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NO.2『セーター』

欲しいものが買えた時って、ウキウキと嬉しくなる。
そんな気持ちはいつまでもあるのかな。お買い物大好きな母。
こんな事がありました。ちょっと聞いて~

へっぽこ娘

9月のある日、町会から敬老のお祝いが届いた。地域で使える商品券がたった一枚。 町内のお年寄りの人数を考えると妥当な金額なのかなと思った。数日後今度は社会福祉協議会から米寿のお祝いが届く。少し多い金額の商品券で母は大喜び。「これで何か買ってもいいんだよね」と何度も私に確認する。認知症が進んでから不安なのか、何でもいちいち私に確認するようになった。商品券をいつもの大事な物が入っているバッグにしまって、嬉しそうだった。

次の日、デイサービスに商品券の入った封筒を持って行こうとするので、「それは失くすといけないから仏壇にあげておけば?」と言うと「そこに置くと取られる」と言う。「誰に取られるの?取る人なんていないよ」と言っても何だか嫌そうな顔をしている。最近母は物がなくなると私の主人を疑うようになった。義理の関係の人を疑うのも認知症の特徴だと誰かに聞いた。また主人のことを疑っているんだとプチ切れした私は「私の言うこと聞かないなら勝手にすれば?なくしても知らないよ!」と捨てゼリフを残して母の部屋から出て行った。あーまた優しくない言葉を言ってしまったと反省しながら…。

夕方母のバッグからその封筒が出てきたので、私の言うこと聞かずにやっぱりデイサービスに持って行ったんだなと思った。そんなことをよそに母は封筒から出したり入れたりしながら何度も嬉しそうに商品券の枚数を数えている。きっとまたいつもの店で洋服の一枚でも買うつもりなんだろう。最近は近所のスーパーのレジも自分で払うシステムに変わってしまい、母が一人で買い物できる店がどんどんなくなっている中で、その洋品店は母が一人で買い物ができる唯一のお店だった。「店員さんにこの商品券使えますかって聞けばいいんだよ」「分かっているわよ」ほんとに分かっているか?と思いながらも、使えなかったら欲しい物が買えなくて可哀想だなと思った。

そこで母に「使えなかったら困るからこの商品券をお金に替えてあげようか?」と言ったら、初めは意味が分からない様子だったが、実際にその金額の現金を見せて「これと交換するね。これならどこの店でも使えるでしょう?」と言ったら「あー良かったわ」とホッとした様子で現金を受け取り、その封筒に大事そうに入れた。お金は大事な物だということは理解しているようだが、なくさないようにしてねと心で思いながら、いつになく大事そうにバッグを抱えて自分の部屋に戻る母の背中を見送る。今日はちょっと優しくできたかな。母は次の日さっそく冬物のセーターを一枚買ってきて嬉しそうにしていた。

聞いてくれてありがとう。

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