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53 不妊治療を盾にとる男

いくら子持ちの男と不倫していても、相手の妻にさらに子どもが産まれたら嫌気がさすはずだ。

嘘をつく人間は嘘の中にほんの少し事実を織り交ぜる。A子が以前教えてくれたこの言葉をわたしは噛み締めていた。

二人目がなかなか授からなかったので、不妊治療の現場に足を踏み入れたことは確かだ。だが、結果的には治療はせずに、一年ほどで自然に授かることができたのが次男だ。

Zと関係を続けるためには夫婦に肉体関係があってはまずい。そのためには次男は体外受精で授かったことにしたのだろう。

そうでもしなければ関係は続かないはずた。
この一瞬に道理が通っていろいろなことが腑に落ちた。

感情は押し殺したまま、わたし続けた。

「夫の不倫相手がわたしの知らない人ではなくて、他でもなくあなただと知ったときの私の気持ちが分かりますか?人生で味わったことのない感情です。以前にも不倫を疑って、お話しをさせていただき、尊敬しているあなただからこそ私は信じました。あれからもずっと信じていました。
あなたのお顔がSNSにあがってくると、あぁ、元気そうだなー嬉しいなぁと思いました。あなたがお仕事で関わった商品を使うときは、いつも温かい気持ちになりました。
そんな風に信じてきてやさしい気持ちで見守っていた私はすっかりあなたに裏ぎられました。
本当に悲しく切なくどうしようもない気持ちです」

蚊の鳴く様な声で「ごめんなさい」とZとが言った。

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