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関数男物語〜灼熱のヒト03〜

 数男は職員室を飛び出すと、PCルームへと向かった。その手には、USBフラッシュメモリが握られていた。この中には、各学年の主任から預かった印刷物のデータが入っている。もちろん、通知表など個人情報が含まれるデータ以外である。このUSBメモリをPCルームのPCで使う許可も得ていた。

 そう。湿気と熱気で稼働しなくなった職員室のプリンターや印刷機以外に、PCルームにもプリンターがあることを思い出したのだ。PCルームの鍵を開け、まずはエアコンを全力でかける。同時にPCを立ち上げ、USBメモリを差し込んだ。

 しばらくして、プリンターから次々と印刷物が吐き出され始めると、数男はようやく一息ついた。既に時刻は、19時になろうとしている。退勤時刻を大幅に過ぎている。しかし、おそらく職員室にはほとんどの職員が残っていることだろう。

「これでは、いけない。」

 数男は、心の底から嘆息した。プリンターのトラブルがあったとは言え、退勤時刻を大幅に過ぎていても「当たり前」のように仕事をしている。「学期末だから」ということは、何の大義名分にもならない。残念ながら、表計算小学校では、過剰労働が常態化している。
 過剰労働が常態化すると、定時退勤する職員が感じる必要のない罪悪感を感じてしまう。実際、表計算小の職員でも定時に帰宅する職員はいるのだが、その職員は誰もが申し訳なさそうな表情をしている。そして、「子どもを病院に連れていくので…。」や「用事があるので…。」と言わなくても良い理由を口にして帰る職員が多い。退勤時刻なのだから「お疲れ様でした!」で帰宅すればよいはずなのに。

 そんなことを考えていると、数男の中に沸々と闘志が湧いてきた。それは、数男自身も定時退勤することに若干の後ろめたさを感じていたからに他ならない。

「俺が、変えてやる。」

 薄暗いPCルームで数男は一人、つぶやいた。

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