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2年越しで見た映画『コンプリシティ/優しい共犯』(2018)

2018年国際映画祭で初上映、日本国内劇場公開は2020年1月という近浦啓監督作『コンプリシティ/優しい共犯』(2018)。
外国人の就労関連ニュースを年間700本読んでいる私としては、作品未見のままレビューやインタビューを大量に先に読むことになってしまっていたタイトルで、えー俺もう本編見ないままじゃね? って諦念があったのですが、先月から各種ストリーミングサービスで観覧可能になり、ようやく見ることができました。

技能実習制度についての知識がまったくない人が見ても何の話かちゃんと分かる、エンターテイメントとしての足腰の強い作品だったことに、まずは感心。
「外国人が日本で働くときのビザでしょ、技能実習」
「人権侵害とか、なんかよくない話きくよね」
「ドラマで見たことある、ベトナム人とか」
ぐらいの断片的な情報のお客さんにも、私みたいにうるさい人間にも、等しく大丈夫な作品。たとえば私みたいな人間が何を思うかというと

・来日前のブローカーは描かれるが、来日後の監理団体は描かれない
・というかそもそも技能実習の様子は描かれない(逃亡後の日々のみ)
・つまり何故、主人公がこういう境遇なのかは説明ないけど、それはそれでいいのか。いいんだろうな
・物語の舞台、山形県大石田町に居住する外国籍のひとは60人。そのレベルの自治体に転入したら(住民票を届け出る必要あるので)あっという間にプライバシーまるはだかになるとは思う
・山形から水沢競馬場まで遠くないか。でも蕎麦職人の休日っぽいよなー
・「わ、古い」って思ったのが劇中使用される1987年の音楽ではなく、2016年のアニメなところは、近過去だから腐りやすいのか、それとも作品が持つパワーの問題なのか。5年後に見たらまた感想変わるかな
・しかし主人公の俳優、すばらしいよね

そういう話以外だと、どうしても

不法就労の外国人を働かせたり、不法就労をあっせんしたりした場合は、入管法の「不法就労助長罪」に問われます(入管法第73条の2)。 罰則は3年以下の懲役または300万円以下の罰金、もしくはその両方です。

ってトピックを思ってしまうわけですが、せっかくなのでそっちの話も書いておきますね。

・飲食店で調理可能な在留資格って実は取得のハードル高いんです
・技能実習では認められていない
・調理師専門学校を卒業するか、和食の海外普及という目的に基づく特例として許可されるかが王道だから、実は主人公が蕎麦屋に住み込むまでの設定に飛躍はある
・ただ、留学生が学校に通うかたわら飲食店アルバイトをするケースはままあるわけで、在留資格に詳しくないひとからすると、へえ中国から来たんだ、えらいねえ。ってぐらいの感想で終わる話です
・そのぐらいの解像度で生きてきて、何の不都合もなかったわけですよね、われわれの社会
・ところが昨今「在留カード等読取アプリケーション」だのなんだの、ものすごくうるさいことに

この人は正規の在留資格を持っているのかいないのか。
いちいち頭を悩ます必要がある社会は不健全。
だからいっそ外国人なんか受け入れなければいいんだ。
という考え方が一定の支持を得ている現実は、私には「寂しい」ものですが、詳しくそのココロを見てみると(自分も外国人として海外に居たことがあるから)がいちばん大きな理由ながら、在留資格をとやかく言わなかった時代と、今の日本の最大の違いは国としての寛容度が下がったこと。
そしてその理由は一も二もなく、国としての衰えだと思っていて、それがね、寂しいなあ、って思う正体な気はします。

昨今の「不正規滞在は厳罰に処す」って政府方針が、オリンピック開催を根拠としていることは何回か書いた通りなのですが、じゃあこの夏が終われば昔見たいにユルい社会になるのか。
さすがにそれはないと思うし、この映画の主人公のような、なんらかの理由で不正規滞在となってしまったひとたちをすべて無条件で許容しろ、というのもまた現実的ではない。
ただ、判断のベースが法であっても、運用においては人間の判断が介在するゆとりは残せるのではないか。それぐらいには社会は進化したよな。
……なあ?

an image from IMDb

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