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2023 9.27 東郷湖から海へ

岡山県美作の「カフェやまびこ」の店主、岩本和晃(カズさん)さんはカヤック名人で、アラスカを旅したりするダイナミックな旅人だ。今日ははるばるカヤックを持ってきてくれた。
朝10時に汽水空港前に集合。カズさんはカヤックを二艇、車に積んでさっそうと登場した。湯梨浜町に暮らし始めて11年。初めてこの湖を見た時から舟で横断したいとずっと願っていた。とうとう夢が叶う。喜びでニヤニヤがとまらない。みちくんは2歳にして湖から海まで繰り出すという大冒険をする。大好物のゼリーもばっちり持ってきた。準備万端。
カヤックは意外と軽い。カズさんと二人で軽く持ち運べる。湖の際に浮かべると「じゃあアキナさんとみちくん乗ってみようか」とカズさんは促す。おお、もう始まっちゃうのか。アキナたちは前方に、僕は後方へ乗り込んだ。大冒険はあっさりと始まってしまった。渡されたパドルと教わった舵取りでおもむろに漕ぎ始めるとスイスイ進んだ。初めて自転車に乗った時のような爽快感。水面との距離が近く、カヤックが生む水の波紋が幻想的だ。偶然通りがかったミキティは笑いながら僕らの船出を見送ってくれた。
まずはずっと気になっていた湖面の別荘っぽい家を目指した。僕が勝手に「村上春樹の家」と名付けている素敵な家だ。近くで見る春樹の家は人の住んでいる気配があった。あんまりジロジロ見ちゃだめだなと通り過ぎ、そのまま下照姫が白蛇を放したという伝説のある宮戸弁天を目指す。カヤックの上は風が気持ちよくて、乗り込む時に怖がっていたみちくんは漕ぎ始めて5分後には熟睡してしまった。
道路からは見えない位置の池沿いには、かつて使われていたであろう船着き場が幾つもあった。今は竹藪で船着き場には行けないけど、昔はもっと開けていたんだろう。じっと見ていると、船着き場で当時の衣を着て舟を手繰り寄せる寡黙な老人の姿がうっすらと見えるような気がした。当時の風景の中に入り込んでみたい。
人が辿り着けないエリアに入ると、サギやカモが悠々と過ごしていた。ここは彼らのフィールドなんだろうな。普段見る姿よりも堂々としていて、至近距離まで近づいてもなかなか逃げない。青々とした木々、水面から突き出た岩、カヤックに吹く風。いつも生活している場所なのに水上に出ると全く違う。「ここまで来たら誰にもなんにも邪魔されないなあ!」と言うとカズさんは笑っていた。
しじみ漁師たちの印であろう竹を避けながら宮戸弁天まで漕ぎ、それからいよいよ町を目指す。池は町の川へと続き、そして海に到達する。町の橋の下を潜る度に奇声を発して音の反響を楽しんだ。釣り人もよく声をかけてくれる。「気持ちよさそうですね~!!」と。気持ちいいっす!最高っす!と答える。4つか5つの橋をくぐると水門があった。全く知らなかったけど、水門は自由に開けていいことになっているらしい。スイッチになっているレバーを引くとゆっくりと開き始めた。ちゃんと信号機もついている。門が開き切るまで10分程だったろうか。みちくんが目覚めた。舟の上でさっそくゼリーを食べ始める。乗る時はあんなに怖がってたのに、もう慣れて余裕の表情。
信号が青に代わり、再び舟を進ませる。陸が近いと自分たちの進む速度がよく分かる。カヤックは軽いジョギングくらいの速さだ。左右の岸にはサギがいて、一定の距離まで近づくと羽ばたいていく。みちくんがその度に歓声をあげる。海が近づいてくるにつれて水が透き通ってきた。水中の魚もよく見える。池ではあまり触れたくなかった水だけど、この辺りからみちくんは手を水に浸しながら進んだ。子どもでも清潔さや心地よさの基準がちゃんとある。
最後の橋を潜ると、その先に海が見え始めた。見通す遥か先まで何もない、ただ海だけが広がる光景。池から町を通り過ぎて海へ出ると、その光景に圧倒される。普段からしょっちゅう海を見ているのに。
海へ出た途端に波がザブザブと舟を揺らしてきた。高い波の上に乗ると下がる時の重力を感じる。あ、これは完全に船酔いするやつだ。というか既に若干酔っている。そう判断して、早く陸へ着こうと今日最大の力と回転速度でパドルを漕ぎ、息を切らして上陸。僅か2時間程度舟に乗っていただけなのに、久々の陸の上という感覚があった。

見渡している山、湖、海、まだ知らない風景がたくさんある。アキナとみちくんを連れて全部味わおう。


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