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【オーディオコラム 第1回】アナログ再入門ガイド補遺

■終了したコラムの続きをここで

 ミュージックバードのウェブサイトには「オーディオコラム」という連載があって、当初は村井裕弥さん、鈴木裕さん、田中伊佐資さんのお三方で回り持ちされていた。ところが村井裕弥さんは2018年に急逝されてしまい、後任に私が起用されたという次第だ。今から4年前、2019年4月のことである。


ミュージックバードのウェブサイトで展開されてきたオーディオコラム。2023年4月中旬現在まだ読めるが、2024年の3月にはこのサイトも閉じられる可能性が高く、辛うじてnoteに残された文面が読めるくらいになるのではないか。願わくは、noteまで閉鎖されないことを。

ミュージックバード オーディオコラム
https://musicbird.jp/audio_column/
同note版
https://note.com/musicbird

 それからちょうど4年間、毎月1回のオーディオコラムを担当してきたが、2024年の2月いっぱいをもってミュージックバードの会員向け音楽放送が終了することに伴い、23年の3月でオーディオコラムも終了の運びとなった。何たることか、2022年4月のコラムを最後として療養に入られてしまった鈴木裕さんの復帰を待たずしての終了ということになる。裕さんは少しずつ執筆も再開されていると聞くし、あと少しだったことだろうにと悔やまれることろである。

 これまでnoteは「北守谷スピーカー工房」と題してスピーカー工作記事を主に掲載する心づもりでいたが、肝心の工作がこのところ無暗に多忙でなかなかままならず、2作目がアップできない状況が続いている。というような次第もあり、当欄でオーディオコラムの続きを記していこうかと考えた次第だ。「北守谷スピーカー工房」とは書き方も随分違うものになるが、どうかお付き合いいただけると幸いである。

■システムプランに凝りすぎた!?

「私的オーディオコラム」第1回は、音元出版「アナログ」誌Vol.79に掲載された「アナログ再入門者にお薦めするシステムプラン」における私の記事を補遺させていただくこととしよう。

 この企画、当初は「30万円コース」と「120万円コース」の予算内で行うということだったので、私は両コースとも本当にあとはヘッドシェル1本買えないくらいまで「乾いたタオルを絞る」ようなセレクションで提出したのだが、何たることか締め切りから本の発刊までに値上がりした製品が出てしまい、特に120万円コースは総額122万円になってしまったではないか。

 もっとも予算については各先生方、かなり自由に逸脱されたり大幅に下回ったりされているので、私としても少々荷が下りた気分だった。しかしこの猛烈な値上げ攻勢が続く昨今、一番肝を冷やし、頭を悩ませたのは、ページを担当された音元出版の若手編集子M氏だったろう。お疲れ様でした。

 それで、出来上がった記事の一体どこを"補遺"するのかというと、これは多分私の特殊事情だ。アナログ再入門のシステムプランと聴いて私はすっかり面白くなってしまい、どっさりアクセサリーまで含めた提案を行ってしまったのだが、そのノウハウまで含めて紹介し切れなかった、というのが本稿を書く羽目になった発端である。要は文字数内へ収め切れなかった膨大な情報を、ここで改めて書き残しておこうと考えた次第だ。

■プレーヤー付属カートリッジに活用法あり

 まず「30万円コース」で私がなぜティアックTN-350-SEを起用したのか、もう少し詳しく記しておこう。同社の廉価プレーヤーには、既に新開発のナイフエッジ型サポートを持つアームが搭載されている製品もあるというのに、本機は従来型の2軸サポート・アームである。商品の魅力度としては、明らかに併売だが世代の新しいTN-3B-SEが上であろう。


ティアックTN-350-SE。アームの高さは変更できないし、プラッターは薄いアルミ製だし、ゴムシートもペラペラだし、何かにつけて安っぽいプレーヤーなのだが、いろいろな裏技を駆使すると少々ビックリするような音を再生してもくれる。意外な実力機である。

 ところが、350-SEは旧製品と見逃してしまうにはあまりにも惜しいフィーチャーがいくつかある。一つは付属カートリッジのオーディオテクニカAT100Eで、ここは誌面でも触れた。


