コント『パンチくん』
男2「あれ?パンチくん?パンチくんだよね?」
男1「うん?誰だ?誰かが俺の名前を呼んでいる」
男2「おーい、パンチくん!パンチくーん!」
男1「誰だ?誰かが俺の名前を二度も呼んでいる!」
男2「僕だよ、僕」
男1「一体誰が俺のことを二度も呼んでいるのだ?」
男2「そのまま振り返って!」
男1「え?」
男2「その場で振り返ったら分かるから」
男1「なに?振り返れと言うのか?この場で俺に振り返れと言うのか?」
男2「そうだよ、振り返ったらその謎が解けるから」
男1「振り返る。なるほど、俺がこの場で振り返ればこの声の主の正体が分かると言うのか」
男2「なにごちゃごちゃ言ってるんだよ。早く振り返ってよ」
男1「うーむ、しかし、誰かもわからんような奴に振り返るよう指図されて、素直に振り返るような男だと思われると、後々マウントを取られてしまい優位に交渉を進められてしまう可能性もなくはないか?」
男2「いいから、勇気を持って、せーの!」
男1、振り向く
男1「おわ!」
男2「ばあ!」
男1「・・・誰だ?お前」
男2「僕だよ、僕。高校の時同じクラスだった細野井だよ」
パンチ「なんだ、細野井か」
細野井「そうだよ、パンチくん!パンチくん、久しぶりだね!」
パンチ「ああ、細野井。お前が本物の細野井だとしたら久しぶりだ。」
細野井「なに言ってるんだい。本物に決まっているだろ?あれ?パンチくん、痩せたね?」
パンチ「ああ、それ、最近よく言われるんだ」
細野井「痩せたよ。うん、体型があの頃と全然違う」
パンチ「そうか。それ人によく言われるのだが、自分自身そこまで痩せたと言う感覚がないものだから、毎度言われる度に不思議な気持ちにさせられるのだ」
細野井「だって、あきらかに。体重は?」
パンチ「体重?」
細野井「体重だよ、体重。測ってないの?」
パンチ「体重?」
細野井「そうだよ、体重」
パンチ「体重?体重?」
細野井「そうだよ、体重計で測ったりとか・・・」
パンチ「体重?」
細野井「そうだ。パンチくん、知識の抜けがすごいんだよね。高校の時から知識の抜けが極端だから、体重を知らないんだ?」
パンチ「た、体重?」
細野井「なぜ、体重と言うものを知らずにここまで成長できたのか不思議でしょうがないよ。」
パンチ「うーん、体重かぁ、初耳だ」
細野井「でも、あれだよね?パンチくんは確か元中日の」
パンチ「愛甲?」
細野井「そうそう」
パンチ「愛甲猛?」
細野井「そうだよ。愛甲の知識だけはズバ抜けてあるんだよ」
パンチ「愛甲猛でしょ?1980年にドラフトでロッテに一位指名された愛甲猛でしょ?」
細野井「そうそう、なんで愛甲の知識はあるのに」
パンチ「投手から野手に転向し、その後落合博満にバッティング技術を学び、自叙伝『球界の野良犬』では・・・」
細野井「いいよいいよ。もう愛甲の知識は」
パンチ「その後、Vシネマなど俳優業でも活躍して・・・」
細野井「いいっていいって、だから」
パンチ「愛甲のことはよく知ってるよ」
細野井「愛甲知ってて、なんで体重わかんないかなあ?愛甲の身長体重とかわかりそうなもんだけど」
パンチ「体重?」
細野井「ああ、ごめんごめん」
パンチ「た、体重?体重?」
細野井「スイッチ入っちゃうんだ。ごめんって」
パンチ「体重かあ、初めて聞いた」
細野井「ところでパンチくん、今何してるの?」
パンチ「いまはお前と話している」
細野井「そうじゃなくて。仕事とかしてるの?」
パンチ「仕事と呼べるかはわからんが、月に40万弱は稼いでいるよ」
細野井「すごいなぁ!なんでだよ!なんでそんな稼げてんだよ」
パンチ「まあ毎月ピン札で40万、気づいたら懐に入れられているよ」
細野井「なんだなんだそれ?すごく気になるぞ?」
パンチ「人に話すと35万引かれてしまうんだ」
細野井「なんだそれ。いちいちなんだそれ!こえーわ」
パンチ「こわくないこわくないこわくないこわくない」
細野井「?」
パンチ「こわくないこわくない僕はここにいる」
細野井「どうしたの?」
パンチ「細野井がこわがっているから落ち着かせようと思って」
細野井「優しいなあ!パンチくんは。でも大丈夫、コレはツッコミの意味のこわいってことだから」
パンチ「そうか、ツッコミで言っているなら納得した。例えば俺が不謹慎な発言をして相手に「殺すぞ」と恫喝されたとしても結果それがツッコミの意味だとしたら何も怯えなくても良いもんな。」
細野井「すげぇんだよ、なんか知んないけどこれは一発で通るんだよ。マジで読めないよパンチくんは」
パンチ「もういいか?」
細野井「ああ、ごめんごめん。パンチくん予定あるんだもんね」
パンチ「何故俺に予定があることを知っている?」
細野井「は?」
パンチ「何故俺に予定があることを知っているのだ?」
