それでもソウルメイト
妻と私はソウルメイトなので、片方が落ち込んでいるときもう片方は異様に調子が良かったりする。
二人の幸福のバランスは足し合わせるとちょうど百で、普段は五十ずつの幸福を得ているが相手がズドンと落ち込んだときにはもう片方は割とケロッとしている。一緒に落ち込んだり、一緒に喜んだりということはあまりない。
妻が誰かと一緒にいたいとき、私は一人で静かに過ごしたい。そんな分かち合えない価値観を持つ二人がともに暮らしている。
今日は妻が元気があまりない。一方の私は、夜ご飯が昨日のピザの続きであるため少しウキウキしている。共感は大事だが、距離感も同じくらい大事だ。
だが、それはそれとして、私は今、自分のことでいっぱいいっぱいなので話を聞いてほしいと思っている。仕事の話、人間関係の話、自分の話。何を話せば良くて何を話してはいけないのか、良くわからないまま体を抱えて毎日動いている。
私は今、自分のことしか考えられない。
なぜ、と言われると難しいのだが、他人に気を使う余裕が無い。自分の評価、自分がどう見られているか、自分にとって無理がないか。そればかり気にしている自覚がある。
しかし、誰に何を話せば良いのかさっぱり分からず、こうしてエッセイを書いている。
話は変わるが最近脇の毛を剃った。どうにも汗をかくと臭いが気になるので一度剃ってみることにした。心機一転の仕方が間違っているような気もする。これも、誰になんと言って良いのかわからない話だ。話が広がる相手が思いつかない。
今の仕事は、運動を子どもに教える仕事であり私自身もかなり動く。そうなるとたくさん汗をかく。その結果、汗臭くなり脇から刺激的な臭いがするようになる。私自身が自覚できるくらいなのでよほど臭うのだろうと、妻に確認してもらった所、雷に打たれた猫みたいな顔になったので中々な刺激臭だとわかった。
日頃私の匂いを「落ち着く」と表現する妻が感電するほどの臭いを振りまいているのは流石に良くない。そういうわけで、脇に消臭剤を塗ることにしたのだが毛が邪魔になった。
そこで、ここに来てようやく脇毛の話だが、剃ることになった。お風呂で妻が切ってくれた。
「実績解除、夫の脇の毛を剃る」
と、妻は言いながらハサミでチョキチョキ毛を切りシェーバーで丁寧に短くなった毛をさらに剃った。
洗い流して湯船に浸かり、頭と体を洗って風呂から上がった。
チクチクする。脇がチクチクする。脇毛は多分毛の中では硬い方なのだろう。乾くとチクチクしてたまらなくなる。
服を着るとある程度収まったが、こいつは中々厄介である。
ただその翌日、私から刺激臭は消えたらしい。妻は「やっぱりミョウバンはすごいんだねぇ」と感心していた。結果が出てしまっては私もこの、脇毛生活を続ける意義が生まれてしまった。
私が仕方ないなと思っていると、妻は少しだけ楽しそうだった。どのくらいの頻度で剃ればいいのか、そういった脇事情は自分より妻のほうが知っている。
ソウルメイトは脇の事情で気持ちが左右されたりするものだ。そして、左右された気持ちはきちんと分配される。
妻が元気そうで何よりだ。私は、ザラザラになった脇に臭い消しを塗る。
最近は、なんかそんな感じである。
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