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遠くまで泳ぐ

ずっと言えずにいたこと。先日、父親にようやく恋人がいることを打ち明けた。いいんじゃない、とゆるい感じで受け入れられた。父親はずっと気が付いていたけれど、言わずにいたらしい。お前の人生なんやから、好きに生きたらいいんや。そう言って父は笑った。思った以上にすんなり受け入れられて、拍子抜けした。

秘密を抱えたまま生きるのは苦しい。抱えた秘密のぶんだけ、ずんと心に重さが増すような気がする。いつ打ち明けようか、ずっとずっと悩んでいた。隠すほどのことでもないはずなのに、なぜだかなかなか言い出せなかった。緊張はしたけれど、やっと話すことができてなんだかすごくほっとした。

父親は今年の春で仕事を辞める。まだまだ働き盛りの年齢だけれど、やっと本当に自分のやりたいことをやるのだ、と言っていた。親の敷いたレールの上を走り続けるのはもう嫌だ、このままだと壊れてしまうと。

私も仕事に悩んでいたから、ふたりでこれからについていろんな話をした。現実的な話から、こういう事ができたら楽しいだろうな、という夢の話まで。一緒に無職になろうぜ、と冗談めかして言われたりもした。まだまだ悩んでしまうけれど、話しているうちにまあ人生なんとかなるだろう、そう思えてきた。

仕事。3年間頑張ってきた。もう遠くまで来てしまったような気もするけど、新卒で入ってこの仕事しかしていない。まだまだ全然狭い世界しか知らない。この仕事が向いていると思えたこと、あんまりなかった。もう少しいける、もう少しいけるはずとだましだまし頑張ってきたけれど、今日はとうとうぷつんと自分の中で何かが切れてしまった。ああ、もうこれで辞めても後悔しないだろうな、そう思えてしまった。

やさしい先輩たちや、相棒同然の同期や、愉快な後輩。人間関係には本当に恵まれていたと思う。それでも自分に向いていないことを綱渡りみたいな精神状態で続けること、もう疲れてしまった。自分にこれ以上嘘をつき続けられない。今のとてつもなく苦しい気持ちも、躁状態になるとまたすっかり忘れてしまうんだろうか。

進むのも、退くのも、どちらもすごく勇気がいる。それでも。今度はもうすこし自分に向いていることを頑張っていくほうがいいんじゃないかと思えるようになってきた。仲良くしてくれていた人たちも、辞めたからといって永遠に会えなくなるわけではない。今よりももう少し遠くへ。自分を自由にできる場所まで泳いでいってみたい。