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小さな生活の声 会社にいることで、箱入り娘状態になってる(ムー)

「小さな生活の声」は25〜29歳を対象にした会話の記録です。20代後半に差し掛かった途端、急激に変化する周囲の環境。結婚、出産、キャリアアップ……着実にステージを登っている友人を見て、自分には何もないと焦燥感に駆られる人もいるのではないでしょうか。“大人になっていく自分”と本格的に向き合い、大人と子供の狭間で揺れ動きながら少しずつ変化していく。そんな彼らと私の本音を記録していきます。

第5回目に登場するのは、とある飲み屋で知り合った26歳女性・ムーさん。大手化粧品会社に務めている彼女が、改めて考える将来について。

悪い日本企業って感じです

奈都樹:ムーさんはどんなお仕事をされてるんですか?

ムー:化粧品会社の商品企画です。社内で企画を提案して、承認されたら、物作りって感じで。

奈都樹:華やか!

ムー:いやー、悪い日本企業って感じです。上の人に忖度したりもしますし。

奈都樹:そうなんですか。

ムー:商品開発って、まず社長同士のトップ会談で何を作るか決まるんですよ。ただ、その商品が本当にお客さんが望んでるものなのかって疑問に思うことが多々あります。だけど、そのまま物作りがスタートしたりして……。

奈都樹:なるほど。

ムー:トレンドを押さえてはいるんですけど「こういうの流行ってるんだよね」ぐらいな感じ。最近はエコとか環境を考えたものが多いですね。企業としてやらなきゃいけないことではあるけど、無理矢理それをやる意味あるのかな……とよく思います。

奈都樹:決められた商品は、上層部を通して最終的にムーさんのところまで降りてくると思うんですけど、ムーさんの上司はそういう状況をどう捉えてるんですか?

ムー:「動くしかない」って感じなんだろうな……。だからこそ、この会社に今でも残れてるんだと思います。良くも悪くも。

奈都樹:ってことは、辞める人も多い?

ムー:何かしら疑問を抱いてる人は、辞めて自分の会社を立ち上げたりしてます。

奈都樹:物作りへの意欲が強いからこそ独立心もあるのかな。ムーさんはどっちタイプですか?

ムー:うーん……結局残っちゃいそうだけど……でも10年後会社にまだいたとしても、マネージャーとか部長にはなりたくないですね。

奈都樹:へえ!

ムー:やっぱり現場の人たちとちゃんと意見を交わせるような仕事がしたいので。

奈都樹:ムーさんと初めてお話したとき、かなりタフに仕事されてるんだろうなという印象を受けたんです。SNSでも美容まわりの発信を積極的にされてましたし。仕事に対する意識が高い方なんだろうなと。

ムー:そうですか……?(笑)。そう言っていただけて嬉しいです。

奈都樹:私が27歳なのでムーさんとはほぼ同世代なんですけど、この世代って旧価値観をギリギリ受け継いでると思うんです。今だったらセクハラ・パワハラになるようなことを、許容しなきゃいけないと思ってきた最後の世代という感覚があって。体育会系もアリとされていた旧価値観と現代の価値観の狭間にいるんじゃないかと。ムーさんはどう思いますか?

ムー:かなり共感しますね。私は体育会系のノリOKなので、飲みに誘われたら嬉しいタイプですけど、周りを見るとそういうコミュニケーションを必要だと思ってない子もいます。

奈都樹:わかります。

ムー:ただ、上司を見ていると、わたしたちの存在がセンシティブになっているんだなとも感じますね。「若い子にこれ言ったらセクハラにならないかな……」っていつも心配そうで。

奈都樹:何がNG/OKなのかわからなくて手探りという感じがしますよね。逆にいうと、普通に考えてNGだったことが許容されてきた背景があるからだとは思いますけど。

ムー:そうですねえ……ただ、少し気の毒でもあるんです。上司の態度を見てると私たちへの気遣いがすごくて。化粧品会社ってトレンドを発信していかなければならないので、できるだけ若い子たちとコミュニケーションをとって最新のトレンドを吸収したいと思っているはずなんです。だけど、飲み誘うどころか話しかけることすらできない。

異性で歳が離れてたりすると、言いたいことが言いやすい

奈都樹:それは私もひしひし感じてます。ちなみに、商品開発のトップは男性が多いんですか?

