モニターを開いた状態でのアイセンサーの動作がカメラによって違う件
ひとつのメーカーのカメラだけ使いつづけていると、そのメーカーのやり方、作法に慣れてしまって、それをあたりまえのことと思うようになる。
それはそれで悪いことではないのだが、ほかのメーカーのカメラに触れると「あれ?」ってなることもある。
同じメーカーの別なカメラに買い替えたり、同じカメラであってもファームウェアをアップデートしたりしたときに「あれ?」ってなる場合もある。
この記事で取り上げるモニターを開いた状態でのアイセンサーの動作なんかはワタシ個人はけっこう気になるし、ローアングルやウエストレベルでの撮影が多い人ならイラッとした経験をお持ちの方も多いはずだ。
もっとも、この記事を読んだからといってそのストレスが解消できるわけでもないのだが、次のカメラを選ぶ際の注意点として頭の片隅にでも置いておくと将来の後悔の種をひとつ減らせるかもしれない。
ので、しばしお付き合いいただければと思う。
アイセンサーとはどういうものか
EVF(電子ビューファインダー)を内蔵したミラーレスカメラのたぶんすべてだと思うが、ファインダー接眼部にアイセンサーが組み込まれているはずだ。
だいたいのメーカーは「アイセンサー」だが、キヤノンだけは「ファインダーオンセンサー」のほかに「接眼センサー」という呼称も使っている。
アイセンサーはファインダーをのぞき込もうとする目を検知するためのものだが、実のところ、目そのものを検知しているわけではない。
電源をオンにした状態でアイセンサーをほかのカメラで撮ってみると、なにやら光を発しているのがわかる。
肉眼では見えないこの光の正体はもちろんご想像のとおり赤外線である。
アイセンサーの窓の中には赤外線LED(上の画像の右側)と受光センサー(同左側)があって、赤外線をピッと発射して跳ね返ってきた光をセンサーで検知する。
跳ね返ってこなければファインダーをのぞく人はいないのだからモニターに映像を表示する。跳ね返ってくるなら誰かがファインダーをのぞき込もうとしているのだからモニターからファインダーに映像表示を切り替える。
仕掛けとしてはとても単純なものだ。
であるがゆえに、目以外のものにも反応する。
カメラを操作しようとする指にも反応するし、足るんだストラップにも反応する。腰だめに構えたときの腹にだって反応する。
と言うか、反応しやがる。
結果、どうなるかと言えば、ファインダーに切り換わる。自動的にかつ強制的に。しかも、
「のぞいたでしょ?今ファインダーのぞいたでしょ?だからファインダーに切り替えときましたからね」
みたいな感じで。
昔のえらい人が言ったところの、ありがた迷惑そのものである。
イラッと来ないはずがない。
端的に言って、くそったれである。
モニターを開いたらオフにする
その手の不満はあっというまにメーカーにとどく。
いちばんに動いたのは、ワタシが知るかぎりではオリンパス、現在のOMデジタルソリューションズだった。
E-P5からモニターを開いた状態ではアイセンサーが一時的に無効になる仕様に変更されたんである。
念のために書いておくと、E-P5はファインダーレスのカメラであり、これは外付けEVFを装着したときの話である。
メニューの「EVF自動切換設定」がオンのとき、つまり、アイセンサーによってモニターとファインダーが自動切換となる状態なわけだが、その状態でもモニターを開くとアイセンサーが無効になる。
指やらストラップやら腹やらが接眼部に近づいてもモニターの映像が消えることがない。
普通に考えれば、モニターを開いているとき=モニター画面を見ながら撮りたいとき、であって、だからわざわざファインダーに自動切り換えなどする必要がないんである。
シンプルで合理的なやり方だと思ったし、今も思っている。
この仕様に気がついたのはE-M1のレビュー仕事のときで、それまではローアングル撮影のたびに勝手に消えるモニター画面にイライラしていたのがすっきり解消したものだから、かなり本気で感動した。
オリンパスさん、よくやった!ってね。
ほんと、うれしかったのよ。
その後、ソニーもα7R IIIあたりからこの仕様に切り換わったように記憶している。
開いた状態でも接眼撮影したいという要望
ところで、可動式のモニターには上下にだけ動かせるチルト式と左右と上下に動かせるバリアングル式(フリーアングル式と呼ぶメーカーもある)があって、それぞれにアイセンサーとの関係性が違ってくる。
チルト式はモニターを開いた状態ではファインダーをのぞくのはむずかしい。無理すればのぞけなくはないだろうが、あえて無理をする必然もない。たたんじゃえばいいからね。
また、チルト式はモニター画面とファインダー接眼部の距離が近い。ので、アイセンサーが有効なままだと誤作動が起きやすい。
だから、モニターを開いた状態ではアイセンサーが無効になる仕様で問題はない。
これがバリアングル式だと事情が違ってくる。
横位置のローアングルをやるときに、チルト式だと持ち上げるだけですむのに対して、バリアングル式は横に開いてから回転させるという手間が必要になる。
もちろん、もどすときの手間も同じだけかかる。
ちぃと面倒くさい。
そうすると、今までにはなかった要望が出てくることになる。
「モニターを開いた状態でファインダー撮影ができたほうが便利じゃないの?」
と主張する人があらわれた(のであろうと推察している)。
で、オリンパスがどう動いたか。
って書いたらだいたい想像つくよね?
