2023年12月~2024年4月
※同人誌づくりと私生活のバタバタが重なって、この時期なかなか読書と紹介の時間がとれず……遅れちゃってごめんのだ。
539.勇者と探偵のゲーム (大樹連司/一迅社文庫)
『勇者と探偵のゲーム』とてつもない怪作なのだ!
勇者と探偵を巡る物語が無限発生する地方都市で、一人の少女が無意味に死んだ
拡大主義や学生運動的ロマンチズム、果ては物語消費までも否定して焼き尽くす、野心的なメタ構造の「反小説」。ベーシックインカムやファスト風土化が進む未来観も鋭い!
「街で起こる事件がそれぞれ日本の抱える問題を象徴しており、勇者や探偵が解決するたび国の問題も解決する」という超特殊設定なのだ……
ここからさらに、勇者と探偵という「物語解決装置」を騙すための画策が始まったり、メタな視点の語りが入ったりして、ちょっと他では読めない面白さ!
540.湖畔地図制作社 (長野まゆみ、桑原弘明/国書刊行会)
本日入荷!『湖畔地図制作社』は桑原弘明のスコープオブジェに長野まゆみの短編小説が付いた素敵すぎるガジェット小説
ハマスホイ風の部屋、月光の差し込むバルコニー、秘された庭園、氷穴……金属の小箱に収められた奇景に、幻想的な短文を添えて
個展も明日から!クリスマスにもぴったりなのだ〜
541.ひょんなこと (ネルノダイスキ/アタシ社)
ネルノダイスキ最新刊『ひょんなこと』入荷したのだ!
楽園を目指す大根と豆腐、グラフィティアーティストになったタコ、糸巻き戦車祭、蜘蛛との友情……極上の奇想と緩急自在の画力、そして一抹の寂しさが胸を打つ唯一無二のヘンテコ世界
日常の気づきや社会問題との接続も上品!panpanya好きもぜひ〜
542.その怪文書を読みましたか (梨、株式会社闇/太田出版)
新世代ホラーのエース・梨が仕掛ける異色の展示『その怪文書を読みましたか』が書籍化したのだ
監視妄想、幻聴、奇怪なロジック、破綻した文法…狂気の原液をぶち込まれるような怪文書の数々と、徐々に増加する「妖精さん」の話
コロナ禍や諸々の事件を経て笑えないものも多いが、ここがホラーの今!
543.少し不思議なカレーの物話 (タケナカリー/鴎来堂)
謎カレーSF『少し不思議なカレーの物話』面白かったのだ
コスパ主義の竹中が出逢う奇妙なカレー達。死者との邂逅、ループする一日、中野ブロードウェイでの死闘。スパイスの意志は彼を何処へ導くのか
ドラッギーだが消費社会&生産主義にカウンターを入れる哲学が効いてて最高!有名店も実名で登場〜
544.百物語 (杉浦日向子/新潮文庫)
杉浦日向子の『百物語』、久しぶりに読み直したらやっぱり打ちのめされるほど凄いのだ……
この行間。この無常。この日本情緒。一話数頁で語られる短編の中に、濃密な江戸の闇と、しみじみ胸を打つ怪談の原風景が詰まっている
ポンと虚空に放り出されるような不安感も極上。仕掛けの凝った現代怪談に慣れた目だと逆に新しさすら感じる、永遠の名著!
545.N.Aの扉 (飛鳥部勝則/新潟日報事業所)
飛鳥部勝則の中でも復刊の望み薄そうな『N.Aの扉』を偏愛したいのだ
これは本格推理の幽霊。中学時代に書いた自作小説の断片的設定。友人の書評。そして幽霊めいた少女と乗るSLでの対話。ミステリ論とも私小説ともつかぬ物語はやがて虚実が混濁して…
破綻してるが愛おしい静かなるカルト怪作!(激レア)
546.かんかん橋を渡って (草野誼/ぶんか社コミックス)
異形の嫁姑漫画『かんかん橋を渡って』最高だったのだ!
嫁いびりレディコミのはずが、次第に範馬勇次郎ばりのカリスマを発する姑!覚醒して人心を束ねる嫁!そして真の敵との全面戦争!赤子誘拐!ライフライン封鎖!ハンマー金玉潰し!嫁は地域を縛る因縁の連鎖を断つことができるのか!