ムー:女性も何人かいますね。ブランドごとにトップが分かれてます。営業部から上がっていった人がほとんどで、美容部員にお客さんのリアルな声を教えてもらいながら、トップに上り詰めたという感じです。

奈都樹:なるほど。ムーさんの直属の上司は女性?

ムー:はい。

奈都樹:じゃあ仕事の相談もしやすいんじゃないですか?

ムー:いや……私は異性と仕事する方が合ってるかもしれません。女性同士ってお世辞を普通に使うじゃないですか、挨拶みたいに。本音を言い合わないといいますか。

奈都樹:あぁ……思い当たる節はあります。上司/部下の関係性だと尚更かもしれないですね。

ムー:異性で歳が離れてたりすると、言いたいことが言いやすいんです。去年までは上司が男性だったので、その辺りは気を遣わなくて楽でした。

奈都樹:同性同士だと厳しい目で見ることはあるかも……正直、私も同性と異性では見え方が少し変わってる部分があると思います。ただ、これはかなり無意識的なものだから直すことが難しいんですよね。どこでそうなってるのか自分では気づけないので。だけどその分、異性よりも同性の方がより深い関係性を築くこともできるとは思うのですが……。

ムー:同性同士だからこそ良い面もありますよね。今の上司も親身になって相談を聞いてくれたりもしますし。この会社、「人」は本当に好きなので、人間関係が原因で辞めることはないだろうなと思います。でもなんだろう……去年の方がちょっとやりやすかったんですよね。疲れやすさが違うなって。

奈都樹:気を遣ってしまうんですかね。何気ない一言を気にしちゃうとか。

ムー:そうかもしれないです。男性だと「なんか言われた」ぐらいにしか思わないんですけど、女性に言われると気になっちゃうんです。例えば「そういう服好きだよね」という一言でも、「またそういう服着てるんだ」って聞こえたり。褒めてくれてるはずなのに、ねじれた変換をしてしまうんです。今の上司も私に気を遣わせない心配りをしてくれて、すごくいい人なんですけどね……。

奈都樹:同性だからこそ、声色や表情で何を感じてるかが勘付くこともありますよね。

ムー:“男女”って大きな括りで考えない方がいいとは思いつつも、やっぱり育ってきた環境が異なるので根本的に違いますよね。そこが興味深くもあるんですけど。

楽したら終わるだろうなという危機感はあります

奈都樹:「10年後会社にまだいたとしても、マネージャーとか部長にはなりたくない」というのは、自分のやりたいことができなくなるからですか?

ムー:うーん……そうですね……業務がつい作業になってしまうんですよね。言葉にすると派手に見える仕事も、実際にやってみるとすごく地味だったりします。

奈都樹:なるほど。

ムー:例えば、商品名を決めるときは、ネット検索したワードを引っ張り出して決める方法と、イメージを膨らまして決めていく方法があって。本当は後者の方が良いものができるんですけど、前者の方が効率的で早く終わる。どこを妥協したらいいのか常に考えてる感じです。

奈都樹:「効率とクオリティどちらを重視するか」という問題は何をするにしてもついてきますよね。特に会社に属してると効率がいい方が評価される場合もありますし悩ましい……。ムーさんは、必ずしもクオリティを重視できない現在の状況に対して、もどかしさを感じているようにみえますが、独立したいという思いはありますか?

ムー:フリーランスの美容部員として何かできたらいいですね。ただ、今はこの会社にいることで、箱入り娘状態になってるので……いつかフリーランスでやっていくにしても、このままでいいのかなって思うこともあります。頭を使わずに働いてても給料はもらえるし、生きていけるけど、人としての価値は下がるだろうなと。

奈都樹:そこまでシビアに考えてるんですね。

ムー:はい……この会社を利用して過ごしていけたら良い未来があるかもしれないけど、楽したら終わるだろうなという危機感はあります。でも会社って、頑張る人ばかりに仕事が降ってきて不平等でもありますよね。だからバランスは難しいです。












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