ぬいちゃんのお仕事

ぬいちゃん、と呼ばれるぬいぐるみがいる。

我が家にあるアザラシのぬいぐるみで両手で抱えられるくらいの大きさがある。表面はやや冷たい素材でできていて、夏にはちょっとひんやりした感触が心地よいが冬場になるとそのひんやり完が体温を奪っていく。しかし、年中重宝されている。というのも、このぬいちゃんは私のいびきがひどくうるさいときに、尻尾のほうを枕の下に差し込み、テコの原理で仰向けの私を横向きにさせるために活用されている。

なので、朝起きるとぬいちゃんが自分の横にいる事がある。それを見て「あ、昨日はイビキがうるさかったんだな」と思い、空になった妻の布団を見て「仕事に出かけたんだな」と思っている。

そして夏でも冬でも変わらず冷たいぬいちゃんを枕から引っこ抜き、姿勢を整えてまた寝る。最近、そんな感じの生活である。

アニメを見たり、コタツに入ったり、ステッパーという足踏みをする機械でフミフミしたりしているがまったりのんびり生活している。なんか老後みたいな生活だが、そんな舐めたことしている間に貯蓄はゴリゴリ削れていくので本当にいい加減仕事をしたい。

だが、焦るな、という指示に従って、ギリギリまで体力を回復させる構えである。今の職場には頭が上がらない。

我が家にはぬいちゃんの他にもキーウィのぬいぐるみがある。たまに妻が私の枕元で寝かせている。気が向いたときにやっているのだろう。

それから、妻は時折ぬいぐるみを買ってくる。最近ではポケモンのミズゴロウのぬいぐるみを買ってきた。

妻はミズゴロウが好きだ。私はキモリが好きなので相性的には勝ちだが、ミズゴロウはアチャモと並ぶ可愛さを持っている。キモリはどちらかというと生意気だ。

可愛さに目がくらんで、二匹目のミズゴロウをお迎えしていた。幸せそうで良かったと思う。

私はぬいぐるみにはあまり心惹かれることが無いのだが、妻の実家のクロゼットに眠っていたたぬきのぬいぐるみがとても可愛くてもらったことがある。関西に引っ越すときも持ってきた。名前をポンタという。好きなものは唐揚げだ。

こうして、キャラクターにちょっとずつ設定がついていく。アザラシのぬいちゃんも最初は名前が無かったのだが、確か冬場になって冷たいぬいぐるみをどうするかというときに私が「ぬいちゃん……」と今まで呼んだことがない名前で引き止めたため妻が笑い、そのまま定着した。

それから、クタクタになったクッションもある。妻から何度も「もう捨てて良いね?」と聞かれるたびに首を横に振っているグレーのクッションだ。

「使ってないでしょう」

そう言われると私はそのクッションを手に取り、胸に抱く。クタクタなのでぺったんこだが、一旦抱える。妻は、仕方ないという顔をしてクッションはゴミ袋行きを免れる。

今、クッションは多分足元にあるのだが、きっと「ある」ということが大切なのだ。あると落ち着く、無いと寂しい。それがクッションなのである。あまりにペタンコなので、抱きかかえるには心もとない。

それに、布団は隙間なく潜るほうが温かい。今は布団の上に7キロの重さがある毛布……毛布なんだろうかこれは。妻の言葉を借りるなら「重ってぇ布団」を被って布団と自分を密着させている。その間に暖かい空気以外は入ってほしくない。

今も布団から両手だけ出してスマホで文字を打っている。ぬいちゃんは妻と私の布団の間においてある。果たして、明日はぬいちゃんが枕に刺さっていないだろうか。刺さっていたらその日はイビキがうるさかったということになる。

妻は、私がイビキをかく時間から何時頃寝たかを逆算できるらしい。今日は夜ふかししているので、それもバレてしまうのだろう。

「できれば横向きに寝てくれる?」

妻から言われたこともある。

私は一応横を向いているが、寝るときになると仰向けになってしまうようだ。こればっかりは、コントロールできないので仕方がない。

ぬいちゃんが私の枕に刺さっていると、ごめんね、と思いながら朝起きる。

ぬいちゃんは「まぁ、どうでもいいが」というような世の中のこと全部に無関心な顔をして私を見る。お疲れ、ぬいちゃん。

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