なにこれww
547.ミステリウム (エリック・マコーマック/創元ライブラリ)
『ミステリウム』極上すぎたのだ……
水文学者を名乗る男が現れてから田舎町に起こる異変。破壊された墓碑、酸をかけられた図書館の本。殺人。そして言語に纏わる奇病
仄暗い幻想文学的不安、歪つな細部、ヘンな夢を見た後みたいな読後感で、翻訳鬼・柴田元幸も絶賛の奇書。今すぐ全作揃えたい……!
548.街のスタイル (衣巻省三/国書刊行会)
稲垣足穂の盟友にして、朔太郎や左川ちかに賞賛された幻の世紀末詩人・衣巻省三が『街のスタイル』で奇跡の再臨!
歌詞を思わせる洒脱な詩と、大正ロマン全開の都市生活に幻想が溶けた短篇小説。ライムを絞ったような哀しさが染みるのだ
正方形の美しい製本も、ようやく見つけた骨董の宝石箱のよう!
549.遊星ハグルマ装置 (朱川湊人、笹公人/日経BPマーケティング)
『遊星ハグルマ装置』は短歌ブームのいま見直したい野心作なのだ
ノスタルジックホラーの名手・朱川湊人と念力短歌の歌人・笹公人が異色すぎるコラボ。昭和の空想科学をテーマに掌編と短歌が交互に紡がれる変則構成
特に小説が面白くて、暗号ホラーからファンタジーまで短くも濃厚!表紙は諸星大二郎!
550.KID A MNESIA ( Thom Yorke、Stanley Donwood/Canongate Books Ltd)
す、凄いの手に入れたのだ……RADIOHEADの名盤『KID A』『Amnesiac』のために制作されたアートワークの画集『KID A MNESIA』(洋書)
ボールペン画、コラージュ、粗いデジタル画などがぎっしり300ページ以上詰まって、あの圧倒的な虚無世界をビジュアル構築
ロゴッくま(そんな名称はない)もあちこちに登場!
551.空想東京百景 (ゆずはらとしゆき/講談社BOX)
講談社BOXが生んだ"人工奇書"『空想東京百景』を掘り出したいのだ
漫画、ビジュアルノベル、小説、設定集が目まぐるしく入れ替わりながら、少女探偵らが暗躍する異形の戦後史を形成する都市伝奇譚
創作者なら誰もが焦がれる圧倒的架空世界そのもののパッケージ。現代では実現困難な迷宮的レイアウト!
552.小山田二郎展 異形の幻視力 (小山田二郎/東京ステーションギャラリー)
古本屋で偶然出逢った小山田二郎の図録が凄かったのだ
画布が傷だらけになるほど激しいタッチで描かれる、シュルレアリズムの怪奇幻想。病で変容していく己の顔に対する葛藤を塗り込めた絵に塗り込められた、強烈な死と自虐の匂い
晩年は家族を捨て愛人の元へ失踪。鴨居玲あたりとも共鳴するかも〜
553.ぼくの妹は息をしている(仮) (鹿路けりま/電撃文庫)
『ぼくの妹は息をしている(仮)』奇書すぎたのだ……
この表紙でこの中身!春樹や澁澤を引きつつくどいほどの修辞が施された文体と、世界が嘘をつくハードSF。仏教観と科学が入り混じる奇妙なロジックで語られる物語生成論は、近年のAI小説問題と重なったりも
円城塔がゼロ年代エロゲに転生したよう!
554.神と黒蟹県 (絲山秋子/文藝春秋)
『神と黒蟹県』玄妙だったのだ……
謎の機械を扱う企業、二つの蕎麦屋に同時に現れる神、入口のない異世界ファミレス……時折「ん?」と引っかかる描写が混ざりながら淡々と流れていく地方都市の日常風景
ありそうな資格や山菜が架空で、なさそうな植物や鉱物が実在する妙も素敵。これぞ小説の滋味!
555.眠りの館 (アンナ・カヴァン/文遊社)
アンナ・カヴァンの最新邦訳『眠りの館』うっとりするほど良かったのだ……
此の世のそれのは異なるロジックで紡がれる、繊細で静謐な幻視の欠片。とろとろと流れ出す白昼夢の隙間から幼き日の記憶が溢れだす――
まさに「夜の言葉」。痛みの結晶文学『アサイラム・ピース』と対をなす名品!
556.カフカの日記 新版 1910-1923 (フランツ・カフカ/みすず書房)
『カフカの日記』新版がついに発売!
2段組500ページ強5500円(……安い!)。出来事の記録の途中に思いついた会話劇が始まる。短い走り書きに夜の孤独が滲む。人ひとりの散らかった思考がそのまま詰め込まれている迫力。手が書いて、手が考えている。記録文学の神髄
我ら絶望の王の魂に謁見するのだ
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