細野井「いや、なんか、なんとなく」
パンチ「貴様、さては俺の頭頂部に盗聴器を仕掛けたな!くそぅ。くそぅ(旋毛をむしるパンチくん)」
細野井「盗聴器なんて仕掛けてないよ、そんなところに盗聴器なんて仕掛けられないよ」
パンチ「じゃあ何故俺に予定があることを知っているのだ?」
細野井「パンチくん、会話の流れでだよ」
パンチ「カイワノナガレデ?」
細野井「いま、パンチくんと僕は5分くらい会話をしたよね。そして話がひと段落したくらいでパンチくんがおもむろに「もういいか?」って聞いてきたよね。ということはパンチくんはこの後何らかの予定があるのではないかと推測できるよね?これが世間一般でいう『なんとなく分かる』という奴なんだ。パンチくんはなんとなく分かると思ったことって生まれてから一度もないだろう?」
パンチ「ああ、俺が分かることは実際に目で見て耳で聞いたことだけだ。」
細野井「かっけえな。いや、まあ、それは良いんだけど、僕みたいに人のご機嫌を常に伺って空気を読むことに特化してしまったような人間はいつのまにか『なんとなく分かる』術が身に付いてしまったのだよ。こうでもしないと生きていけない難しい世の中なんだよ。」
パンチ「つまり細野井は目で見て耳で聞いたもの以外に『分かる』方法を持っているということか?」
細野井「僕に限らず現代社会では大体の人はその方法を持っているよ。パンチくんが特別なんだ。だから面白いしだからかっこいいんだよパンチくんは。」
パンチくん、その言葉を受け、一瞬何かを感じ、徐に手のひらを広げ息をフッと吹きかける。
細野井「ああ、さっき抜いた髪の毛ね。孫悟空だ孫悟空!これで小さいパンチくんがたくさん生まれると良いね!」
パンチ「…お前たちは悩みすぎなんだよ。分かることは分かる。分からないことは分からないで良いじゃないか。好きなものは好き、嫌いなものは嫌いで良いじゃないか。何をそんなに意識しているんだ?誰をそんなに意識しているんだ?俺は日々生きていてそんなわけのわからないことを考えた事がない。訪れる一日一日をどう楽しんで生きるかしか考えた事がない。俺は瞬間瞬間で生きているから悩みもない。その場で怒ったり笑ったり悲しんだり、起こった事柄で毎秒違う感情が訪れる、そんな毎日をそんな自分を楽しむだけでも生きる価値ってのは充分ありそう気がするけどな。」
細野井「・・・。」
パンチ「…なに食ってるんだ?」
細野井「泣いてんだよ!泣いてんの!」
パンチ「…そんなに美味いもの食ってるのか?」
細野井「だから食ってねえって!パンチくんの言葉になんかジーンと来ちゃったの!」
パンチ「寺院?寺か?」
細野井「寺?なに?寺?寺ってなによ?寺院ってこと?違うよ、ジーンと来た、感動したってこと!」
パンチ「そうか。感動したのか。」
細野井「そうだよ。今日はパンチくんに会えて良かったよ!ありがとう!」
パンチ「そうか」
細野井「じゃあ、行くね。」
パンチ「どこに?」
細野井「へ?」
パンチ「どこに行くの?」
細野井「は?いや、まあ、どこでも良いだろ。」
パンチ「いや行くってどこかに行くんだろ?だから行くって言ったんだろ?じゃあどこに行くの?」
細野井「しつけえな、どこでもいいだろ。パンチくんには関係ないよ。」
パンチ「教えろよ、気になるじゃないか」
細野井「なんでだよ、あのさぁ、そうゆうところはもうちょい気をつかったほうがいいよ。パンチくんだって聞かれたくないこととか答えたくないことだってあるだろ?」
パンチ「ない」
細野井「おぉ、ああ、そう。じゃあさ、逆に聞くけどパンチくんはこれからどこに行くのさ?」
パンチ「風俗」
細野井「!?」
パンチ「五反田」
細野井「あ、いや。」
パンチ「行きつけの。会員証見る?」
細野井「いい、いい、いいよ。もうわかった!メチャクチャかっこいいよあんたは!真っ直ぐで正直で憧れちゃう男の中の男だよ。早く行けよ風俗」
パンチ「ああ予約してるからな。じゃあな」
パンチ、行く。
細野井「あ、パンチくん!」
パンチ「あ?」
細野井「…高校の時イジメから助けてくれてありがとうね」
パンチ「…。」
細野井「…ほんとにありがとう。今僕が生きれているのは君のおかげだよ。」
パンチ「いじめ?」
細野井「へ?」
パンチ「いじめ?なにいじめって?」
細野井「あ、なに?知らないの?いじめ」
パンチ「いじめ?初めて聞いた。いじめ?」
細野井「なんでいじめ知らないのよ。」
パンチ「いじめ?なに?いじめ?…体重?」
細野井「体重の話は今してないだろ!」
パンチ「愛甲はね、今『野良犬チャンネル』ってYouTubeをやってて登録者数は」
細野井「いいよ!愛甲の話は!」
徐々に暗転してくる。
おしまい
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