ミナトゴハン×魚の旅 Vol.01-1 島根県出雲市小伊津町 小伊津甘鯛 2020.10.09
お魚についてもっと知るために漁師さんにお話を聞いたいと思い立ち、最初に訪れた場所は島根県出雲市小伊津町。甘鯛(アカアマダイ)の漁が行われている漁師町があることを知り、おじゃまさせていただきました。
行きは旅気分を味わうためにサンライズ出雲号で。夜の10時台に出発すれば朝には出雲に到着です。時間も有効に使えて横になり眠れるのでかなり快適。
伺った日は台風が接近していたため漁はお休みでしたが、たくさんのお話を伺うことができました。
今回は漁についてのお話です。
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小伊津の甘鯛とは
出雲市の小伊津漁港は甘鯛漁の町。延べ縄漁と呼ばれる伝統の漁法で1尾づつ丁寧に水揚げされています。”のべ縄”は島根の方言で、全国的には”はえ縄”と呼ばれ、漢字では2つとも”延縄”と書きます。
漁協の規定の温度の水氷で締めることで新鮮に保たれたまま京都、大阪の市場に運ばれ、ブランド”小伊津甘鯛”として高値で取引され、県のプライドフィッシュにもなっています。
茂満丸 金築茂美さん・憲子さんご夫妻
お話を伺った金築茂美さん、憲子さんはお二人とも小伊津生まれの小伊津育ち。
漁師の家で生まれた茂美さんは昭和の40年に縄取り機(電動で縄を巻き取る機械)を導入するまでは、お父さん、お兄さん2人と共に4人で船にのっていましたが、以後は1人で漁に出れるようになり、昭和58年に独立して現在に至るというベテランの漁師さん。
その時の貴重な写真(昭和37年)がこちら。この頃は70隻ほどの船が操業していたそう。小伊津では現在は10隻ほどの船が漁に出ています。
”延べ縄漁”とは600mの長さの幹縄に5~6m間隔で針をつけたナイロン製の枝縄が100本ついています。そこにエサをつけ、茂満丸さんではこれを合計10ケ分を船に積み、船の上から縄を海に延べていきます。
図にしてみるとこのような感じです。
縄には水で浮いてしまわないように何箇所か重りに石をつけるそう。
茂美さんは漁へ
漁協の協定により、操業は日の出から。茂美さんはその時間に合わせて出港し、30分~1時間半かけて漁場に向かいます。
茂美さん:水深70m~120mのポイントで潮流を考慮して10ケの縄を30分ぐらいで延べていきます。
甘鯛は海底で暮らし、そこに自分で穴を掘り住処にしているので、その場所に針を落とすのだそう。
**甘鯛が穴を掘っている様子はこちらから画像が見れます。
国立研究開発法人海洋研究開発機構
https://www.godac.jamstec.go.jp/jedi/static_player/j/6K0002C2SV10_01473200
仕掛けが終わったら船の上で朝食。茂美さんは大の魚好きで、時化で漁に出れない時もわざわざお店に買いに行くほど。なので憲子さんはお弁当にも欠かさず魚を入れているそうです。ひと仕事終わった船の上で食べる弁当、おいしそう。
30~40分休憩してから縄を1ヶにつき15分ほどかけて引き上げながら1尾づつ丁寧にできる限り針を外し、水氷に入れてから港へ戻ります。
憲子さんは餌つけ
茂美さんが漁に出た後、奥様の金築憲子(以下、憲子さん)さんは次の日の漁に向けこの縄10ヶ分、合計1000本の針に餌付けします。
茂美さん:漁に出れない日や、時間の空いた時には餌にする冷凍のするめいかを塩漬けにして切っておくんです。
と言って冷蔵庫から出して見せてくださいました。すごい数です。
今は全国的にイカが取れなくなってきているそうなので餌の調達も大変なのだそう。
憲子さん:ただ針につけるだけでも大変な作業だけど、魚が寄ってくるようにイワシやすけとうだらからとった油にスルメイカの生干しを漬け込んだ特製の油を絡めてからつけるから、とにかく滑るし、針が手に刺さることもあるし、慣れない人がやると手が腫れてしまったりするんですよ。
釣れた甘鯛は漁協に
餌をつけ終わったら港に戻ってくる茂美さんをお出迎え。釣れた甘鯛を漁協へ運びます。
この写真は茂美さんが過去に撮ったもを見せてくださいました。写真に写っているのが憲子さん。
写真下、手前と左奥に写っているのはレンコダイ。甘鯛以外の魚もかかるそう。
漁協での様子
縄の補修も重要なお仕事
今回お話を伺ったのは漁港に面した1戸建ての作業場でした。2階の海側にある大きな窓から港と水平線が広がっています。その窓の前に向かって作業台と椅子が2つ。
茂美さん : この作業場は”縄くり(補修)”するところなんですよ。魚が餌を食べた時に針を飲み込んで取れないときは糸を切るでしょう、そのとれてしまった針をここで付け直すんですよ。
午後はこの作業場で縄の補修。多い時では1/3もの針を取られてしまうこともあり、そんな時は1ヶの縄につき1時間半程時間を取られることも。
いずれにしても夫婦2人では1日かかっても終わらない作業。今は漁師を引退したお兄さん2人、近所の方も一緒に作業を手伝っています。
作業台に置かれた籠のフチにはたくさんの釣り針がかかっていました。この籠で縄1つ分だそう。この針と糸を1つ1つ付けていくのです。
どれをとっても手間ひまかけた丁寧な作業には驚くばかり。この作業があるからこそおいしい甘鯛を食べることができるということをあらためて実感し、そして金築さんご夫妻をはじめ、伝統的な漁法を守り続ける漁師さんに感謝するばかりでした。
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島根県平田市小伊津町 小伊津甘鯛 Vol.01-2はお2人に教えていただいた小伊津と甘鯛のおいしいお話をまとめる予定です。
ゆっくりのんびりな投稿となってしまいますがお付き合いください。