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文庫本にイチョウの葉



イチョウの葉がくるくると舞いながら私の肩に落ちてきた。
自分の中で何かの縁を感じて、その葉を持っていた文庫本に、はさんで家に帰って、用事を済ませた。



そして、そのことを忘れていて、小説を読もうと文庫本を開けると、ひらひらとイチョウの葉が下に落ちた。
その葉をはさんでいたページを見ると、イチョウの葉の型に染みになっていて、その前後数ページは、紙がヨレッとしていた。
私は、そこの部分を指でなぞると、湿気を感じてそのあとザラザラとした質感だった。
何回も読んだ小説だったし、全くイチョウとは関係のない話なのに、そこのページには、刻印のようにイチョウの形が紙の上に刻まれていた。


紙って儚い。


そう思った。
儚い紙の上に、爽やかな文字が踊っている様子を見ると、すごく不思議な気持ちになった。



そして、そのイチョウの葉をまたそのシミに沿わせるように文庫本にはさんで本棚に戻した。
また、いつかその本が読みたくなったときにイチョウの葉がひらひら舞うように落ちてきて、そのシミになったページを指でなぞる私を想像すると、未来の私に出会ったような気持ちになった。






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