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ただの恋愛ドラマと侮るなかれ。愛の不時着

北朝鮮って、こんな国なの!?
女性の肌が綺麗。まぁみんな女優なんだけど。
服のセンスがいい。まぁドラマなんだけど。
ハングルの発音が韓国よりかっこいい。賢そうに聞こえる。
まぁドラマだから発音真似してるだけだろうけど。

 韓国ドラマ「愛の不時着」は新型コロナウイルスの影響で、家で過ごす人が増えて「梨泰院クラス」と共に爆発的に人気が出た作品だ。
 “禁断の愛”を全面に打ち出して宣伝している恋愛ドラマで、このドラマが好きな人は「ヒョンビンかっこいい」しか言わないけど、そこはどうでもいい。私が見て欲しいのはこのドラマを介して描かれた北朝鮮という国家だ。

 このドラマの見所は禁断の愛でもヒョンビンの顔でもなくて、北朝鮮という国の現状をここまであからさまに描いている点だと思う。北朝鮮のニュースには欧米諸国よりも敏感な日本人でも、北朝鮮の内情は調べようと思って調べないとわからない。韓国では脱北者が出演するバラエティ番組があって、そこでは面白おかしく北朝鮮の様子が語られるらしいが、日本でそういった番組を目にする機会は滅多にない。その北朝鮮が映像化されている。

 愛の不時着はドラマだ。しかも韓国ドラマだ。韓国ドラマはしばしばフィクションを超えてファンタジーの域に達してしまう。ワープなんかは誰でもできるし、時空を操ることもできる。だけど是非その部分には目を瞑って北朝鮮の映像を楽しむ目的で見てほしい。大丈夫、愛の不時着はコメディなので。

 愛の不時着で描かれた北朝鮮には興味を惹かれるシーンがいくつもある。例えば、セリ(韓国の女性)がジョンヒョク(北朝鮮の軍人)の着衣についている星のマークを発見した時の驚き方。日本人であのマークを見ただけで「北朝鮮の軍人だ」と認識する人はどれほどいるだろう。半数にも満たないのではないか。だがセリは一瞬でそれを認知した。それは“韓国人ならばすぐに気付くもの”ということを示している。それだけでも韓国と北朝鮮の関係が垣間見える。とても面白い。

 それから招待所という名の別荘みたいなところに、韓国籍の指名手配犯を住まわせるシーン。ああいったことも日常的に行われているのだろうか。結構地位の高い軍人が裏で手を引いていた。金さえ払えば国際指名手配犯でも匿うということなのか。なかなかに賢い。北朝鮮に隠れられたらちょっとやそっとでは探し出せない。

 それから私が一番興味を惹かれたのは38度線周辺の景色。非武装地帯だ。南北に各2kmの距離で設定されている。あんな風に普通に歩いて行けるものだと思っていなかった。アスファルトの道にも驚嘆した。あの道はどうやって作ったのだろう。38度線の北と南でお互いの国の業者が鉢合わせることを想像するとちょっと面白い。実際は軍人が警備していて自由に行き来することなんかできないんだろうけど、軍人同士は普通に情報交換したり友達になったりできそうな距離感だった。国境周辺の警備をしている韓国と北朝鮮の軍人が友人関係にあったらすごく面白い。「南北共同連絡所爆破しちゃったよー」「それなー」とかいう会話をしていてほしい。

 このドラマを見る前、私の持つ北朝鮮のイメージは「管理されている」とか「監視されている」そして「支配されている」というものだった。いわゆる社会主義国家のそれだ。だから国民はみんな怯えながら生きているのではないかと想像していた。お互いがお互いを監視しあって、密告し合って足を引っ張り合っている、そう思っていた。だけどドラマで描かれた人々はとても明るく、生きることに前向きに見えた。軍人とその家族が住む村が物語の舞台になっていたので、そこは色眼鏡で見る必要があるが、このドラマで描かれた北朝鮮は私が想像しているよりも全然悲惨ではなかった。

 一度だけホームレスの子供が盗みに入るシーンがあった。それから終盤にその子供に米ドルをあげるシーンがあった。日本なら絶対に円だ。日本の子供にドルを渡したら「これなに?」って質問されるだろう。お金だよって言っても信じないかもしれない。他国の通貨の価値がわかる子ども。それもまた事実だろう。

 北朝鮮や、韓国と北朝鮮の国家間の問題に興味がある人は是非見て欲しい。韓流嫌いの人にも薦めたい一本だった。今はNetFlix限定配信だけど、是非地上波でも放送して欲しい。恋愛ドラマと侮るなかれ。


おわり。

画像引用:日本経済新聞

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