初めてのマイペンライト
ペンライトが届いた。
妻が注文してくれたものだ。家には妻が買ったペンライトがいくつもある。これまでブルーレイを再生しながら妻に借りたペンライトを振っていたが、それも昨日までだ。妻から「〇〇くんにとって初めてのペンライトだよ」と手渡された。
カチッ。ピカー。
光る棒は室内でもはっきりとした明るさを放つ。ボタンを押すごとに色が変わる。カチカチカチ。好きな色にしてからブンブン振った。特に何があるわけでもないが、とりあえず遊戯王をしながら振っている。右手で操作しつつ、左手で振る。
片手で操作できるゲームは反対の手が手持ち無沙汰になるので、このようなものが丁度いい。カチカチと色を変えて、フリフリと振る。
自室で一人、ペンライトを振る作業に勤しんでいると妻がやってきて「……振ってる」と呟いてから、ニマニマと笑う。そして何枚か私の写真を撮ってからまた「……振ってるわ」と言って帰っていった。
特に何ということはないが、左手に棒を持つ。ゲームを終えたあとは一度机の下に置いていたが、置きっぱなしにしてしまいそうだったので寝室へ移動させた。今は枕元にペンライトが置いてある。
買ったばかりのものに対してはこのように執着する。新しく手にしたものを枕元へ置く。巣穴へ持ち帰るような習性だ。私は手から離れたものをことごとく無くしていくので、本当になくしてはいけないものは肌身離さず持ち歩く。特に鍵や財布などは、予めズボンのどのポケットにしまうか決めている。
それでも忘れることがあるくらいだ。
カチカチとペンライトの色を変える。薄い青にして振っていると妻が「そのデッキはそれがテーマカラーなの?」と聞いてきた。
「いや……うーん」
デッキのテーマカラーなど、考えたことがなかった。カチカチと、色を変える。黄色、赤、様々なものがあるが結局また薄い青に戻ってきた。
「確かにこれかも」
ゲームのBGMに合わせてペンライトを振る。
ペンライトは枕元を照らすライトとしても役立った。薬を飲むに当たって、照らしている。明かりを落とした部屋で、薄い青色の光が鬱蒼とした私の枕元をより一層混沌とした場所に見せた。しかし、明かりとしての役割もきっちりこなしている。
「海みたいだね」
妻が言った。
私はペンライトを振る。確かに夜の水族館は水槽の中がこんな色だったかもしれない。
フリフリ、ペンライトを振る。音もなく、静かに揺れる。激しく、緩やかにペンライトを振る。音もなく、光る棒。なんだか詩的な気分になる。
しかし、ピカピカ光る棒を振り回している光景は、明らかに不審であり家の外ではごく限られた場所でしか生息できない。果たして、今年、このペンライトが外の景色を見ることはあるだろうか。
今はまだ、寝室と自室を行き来するだけだ。やるなら試しに、今度職場に持っていっても良いかも知れない。
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