TN-350-SEの楽しさを支える重要パーツが、付属カートリッジのオーディオテクニカAT100Eである。本機に限らず、この形状のカートリッジが付属したプレーヤーをお持ちの人は、まず何か1本VMシリーズの交換針をお買い求めになることを薦める。

 同社のVMカートリッジは一部シリーズで兄弟の形状が同一だから、交換針が相互に流通させられることが「テクニカファンの秘かな愉しみ」として、一部マニア間で認知されていた。「AT120には150の針が使える」といった類の話である。

 同社では、VM型の100番代と400番代を統合した新規開発のVMシリーズをデビューさせた。ボディは樹脂ハウジングのステレオ500番代とモノーラル600番代、そして金属ハウジングを持つ700番代の3種類、交換針は接合丸針を持つ10、同楕円針20、無垢楕円針30、マイクロリニア(ML)針40、シバタ針50、特殊ラインコンタクト針60の6種類で、500番代は10~40、700番代は40~60、モノには10番の針を装着した都合8種類の大家族となっている。

 このシリーズ統合により、同社はこれまで「影の噂」として黙認してきた格好の交換針の流通性を、公然のこととして認めた。というより、もっと積極的に交換針を付け替えて楽しんで下さい、というスタンスである。

 しかも、形状が適合する旧世代のVM型にも、「互換性あり」「推奨交換針」「アップグレード」の3種類を対応させる適合表をウェブ上で公開している。

https://www.audio-technica.co.jp/atj/vm/jp/replacement/pdf/discontinued_model_jp.pdf

 この一覧表には残念ながら他社への供給が主用途のAT100Eは入っていないが、純正交換針のATN100Eは既に生産完了で、同製品の取説には接合楕円交換針のVMN20EBを薦める旨、記入されている。ということはつまり、ティアックが公式にVMシリーズの"交換針道楽"を楽しむことを認めている、といってよかろう。


プレーヤーの取説で交換を推奨されているのはこちら、接合楕円針のVMN20EBである。しかしほんの数千円差でもあるし、私なら無垢楕円針のVMN30ENを是非にと薦めたい。

 長々と解説してきたが、30万円コースにTN-350-SEを選んだ一番の目的がこれだ。ナイフエッジ・アームを搭載した新世代のTN-3B-SEなどには同じくオーディオテクニカのAT-VM95Eが純正装着されており、こちらも同シリーズで交換針道楽は楽しめるのだが、AT100Eの方が特殊ラインコンタクト型という、より高度な針を試すことが可能なのが頼もしいところである。

 また、AT-VM95EよりもAT100Eの方がたったの1mmだが全高が高い。同社カートリッジは他社比で背の低いものが多く、ほんの僅かでも背の高いカートリッジでアームの水平が取られている方が、アームの高さが変更できない廉価プレーヤーではより多くのカートリッジへ適合しやすい、ということも考えてのセレクションである。

■"世界最安"でMCを存分に楽しもう

 今時はMCカートリッジ1本買おうにも、ハイエンドの入り口は30万円からといった状況だが、それでもシステム総額30万円でMCを楽しみたい。そんなギリギリの線を突いたのが今次のセレクションで、選定機種のブランドがまたしてもカブっているのは他でもない、テクニカAT-OC9XEBが現在のところ最安だからである。それに、純正カートリッジよりこちらも1mmしか背が高くないのも、組み合わせやすかったところである。


今回のプランでは残念なことになったが、世界最安MC型としてAT-OC9XEBの存在が揺らぐことはない。ただの廉価品ではなく、MCならではの音数の多さや伸びやかさを十分に味わわせる、決して侮れない製品である。

 と、そこまでは誌面でも一部説明しているが、AT-OC9XEBになぜ同社シェルを組み合わせず中電のHC-001を宛がっているかというと、単純に目方の問題である。同カートリッジは自重7.6g、TN-350-SEの適合カートリッジ自重は3.0~7.0gで純正シェルは11gというから、何とか10gのHC-001で事なきを得た、というわけである。それに、HC-001は軽量だが音質的にしっかりしているということもある。

 ただし、シェルリードだけは良質のものへぜひとも交換しておきたい。それで選んだのは廉価クラスで個人的に最も信頼を置いているオヤイデHSR-102だ。そこそこワイドレンジで帯域バランスは大変良く、派手さはないがしっかり情報量を出すタイプのリードである。

■PH-01RRはこのセットに必須だ!

