茶の頂き方
お茶が点てられた茶碗が出されましたら右手でその茶碗をとり次のお客様との間に置きまして「お先に頂戴します」と挨拶をいたします。これは一般常識のひとつですから説明することもないでしょう。次にお茶碗を自分の正面に置き、亭主(お茶を点てた方)に「お点前頂戴いたします」と挨拶をいたします。これは亭主が客のために点てた心に対するご挨拶です。コーヒーを入れてくれたら「ありがとう」と言うのと同じ事です。それがインスタントではなく部屋中に香りの満ちた挽きたてのコーヒーが出されたら感謝の気持ちは深くなるでしょう。亭主も一碗のために挽きたてのコーヒー以上に心を入れてお茶を点てたのですから、客はそれ以上に心していただくわけです。その茶碗を左手の平にのせ右手を添えて持ち、頭を下げて感謝いたします。この感謝は、作って頂いた方への思いはもちろんですが、神・仏・先祖・社会そして自分自身への感謝であります。そして大事なことは、道元禅寺の教えである「いただきます」という思いです。あるお坊様に「いただきます」の意味を尋ねると、『その言葉は命を頂くという意味です。一粒の米も命なのです。その米の命を大切に出来ない人は、自分の命すら大切に出来ないのです。』と教えて頂きました。
右手で茶碗を点前に回し茶碗の正面を反対にしてお茶をいただきます。茶碗の正面を遠慮していただくのですが、ヨーロッパのテーブルマナーにもこの形がありまして、カップの取手を左に向けて出し右手で取手をもち正面をよけて飲みます。これは最近出来たマナーでして、本来は左手にティーカップを右手にお菓子を持ち飲食するティーパ−ティーの習慣が残っているから左に取手を向けて出すので、全く違う意味なのです。最後の一口は音を立てて吸いきります。お茶を残さずいただきましたことを吸いきることで表現するのです。いただき終えた茶碗は先ほどと反対に回し正面を元に戻し、茶碗を畳の上に置き両手を付き拝見いたします。まず、全体の姿を見まして、体を低くして両肘を両膝の上に乗せて手に取ります。茶碗にはいくつかの見所がありまして、裏返して底の「高台」の削り具合、高さ、厚みなどを拝見します。亭主がこの一服のために用意したものですので粗相がないように扱います。手に取ることで茶碗の重み、亭主の思いを拝見し感じ取るのです。
ここまでがお茶のいただき方ですが、一杯のコ−ヒーとは全く違う重要な点があるのです。それは、「飲む」のではなく「いただく」と云うことです。「飲む」という感覚は一方通行で体の中に入ってきますが、「いただく」という感覚は様々な回り道で心の中に入ってきます。『茶道』はひとつひとつに心をこめております、その心をいただくのが大切なことなのです。
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