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保存したよと言えなくて。

短歌を読んでいる。

作る方の詠むではなく、出来上がったものを鑑賞する方の「読む」だ。Twitterではハッシュタグと共に短歌が上がっている。「葬式に呼んでください」というペルセウス座流星群/絹さんが『片思いの人や元恋人に向けて「結婚式には呼ばなくていいから、葬式には呼んでください」っていうメッセージを込めた短歌をみんなに作ってほしい。』と呼びかけて生まれたハッシュタグは寄せられた短歌にエモさが爆発していた。

例えばこんな短歌がある。

「出棺に使ってくれ」とふざけつつ言われた曲をコンビニで聴く(@kakari01さん)

切ねえ。

なんの気無しの約束と、それを実際の葬儀ではそう簡単に提案できない現実との落とし所が、コンビニで曲を聴くことなのだという部分にとてつもないリアリティを感じる。

読んでいると自分も作ってみたくなるのだが、実際にやってみるとあまりにも稚拙な作品が出来上がる。何かが違うのだが、何が違うのかわからない。どこをどう手直しすれば良いのかもわからないので、そのまま放置してしまう。

音楽を聞いているときや、漫画を読んでいるとき、小説を読んでいるとき。同じように作ってみたいと思って、手を動かしてみるのだが案の定ちゃんとしたものは出来上がらない。音楽も作れるし、絵も描ける、文字も打てる。でもそれは、自分の作りたいものからは全然遠い場所に着地する。

やっぱり、ちゃんとやってる人は本当にすげぇんだな。という畏怖の念が深まるばかりだ。しかし「すごいことがわかったならそれでいいじゃないか」と自分を納得させることもできず、思い出したように伸びしろの見えない創作活動へと手を伸ばす。そして作ったものを見て、また「あー、やっぱ、あの人はすげぇわ」という結論に至る。

エッセイは、私自身の気持ちに正直に書けばいい。もしくは、聞いた話の中から一番人に聞かせたいと思った部分を抜き出せばいいので、ある程度「このへんかな」という手がかりがある。しかし、創作された空間に登場するキャラクターの等身大の気持ちや行動を表現することの難しさたるや。基準点を作るところからのスタートなのだが、その基準点を考え、作ることがとにかく難しい。

考えに考え、試しに作ってみた結果、技術的にもセンスから見ても、ありとあらゆるものが不足していて、どこから始めてもしばらくの間は直視できるクオリティのものは出来上がらないであろう。というところに来て立ち止まってしまう。

はー、すげぇ。ほんとすげぇなぁ。どうやったら、そんなふうにできるんだろう。

それでも、いくつかうまく行ったものもある。例えばラジオなんかは、最初はそれはもうひどいものだったが今では曲を紹介させてもらえる上にCMまで流せるようになった。こうして書いているエッセイも、最初は100文字程度から始まった。最初はショボくても、時々noteのおすすめに取り上げてもらえたりとか、公募で賞をもらえることもある。

しかし、ショボく始めたものが何でもうまくいくとは限らなかった。何がうまく行って、何がうまく行かないのか始めるまでは全くわからず、始めてからもわからない。今回うまく行ったことと、次うまく行くことに関係があるようであまり関係ないようにも見える。

エッセイも、ラジオも、たまたまなんとか形になっている。そんな気分だ。

短歌も、漫画も、小説も、曲も。作っている人の中には似たような心境で形にしている人がいるかもしれない。でも、良くも悪くも制作過程の不安は作品にはなかなか現れることはない。いつもそこにあるのは、完成品だ。ケチを付けようと思えば、いくらでも付けられるのかもしれないけれど、しかし明らかな存在感を持ってそこにある。

そして、思う。

なんで私は、これを作れないんだ。

できない理由なんて、山程あるけれど、それでもやっぱり思ってしまう。作ってみたい。目の前にある「これ」と同じものを、自分の手持ちにあるものだけで、作ってみたい。私の中にあるものだけで、作れるか試してみたい。

勢いに任せて作ったものが、うまくいくとは限らない。でも、ラジオを作らなければ出会わなかった人がいる。

誰かのWALKMANの中に、個人が勝手に作ったラジオが入っていることだってある。誰かのスマホのメモ帳の中に、密かにつぶやいた短歌が保存されていることがある。

でも、そういう報告を、ちゃんとできずにいることが多い。

「言えよ! 直接! 絶対嬉しいって!」

と思うこともあるけれど。なかなか言えずにいる。こちらから相手は見えているけど、向こうから見えてるわけではない。画面の向こうにいる人には、いつもそんな気持ちを抱いてしまう。だから黙って、ハートマークを押す。

有象無象の一人のままで、埋もれているのは楽なのだ。

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#葬式に呼んでくださいの短歌はこちらから

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