 リストにある通り、フォノケーブルはオヤイデPH-01RRを起用している。本製品を本文原稿へ反映させるのを忘れたのは大きな失態だった。このプレーヤーへこそ、組み合わせるべきはこのケーブルである。PH-01RRは小容量MM向けに開発されたとりわけ内部容量の少ないフォノケーブルで、オーディオテクニカのVM型はまさに負荷容量を小さく設定せねばならないカートリッジなのだ。前述の交換針道楽を含め、システムの持ち味を発揮させるためのキーパーツといって差し支えない。

 PH-01RRは低容量MMに特化して開発されたからといって、MCが苦手というわけではない。自宅リファレンスでも結構じっくりとテストしたが、MCをつないで何らかの問題が出たことはなく、ローエンドこそ若干軽めだがキリッと身の締まった端正な再現が印象的だ。

 それにしても私の30万円コースはオヤイデとテクニカだらけだが、それだけ両社製品のコストパフォーマンスが群を抜いている、ということができそうである。断じていうが、両社から何らかの働きかけがあったわけではない。

■価格内でギリギリまで楽しむために

 以上のように、今回特にわが30万円コースは針穴を通すようなセレクションだった。例えばわが信頼するターンテーブルシートBR-12を起用したのも、TN-350-SEがアルミ・プラッターで純正がゴムシートだったからだ。同社のTN-570(生産完了)はわが家でもリファレンスの一角を占めているが、本機のアクリル・プラッターではBR-12の持ち味が完全に損なわれ、ただのゴム臭い音に変じてしまう。プレーヤー全体の好ましきバランスが台無しになってしまうのだ。


ティアックTN-5BB。フォノバランスにまで対応した同社のフラッグシップだが、税込みで20万円を切る価格がうれしい。本機はプラッターがアクリルで、シートを載せずに使うことを前提としている。極めて優れたプレーヤーだが、そういう意味で遊べる範囲が少々狭いのは致し方なしとすべきか。

 また、フォステクスのミニアンプAP25を起用したのは、残り予算が乏しかったからというのが正直な事情だが、それでも20W+20W少々(6Ω)の出力でもMMなら結構ガンガン鳴らせたのは、スピーカーに高能率(91dB)のQアコースティクス3050iを起用したせいが大きい。セット10万円少々の廉価帯ながら驚くほどワイドレンジで鳴りっぷり良くパワフルな、得難い存在である。

 残念ながらMC再生で少しばかりゲインが足りなくなってしまったが、これとて20畳ほどもある広い音元出版試聴室でのことで、一般家屋ならひょっとして事足りてしまうのではないかとも考える。


マランツPM6007。税込み8万5,000円だったから今次の予算には合わなかったが、個人的に高く買っているプリメインである。絶対的な駆動力が高くて解像度とスピード感に優れ、同軸とTOSで192kHz/24ビットまでのデジタル入力を受け付けるのも魅力だ。唯一PHONOがMMのみなのが残念だが、それは贅沢というものであろう。

 本文でも書いたが、今回のセレクションは30万円へギリギリ落とし込むための綱渡りで、もう少しご予算を費やしてもよいというお客様には、例えばマランツPM6007クラスのプリメインを導入されれば、まずゲインに困る心配はなくなることをお伝えせねばなるまい。AP25、ああ見えて滅法音は元気者で意外と品位も高く、個人的には大いに気に入っているのだが、ボリューム付きパワーアンプの限界がはしなくも提示された格好だ。

■SPケーブルは電力線でどうだ!?