当時のワタシの愛機だったE-M1 Mark IIはバリアングル式モニターを装備していて、そこにファームウェアVer.3.0がやってきた。AF性能の向上やら新機能の追加やら盛りだくさんのアップデートだった。
のはいいのだが、バリアングル式のモニターを開いた状態でもアイセンサーが無効にならない仕様に変わっていたんである。
もちろんワタシは
「ふぁっ?」
ってなった。
なにやってくれちゃってんの?である。
開いた状態での動作を選べる機能
ワタシはオリンパスの中の人にメールを送った。
もともとがこうだったのをこういう不便があってこういうふうに変えてもらえてよかったねって思ってたのがこれじゃあ悪い先祖返りだよ、というようなことをしんねりと書きつづったんである。
思い返すと、ああいうの受け取っちゃった中の人はいやだったろうなぁ。
だって、ユーザーからの要望に応えてユーザーのためを思って仕様を変えたんだもの。にもかかわらず予想もしなかった方向からとげとげした文面のメールが来ちゃったんだもの。
ごめんなさいね。全力で反省してます。
ただまあこちらも年齢だけはいい大人だったりするので、文句をいうだけでなく建設的な提案も添えておいた。
ようは、モニターを開いた状態でもファインダー撮影したい人と、モニターを開いた状態ではモニターだけを見たい人がいるのだから、両方に都合のいいように選択肢を設けるのはいかがでしょうか、である。
モニターを開いた状態でアイセンサーを有効にするか無効にするかをユーザーが選べるようなオプションを盛り込んではいただけまいか、とお願いした次第である。
まあ、ワタシひとりが文句を言ったのでもないだろうから手柄自慢のように書くのもおこがましいが、しばらくのちに公開されたファームウェアVer.3.2では、メニューの「EVF自動切換設定」で「On1」と「On2」が選べるようになった。
「On1」はモニターを開いていてもアイセンサーが有効で、ファインダーをのぞけばファインダーに切り換わるもの。
一方、「On2」ではモニターを開いた状態ではアイセンサーが無効になり、指やストラップや腹が引っかかってもモニターへの映像表示が維持される。
ちなみに、現行機種ではバリアングル式モニターのE-M1X、E-M1 Mark III、E-M5 Mark IIIが同じ仕様となっている。
E-M10 Mark IVだけは開いた状態ではアイセンサーが無効になる仕様だが、これはたたむのが簡単なチルト式のモニターなので問題はないだろう。
また、キヤノンのEOS R5とEOS R6の2機種もメニューの「画面の表示先設定」で、モニターを開いた状態でアイセンサーが無効となる「オート1(モニター開時モニター固定)」と有効なままとなる「オート2(モニター開時も自動切換)」が選べるようになっている。
と考えると、バリアングル式モニターとこの仕様は相性がいいということなのだろう。
まとめ
ワタシ個人はモニターを開いた状態ではモニター固定表示のほうが好みだし、むしろそうじゃないほうが不便で腹立たしく感じる。
ので、オリンパスの対応にはとても感謝しているし、キヤノンが同じ仕様を採用したこともうれしく思っている。
が、その一方で、いまだにモニターを開いた状態で自動切換のみのカメラも少なくない。ワタシの手もとにも1段いるが、ちょくちょくイライラさせてくれるものだから、Twitterとかでちくちく文句を垂れ流すことにしている。
なにしろ、自動切換なし仕様のカメラがあるのに、新しい機種にかぎって自動切換のみ仕様というわけのわからなさなんのだ。いったいぜんたいなにを考えているんだか。
というのを踏まえてまとめると、もしあなたがマウント変更を考えている、もしくは同じメーカー内での機種変更を考えているのであれば、あらかじめねらっているカメラのアイセンサー事情を把握しておくことを強くおすすめする。
たいていは使用説明書にわりと小さな字で書いてあるので、ウェブサイトからPDF版のをダウンロードして「アイセンサー」「接眼センサー」で検索してみるといい。
追加情報 機種ごとの対応のデータ
以下はワタシが調べた範囲での各社のオンラインショップで購入可能な現行モデルにおけるアイセンサー事情をまとめたデータとなる。
昨今の出版不況の影響をばりばりに受けまくっているものだから、正直言って懐事情がだいぶあやしくなってきている。というのもあるのでここだけ有料とさせていただくことにした。
プロのライターとしての活動にご理解、お支援いただけるとありがたく思う。
※最新のPDF版使用説明書・活用ガイド等で確認しています。モニターを開いた状態での動作が記述されているものはその内容にしたがい、記述がないものはモニターの開閉によらず「自動切換」としています。
※Z fcの活用ガイドPDFが公開されたので情報を追記しました。
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