分類学(と、分類学者の貴重な生態)について語る(2023.1.29)イベントレポート

こんにちは、学問バーKisi 店長の豆腐です。

今回は、先月29日に開催されたイベント「分類学(と、分類学者の貴重な生態)について語る」のレポートをお送りします。
日替わりバーテンダーを務めてくださったのは、東京都立大学理学部生命化学科に特任研究員として在籍しておられる、なみきく土也さんです。

子どもの頃に生き物に興味を持ったことのある方であれば、おそらく図鑑に小さな文字で記載されている「学名」を、一度は目にしたことがあるかと思います。
分類学はまさにあの学名を生き物に付けていき、生き物を体系的に整理していく学問です。

そもそも分類学って何をする学問なの?

当日は、なみきくさんご自身が発見された新種の紹介や、どのようにして新種が見つかり分類されていくのかについて、興味深いお話をたくさんいただきました。
なみきく土也さん、あらためて今回はありがとうございました!

以下のパートでは、当日の具体的な議論の内容や、日替わりバーテンダーさんご自身の赤裸々な感想を掲載しております。
今回は実に内容豊富な大ボリュームのレポートをご執筆いただいたということで、なみきくさんご自身が執筆された文章の一部を、特別に無料で公開いたします。
後半の有料部分は、ぜひマガジンをご購読のうえお楽しみいただければ幸いです!

なお、当店noteの記事やマガジンの売上金の50%は、当店を通じた研究者支援に充てられます。

また、当店では日替わりバーテンダーのご応募をTwitterのDMもしくはこちらのフォームより常時受け付けております。
応募の方法について一通りまとめたnoteもございますので、よろしければご参照のうえご連絡ください。



イベントレポートをお読みいただきありがとうございます。学問バーkisi で2023年1月29日に「分類学(と分類学者の貴重な生態)を語る」バーを開催しました、なみきく土也@Namichneumonと申します。専門は昆虫分類学で、特にヒメバチという寄生蜂(他の昆虫に寄生して成長するハチの仲間)を研究対象としています。北海道大学で博士(農学)を取得したのち、現在は東京都立大学で特任研究員として働いています。
このレポートでは、当日にお話させていただいたミニトークの概要、頂いたご質問と回答、そして今回、初めて学問バーでのイベントを開催しての感想を書いていきます。

分類学(と分類学者の貴重な生態)を語る ミニトーク

「分類学とはなにか?」

ここでいう「分類学」とは、生物分類学、taxonomyと呼ばれる学問分野のことです。分類学で行われいてるのは、“学名”という世界共通で使われる名前を生物につけ、それぞれの生物を階層的な“分類体系”の中に位置づけていく営みです。生物が学名をもち、体系的に整理されていることで、世界共通で同じ生物を同じ名前で呼び、同じ生物に関する知見を蓄積することができるようになります。つまり、生物を人類の知識体系の中で扱うための基盤的なインフラ整備ともいえるのです。

「分類学者はどこにいるのか?」

このテーマでは、キャリア的な観点と、分類学者の「生態」の観点からそれぞれ紹介しました。
他の研究者と同じように、大学の研究者としても多くの分類学者が在籍しています。生物を対象とする学問分野ですから、理学部生物学科ではさまざまな生物を対象に分類学の研究が行われています。また、絶滅した生物を研究対象とする場合、化石を扱う必要があります。この材料の特殊性から、古生物の分類学は地学系の学科で行われることが多いようです。対象とする生物の性質と研究の歴史から、害虫の分類から始まった昆虫や、有用植物を含む植物、菌類などは農学系でも分類学の研究室が多くあります。水産資源として重要な魚などの水産生物の場合は、水産系の学部にも分類学の研究室が置かれています。
大学で分類学を修めた研究者は、博物館の生物系学芸員などにも多くいます。自然史系の博物館博物館資料のほとんどは生物の標本であり、分類学者がもっとも扱いに長けるものといえます。また、公立や国立の農業・水産試験場にも、先に述べたようにそれぞれの分類群の分類学者が在籍しています。
「生態」の観点から見ると、分類学者は自分の研究対象を収集するため、フィールドに出て採集することは欠かせません。しかし、自分で採集することだけでは、膨大な生物の種数に立ち向かうためには不十分です。そこで、分類学者は博物館などの標本収蔵施設を回ることになります。収蔵標本から未知のサンプルを探すだけではなく、先行研究の証拠となった標本を観察し、場合によってはその誤りを正すことも重要な仕事です。手に入れた標本も、そのままでは観察が困難で、解剖や特殊な処理が必要なことも少なくありません。また、現代の分類学では、生物の形態だけではなくその遺伝情報(DNA配列)も含めて扱うことが多くなっています。そのため、実験室にこもってなんらかの実験をしている時間も、分類学者の生活の一部となっています。

「新種とはなにか?」

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3,518字

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