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ハシビロコウ

すずらん

 3月の終わり、小学3年生の孫娘と二人で上野に出かけた。共働きの娘夫婦に代わって春休みの一日を共に過ごすことになったとき、「したいことを思う存分させてあげよう」と決めた。孫娘には2歳の妹がいて、日頃はどうしたって妹が優先。お姉ちゃんとして我慢を強いられることも多く、パパやママに何かとダメ出しをくらっている姿を目の当りにするたびに、私の胸は痛んでいた。

 この日最初に向かったのは私の従弟が出展している東京都美術館での絵画展。絵や工作が大好きな孫は、終始興味津々の様子で「この絵、色きれいだね~」「おもしろいね~」と、まるで小さな評論家。ひと通り作品を堪能したあとは国立科学技術館へ連れていこうと計画していたが、ここで予想外の事態に! 美術館を出た孫は、突如、「動物園に行きたい!」と言う。<動物園かぁ>と戸惑う私に「いま、ゲームで動物園を作ってるんだけど、動物が少なくて。たくさん動物たちを見て、動物園を作りたいんだ!」と。<なるほど、この子にはこの子なりの理由があるんだな>と、私も気持ちを切り替えて、いざ上野動物園へ!

 トラ、ゴリラ、シロクマ…、夢中で動物を観察し、写真を撮っている孫。パンダ舎に向かう途中、突然、「あっ、ハシビロコウがいる!」と立ち止まった。そして、得意げに「ばぁば知ってる? ハシビロコウって『クジラ頭の王様』っていう名前なんだよ。ママに教えてもらったんだ。ママが読んでた本の題名なの。かわいそうな鳥なんだよ」。ハシビロコウに出会った瞬間、孫は目の前の鳥を眺めながら、心の中にはママの存在があふれたのだろう。ハシビロコウについてママと話したときの温かな空気が、キラキラした瞳から伝わってきた。ママとのひとときが孫にとってどれほど大切かを痛感し、忙しいなかでも、わが子と心をつなぐ時間を持とうと努力している娘をいとおしく感じた。

 「いいおばあちゃん」をしようと張り切った春の一日。振り返るたびに、孫の成長と母として子どもに心を寄せる娘を誇らしく思う。そして同時に、ハシビロコウの姿がよみがえってくる。

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