まだ、心のどこか、隅の隅の、そのまた隅の方で少しだけ、考えている。ああ、ぜんぶ、ひっくり返っちゃえばいいのに。

寝て起きたらぜんぶ、なくなってればいいのに。


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