2023年7月、オープンAIのCEOサム・アルトマンが全世界の80億人にワールドコインで「ベーシックインカム(BI)」を支給するという壮大なビジョンを描いているということが注目されました。このビジョンは、機械が働いて得た収入を原資に毎月一定額のBIを受け取り、それで豊かな暮らしができるのなら、誰も「無用者階級」になどならなくていいという考えに基づいています。 私は仮想通貨に疎いですが、毎月一定額の収入という言葉には非常に魅力を感じました。単純に考えれば、働かずに暮らして
「コスパがいい。タイパがいい。」 この言葉、よく耳にしませんか?でも、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。私たちは本当に大切な『対効果』を見落としているかもしれません。 コスパ(費用対効果)とタイパ(時間対効果)。これらは単なる比率ではありません。その中身、特に『対効果』の部分こそが重要なのです。 例えば、私は隣県の醸造所が作る1,000円超の醤油を使っています。高価ですが、外食を1、2回控えることで購入しています。2ヶ月間、料理が格段に美味しくなり、毎日の食事
「さすがにお咎めなしってわけにはいかないわな」 タツヤが諦めたように言った。 「こんな時間に、こんだけのドローン飛ばしちゃってるからな」 ケイタが冗談めかして言う。 「お前のホログラムもな」 タツヤが返すと、二人は笑い合った。 「ランクダウンは免れないか」 タツヤの言葉に、首を傾げた。 「え、でもランクって関係ないんでしょ?」 ケイタが苦笑しながら説明してくれた。 「タクヤたち『渡り人』にはな、俺達にはランクが上がるほど模範囚として評価されるの。
『ヒュュュゥー』 空気を切り裂くような音が響く。全身に緊張が走る。 「さあ、白い象!諸悪の象徴よ砕け散るがよい!」 イチロウの叫び声が響き渡る。その瞬間、思わず目を閉じた。 『ポム』 ...小さな音が聞こえた。予想していた爆発音とは程遠い。 「へ」 イチロウの声に、恐る恐る目を開ける。 「は?」 広場にいる全員の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。 「えーい、不発か忌々しい。だが、30発もの鉄槌は止まることなく白い象の息の根を止めるのだ!」 イ
「はっくしょん!」 「風邪ですか?」 ケイスケが心配そうな顔で聞いてきた。 「いや、大丈夫っす。花粉かな?」 鼻をすすりながら答えた。 朝方まで話し合ったが、決定的な解決策は見つからなかった。疲れ果てて、いつの間にか眠りに落ちていた。 昼前に目を覚ますと、マコトの姿はなかった。ケイスケが用意してくれた昼食を口にする。味なんて分からない。ただ、体に何かを入れなければという思いだけだった。シャワーを浴びて、少しは気が晴れた気がした。 「行こうか」 ケ
結局、3人はケイスケの家に留まることにした。各々の家に戻る案も出たが、正体不明の相手と向き合う今、オンラインよりも直接対話する方が安全だと判断したのだ。 ケイスケが差し出した冷えたスパークリングウォーターを、一気に半分ほど飲み干す。 「まずは情報を整理しよう」 マコトが口火を切った。 「まず、タクヤの家に預言の詩とカギが届いた」 指を立てるマコトに続けて、 「そして、その詩はリエさんが書いたもので、カギは道で拾ったものだった」と付け加えた。 「あ、そうだ
闇が押し寄せる。意識が霧の中を漂うように朦朧とする中、必死に目を開こうとするが、まぶたは鉛のように重い。そこには安らぎの眠りはなく、ただ底知れぬ闇へ引きずり込まれそうな恐怖だけが渦巻いていた。 闇の底へ沈まないよう必死にもがいていると、かすかに人の声が耳に届く。 『助けて、誰か...』、心の叫びは、声にならない。 「...ぞう...なんてあるから...」 意識が遠のき、言葉が霞んでいく。もう一度、自分を奮い立たせる。 「しろいぞうが...」 「...みょるに
引き締まったアスリートのような体つきの男が、神経質そうに小包を差し出した。一見おとなしい印象だが、その動きには猫のような俊敏さがある。 「最近よく来るね。そちらの指示通りに作って渡すだけだから、楽な依頼だけどね」 「あなたの生み出すバクテリアや薬剤は、まるで夢の中から抜け出してきたかのような色彩を放つんです。もう、私の作品には欠かせない存在なんですよ」 「へえ、そうなのか」 「ぜひ、私の芸術作品をあなたにも見ていただきたい。本当にもうすぐ完成なんです」 男の熱を
