60 赦しがたい涙
ずっと感情の欠如した受け答えだった夫が、子どもたちの話が出た途端、嗚咽とともに泣き出した。
被害妄想の中の嗚咽。無反応でも煮え切らないが、泣き崩れる様子はそれはそれで反吐が出る。
何年もの間、子供に会える時間をすべてZの家で過ごしてきた人間がなぜ今更泣くのだ。
「泣くくらいなら早く帰ってきて子どもたちとの時間を過ごせたでしょ!?それをせず、毎晩毎晩女の家にいき、出張をごまかして外泊して。そんな人が今更泣くなんてお門違いもいいところだ!ふざけるな!」
怒りで声が震えた。
わたしがあれほど仕事を調整して家族の時間に費やしてほしいと懇願しても「誰が稼ぐんだ」と罵倒したその裏で不貞を続けた人間が、我が子恋しさに泣くことはどうしたって赦しがたかった。
もうここで話すことはない。
夫には週末に会うと伝えて電話を切った。
わたしはここまで来る間、離婚をすると子どもにどのような影響があるのか、情報を拾い集めてきた。
どんな本を読んでもネットで検索しても、離婚をするのなら子どもが未就学児のうちに。小学生にあがると必ず傷つく、と書いてあった。
小学一年生と一歳児。
長男の心のことを考えると本当に前に進むべきか悩み続けた。
不倫をする夫に耐えられず離婚することで子どもを傷つけていいものか。わたしが我慢すれば子どもは傷つかずに生きていけるのか。
この永遠に出口の見えない逡巡を吹っ切るほどの事実が、実はこの騒動の中で発覚していた。
お金の問題である。