 今回のセレクションでは予算が尽き、スピーカーケーブルを選べなかった。Qアコースティックには付属ケーブルがなく、AP25の付属品も文字通り糸のようなオマケケーブルで、何より長さが足りなかったので試聴室レファレンスから廉価なものを選んで接続したのが少々の心残りではある。


VCTキャブタイヤの3.5スケア2芯タイプ。オヤイデ電気のECサイトから画像を拝借した。音に飾り気やもてなしのようなものはないケーブルだが、音量がアップしたような迫力とメリハリがつき、根強いファンがいるケーブルである。私もサブシステムにちょうど同じものを使っている。

 この組み合わせでできるだけ廉価なSPケーブルを選ぶなら、思い切って電力線を使って見られてはどうか。故・長岡鉄男氏が愛用されたキャブタイヤ・ケーブルである。具体的には、VCT規格の3.5スケアくらいがちょうどよいのではないか。お近くのホームセンターにて、¥500/mくらいで買えるだろう。

■ご褒美プランも小物には触れられず

 続いて120万円コースを補遺したい。機材については何の心配もない。どれも定評あり、個人的にも大いに好む素材を組み合わせたものである。

 問題はアクセサリー類で、追加カートリッジのオルトフォンSPU#1Sとベルドリームの追加ウエイトは本文へ反映させられたが、他はほとんど触れられなかった。それぞれの選定理由と使用法を記していこう。

■テクニクスのゴムシートは交換不要

 ティアックではゴムシートを交換したが、テクニクスにそれは不要だ。SL-1200Mk6からシートの素材が大幅に変わり、劇的な音質向上を見たせいである。ところが、今回SL-1500Cを改めてじっくり試聴していたら、何とまたゴムシートの材質が変わっているではないか。1200GやSL-1000Rへ装着されているものより僅かに硬く、しなやかさに欠ける感触だ。

 それでその両者をじっくり聴き比べてみたら、うん、確かに少し音がこわばったように感じなくもないが、これくらいなら問題はない。むしろいまだ十分に高音質のゴムシートといってよいだろう。

■山本音響工芸RS-1は隠れた銘品

 スタビライザーはナガオカのSTB-SU01がいいかなと思ったのだが、ちょうどサイトをのぞいた時に品切れで、だったらと山本音響工芸RS-1を選んだ。砲金にいぶし銀的な仕上げが施された製品で、重量は380gと適度に重い。本製品で一番のポイントは、実は盤との接触面にある。外周に沿って円周状に細く出っ張っており、レーベルとの面接触を避け、線接触としているのだ。


山本音響工芸のスタビライザーRS-1の底面。外周に沿って軽くリブがつけられているのが分かる。なかなかこういう作りのスタビライザーは珍しく、貴重な存在といってよいだろう。

 全く同じ素材と重さで面接触と線接触のスタビライザーを聴き比べたことはないが、他の方面でもいろいろ実験してきた結果と考え合わせると、後者の方が音飛びが良く、軽快になる傾向ではないかと推測している。

■ランク付けを間違えた? フォノケーブル

 フォノケーブルはゾノトーンを選んだ。マイスター・シリーズだから同社としては廉価な部類だが、実はかなり高級なアナログへ使っても十分に性能を発揮させられる実力派である。実は自宅でも、現在は同社の最上級シュプリームTW-1を長期テスト中だが、それをまではマイスターを導入することを考えていたくらいである。

■電源ケーブルはどこへ用いてもよし

 電源ケーブルはオーディオテクニカの新製品AT-AC500を選んだが、これは2ピンであることが選択の大きなポイントでもあった。最近になってプレーヤーの電源アースラインとフォノのアース端子が導通していることが分かり、となると迂闊にプレーヤーへ3ピンの電源ケーブルを導入できない。アームアースへ電源周りからノイズが流入してしまう可能性があるからだ。

 AT-AC500は2ピン電源ケーブルの中ではかなりしっかりした音のケーブルで、そういう意味ではアナログへ非常によく適合するケーブルなのではないかと考えている。

 もちろん電源ケーブルは別にどこへつないでも構わないから、テクニクスとアキュフェーズで付属ケーブルと聴き比べ、効果の高い方へ接続するのもよいだろう。

 長々と書き続けてしまったが、以上でほぼ今回のセレクションへ込めた狙いが解説できたかと思う。もちろんこんなもの、あの文字数へ収めようがない。アクセサリーの狙いを解説していたら音について触れられなくなってしまった、などとなったら編集は頭を抱えるだろうし、読者の参考にもならなくなってしまう。

 というわけで、これまではミュージックバードのコラムをこういう補遺に活用してきたが、今後は時折こういう文章がnoteに載ることとなるだろう。皆様もよろしくお付き合いいただけると幸いだ。

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