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56 一括か分割か

不倫をした際の慰謝料の請求は例えば五百万円を請求すると、不倫したもの同士で折半するのが通常だ。その割合は不倫した二人で決める。
ただ、わたしはZへはZへの、夫へは夫への慰謝料の請求を望んでいた。

夫には他にも不倫相手が多数いる。夫へはその事実をもとにZと同等の慰謝料の請求をするつもりでいる。

そのために合意書には慰謝料の求償権を盛り込んだ。求償権とは、簡単に言うと請求した金額を自分だけで払ってね、というもの。

事前調査でZの年収とおおよその家賃は握っていた。年齢と勤続年数から貯金は一千万以上はあるはずだと踏んでいた。

一括で支払えると考えたわたしは合意書の紙を差し出しながら聞いた。

「一括で支払えますね?」

「いえ貯金がそれほどなくて…」

「あなたの年収もお住まいの家賃も存じ上げております。貯金がないんですか?」

「コロナ禍で会社全体の業績も落ち…」

そんなことはどうでもいい。一括で支払えないのなら分割で支払ってもらうまでだ。わたしは準備しておいた「分割用」の合意書をカバンから出し、一括用と差し替えた。

内容をひとつひとつ読み上げて確認した。

わたしは夜な夜な読み込んだ慰謝料の合意書や法律が頭に入っている。

一方、目の前の相手は青天の霹靂の中で、不倫相手の妻が読み上げる同意書の内容が耳に届いているかも疑問だ。でもそれはわたしの知ったことではない。

貯金額の一部を三日以内に振込むこと、毎月末とボーナス月の支払い金額を決めて、口頭で了承を得たものを手書きで合意書に追記した。

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