連絡を受けてすぐ、ケイスケの家へと向かった。 ケイスケは、甘い香りが漂うコーヒーを淹れてくれて、ふたりで向かい合ってリビングに腰を下ろした。 「2028年、この地区はBIC特区として開発された。もともとは人口減少で消滅した3つの廃村だったけど、家を建て直したりリフォームしたりして蘇らせたんだよ」 ケイスケの言葉に、かつて日本中で村や町の消滅が話題になっていたことを思い出した。 「でもね、この集落には、BIC特区開発後も手つかずのエリアがあるんだ」 そう言うと
ケイスケにカギを預けてから3日が過ぎた。音沙汰なし。 あの夜のことを思い出す。マコトたちとケイスケの家でローマ料理を堪能し、赤ワインに酔いしれた。翌朝、目覚めるとベッドの中。どうやって帰ってきたのか、記憶が曖昧だ。不思議なことに、二日酔いの気配すらない。むしろ清々しい目覚めだった。 (あれだけ飲んだのに...) 心配していた掃除道具も、集会場に無事置かれたままだった。 ふと、あの夜の不思議な出来事が頭をよぎる。詩の文字が浮かび上がったあの現象。 (もしかし
テーブルに次々と並ぶ料理。チーズのパスタ、魚の揚げ物、肉の煮込み。どれも見たことのない華やかな姿だった。 「男の料理」というイメージとのギャップに、目を見張った。焼いただけの肉や、適当に具材をぶち込んだ鍋を想像していたのだ。 最後の一品を抱えて、ケイスケがキッチンから姿を現す。 「今日は、ローマ料理にしてみました。さあ食べましょう」 その瞬間、ケイタが声を上げた。 「あ、ちょっと待って」 ホログラムディスプレイを呼び出し、手際よく操作する。突如、部屋が一変
『 アメガフッタラ ボクラハサビテ カゼガフイタラ ミンナガワラウ ユキガフッタラ クサキガカレル ホシガフッタラ ヨロコビウタウ 』 紙にはそれだけ書かれていた。 「オスカー、これどういう意味?」 紙を天井に向けて見せた。 『詩のようですね…。検索しましたが見つかりませんでした。著名人の詩ではないようです』 「じゃ、これどこのカギかわかる?」 同じようにカギを掲げてみせる。 『…形状から一致する錠を見つけることができませんでした』
薄暗い部屋に、男と女がふたり座っていた。 沈黙が重く垂れ込める中、男が静かに口を開いた。 「君なら、相手より先に逝くのと後に逝くの、どちらを選ぶ?」 その言葉が宙に浮かぶ。片方の女性が瞳を閉じ、深く息を吐いてから答えた。 「私は…後かしら。最後の一瞬まで寄り添って、大切な人の旅立ちを見届けたい。それに…」 彼女の声が僅かに震えた。 「私がいなくなることで相手を悲しませたくないの」 もうひとりの女性が静かに頷いた。 「俺は絶対に先がいいな。大切な人を失
「だから、私たちのことをお父さんたちにも認めてもらいたいの」 ダイニングテーブルを挟んで両親と向かい合う娘の声が、静かな室内に響いた。 「だから、お前の好きにすればいいよ。別に止める気もないし」 父は平然と言った。 「私も別にいいと思うわ。あなたが幸せなら」 母も同調した。 「そうじゃなくて!」 娘の声が高まる。 「私たちみたいな生き方や思想を認めてもらいたいの!」 「お父さんたちが、それを認めたら何か変わるのか?」 父が静かに問いかけた。 「
集落に来て数週間。タクヤは毎日のノルマに真剣に取り組んだ。窓掃除の依頼があれば、積極的に飛びついた。ただ単に窓磨きが好きでやっていただけなのに気が付いたら、『一般窓清掃 中級』のスキルを獲得していた。何の役にも立たないとは頭では分かっていても、少し嬉しかった。 ノルマをこなした後の自由時間。タクヤは集落の路地を探索したり、新たな仲間と語り合ったりして過ごした。出会った面々の中には、タツヤ、トモヒサ、ケイタがいた。みな年上だったが、2歳年上のマコトと話すのが、一番楽しかっ
「なかなかいけるっしょ」 マコトの声に、目の前のトレーを見つめ直した。ご飯、味噌汁、野菜の煮物、焼き魚、漬物。どれも平凡な家庭料理。 食堂の入り口で右往左往していたら声をかけてくれたのが、このマコトという男。ここはバイキング形式で、好きなものを好きなだけ取れる。ただし、品切れは補充なし。人気のおかずを狙うなら、機を逃すなってことか。 「はい、うまいっす」 口では相槌を打ったものの、実際の味は薄くて曖昧。 「俺、昨日来たんすよ。その前は別の集落で」 マコトは